世代を問わず多くの生活者が、SNSや動画プラットフォームを通じてブランドや商品と出会い、興味を喚起され、そのまま購買・利用へと進むケースが広がっています。従来の「検索起点・比較検討中心」の購買プロセスから、「発見」を起点とした行動へと変化する中で、購買検討フェーズにおける意識・行動はどのように変わったのでしょうか。本稿では、博報堂とTikTok for Businessが共同で実施した定性・定量調査をもとに、SNS・動画プラットフォームにおける企業の「情報発信のあり方」について考察します。
現代の情報行動「タイムライン・ノイズキャンセリング」とは?
10代から50代までの生活者1,000名を対象に実施した定量調査のデータを詳しく見ていくと、現代の生活者が直面している情報過多な環境と、それに適応するための高度な情報処理メカニズムの存在がくっきりと浮かび上がってきます。
まず注目したいのが、情報との「出会い方」の変化です。定量調査において「新しい情報に出会うきっかけは、SNSやタイムラインが主である」と回答した人は全体の38%にのぼりました。この傾向は若年層ほど顕著で、10代では65.4%、20代では54.4%とSNSやタイムラインで新しい情報に出会う人が多数派です。
しかし、生活者はこの情報の波に無防備に身を委ねているわけではありません。
「情報が多すぎて、どれを信じればいいかわからなくなることがある」と回答した人は、全体の57%と過半数を占めました。一方で、定性調査のインタビューでは、「SNSで見たスポットが綺麗すぎると、『本当にこのままなのかな? 加工なのでは?』と疑って別のSNSで調べる」(23歳女性)、「間違っているかもしれないと思うと、AIにファクトチェックをさせる」(43歳男性)といった声が聞かれました。
新しく触れる情報に対して警戒心を抱いており、情報の取捨選択に疲弊している実態が見て取れます。
だからこそ、タイムラインには「興味のない話題は入ってこないでほしい」とすら思う方が約6割。流れてきた情報が「いま見たいものか」を瞬時に判断し、興味ないものや信頼できないものがなるべく流れてこないように「タイムラインを育てよう」とする動きも見られています。
次々と流れてくる情報に対し、「これはいま自分が見たいものか」を一瞬で判断し、そうでないと判断された情報は“ノイズ”として容赦なくスルー・排除しようとする。そんな生活者の行動を「タイムライン・ノイズキャンセリング」と名付けました。
タイムライン・ノイズキャンセリングが見られる環境下では、企業が「伝えたい話」を一方的に押し付けるだけの発信は、即座にノイズと見なされ弾かれてしまうケースも少なくありません。
実際に、生活者に届いている企業発信は、「限界OLのストーリー仕立てでまったく広告っぽくない動画」(26歳女性)や「赤いボトルが珍しく、アイドルが可愛いから最後まで見てしまう動画」(23歳女性)など、一方的な情報発信ではなく、「いま見たい”コンテンツ“」として成立しているものが多くなっていました。
情報の壁を突破する鍵は7つの「コンテンツ欲」
このタイムライン・ノイズキャンセリングの壁を突破し、企業の発信を届けるにはどうすればよいのでしょうか?前提として、これからのマーケターに求められるものは従来の「マーケット発想」だけでなく、「タイムライン発想」も持ち合わせながらブランディングを行っていく姿勢です。
マーケット発想とは、ブランドが生活者のカテゴリーニーズを捉え、「これがほしい」と思ってもらうことを目指す従来型のアプローチを指します。対してタイムライン発想とは、生活者がタイムライン上で“いま見たい”と感じる「コンテンツ欲」を満たすことを起点とし、情報を受け入れてもらうことを目指すアプローチです。
つまり、ユーザーのコンテンツ欲を満たして生活者に受け入れられる必要があるのです。では、実際に受け入れてもらえるSNS/動画広告とは、どういったものなのでしょうか?
今回の調査から、タイムライン上で生活者が求めている根源的な「コンテンツ欲」は、以下の7つに類型化できることがわかりました。
- 癒し・高揚欲:見ているだけで心が満たされる、胸が躍るコンテンツを見たい
- 自己肯定・承認欲:自分のことを肯定し、自信を与えてくれるコンテンツを見たい
- 損失回避欲:自分だけ損をしたくない、ラッキーな情報に気づきたい
- 安心・確信欲:嘘偽りがなく、失敗を防ぎ安心して信じられるコンテンツを見たい
- 知識・発見欲:役立つ情報や、人に語れる面白いことを知りたい
- 共感・つながり欲:自分の気持ちを共有したい、共感できる本音を知りたい
- トレンド・参加欲:流行の輪の中にいると実感したい、盛り上がれる話題が欲しい
これらの欲求は単体で独立しているわけではなく、生活者の気分や状況によって柔軟に形を変え、複数の欲求が組み合わさることでさらに強い視聴態度を生み出します。
これらのコンテンツ欲は購買行動にどう寄与するのでしょうか? そのメカニズムを解明するために、SNS・ショート動画をきっかけに購買行動を起こした15人の生活者への定性調査をとおして、どういったプロセスが生じていたかを観察しました。
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- この記事の著者
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奥村 伸也(オクムラ シンヤ)
株式会社博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター
消費財メーカー・耐久財メーカーから、サービス系企業まで幅広く、マーケティングコミュニケーション戦略立案を行う。プラットフォーマーデータ活用についての研究にも注力している。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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奥村 耕成(オクムラ コウセイ)
株式会社SIGNING ストラテジスト/株式会社博報堂 プラットフォーマーデータハブ
飲料、自動車、人材、金融、製薬など、幅広いカテゴリーの戦略プラニングを担当。2025年より博報堂からSIGNINGへ出向し、兆し発想×プラットフォーマーデータのシナジーを探索中。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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