米国最新情報レポート「MAD MAN REPORT」を毎月発刊している榮枝洋文氏の視点を借り、国内外の企業の動きやグローバルの潮流を解説している本連載。今回は、「AI活用のコスト」に着目した。AI企業各社の巨大投資が、ユーザー(利用企業)側の負担すべきコストとなった時、AI活用を前提とした広告会社のビジネスモデルはどうなっていくのだろうか。
AIの「早い・安い・すごい」は今だけ
Anthropic社のAI「Claude」の一般ユーザー向け版のAI「Claude Cowork」を2026年1月に発表したあたりから、業界は「アンソロピック・ショック」と呼ばれるほどに騒がしくなった。
これまでのAIは、いわば「気が利く図書館員」であり、質問に対して優秀な回答を返してくれる存在に過ぎなかった。しかし現在は、AI上に配置された専門エージェント群を、利用者がCEOやCOOのごとく指揮・統合する「オーケストレーション」の時代へと変化している。この「丸投げの快楽」を巡り、Anthropicだけではなく、OpenAIやMicrosoft、Googleなども熱狂的なスピードで進化を競い合っている。
しかし、AIが「早い・安い・すごい」と手放しで喜べるのは今だけだ。現在はいわば「お試しキャンペーン中」であり、AI企業各社が兆円単位で積み上げている先行投資を楽しませてもらっているに過ぎない。いずれ我々ユーザー(利用企業)が負担すべき実コストへと姿を変えてくる。
AI機能を社内導入するとは、これまで人間が行っていた知的な作業そのものを、電気や水道と同じく使った分だけ料金を払うサービスのように、従量制のユーティリティへと変質させる行為である。しかもそれは、過去の何百倍もの莫大量を一気に積み上げる計算仕事である。
今後、この計算量=成果量を測る単位である「AIトークン」が新たな事業通貨となり、労務費と同様に、経営のP/Lを圧迫するコストとして膨れ上がってくる。さらにトークン単価は「入力」より「出力」の方が高く設定されている(図1)。出力には「thinking(データ集計から推論)」のコストが含まれており、AIへの思考を深くさせればさせるほど、経営側からは見えにくい「出力変動費」が膨らむ設計になっている。
その上で、企業はそれを上回るサービスや商品価値を提供せねばならない。最高パフォーマンスを追いかけたい一方で、「なんでもかんでも無駄遣い」すればコストが急増するのも想像がつく。トークン価格設定は、今後数ヵ月、数年のうちにコンサルやエージェンシーの提案費用の大部分に膨れ上がる(参考:Anthropic/Claudeの場合のトークン単価例)。
ということは、トークンをいかに大量・安価に確保し、有効に利用できるかが、そのまま企業の競争力を左右する「原材料調達の勝負」になる。人件費以上に実は巨大なAIインフラコストと、トークンという従量課金費用の「効率価値の判断(使い道)」という難問が急浮上している。
この難題に対し、AccentureやWPP、Horizon Media、Anomalyといったエージェンシー企業はどういった戦略的防衛策をとっているのか、その最前線を見ていこう。
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榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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