PC領域のデータを活用してモバイル領域を強化する
――前回の記事では、楽天とSupershipによる取り組みの背景やサービスの概要を聞いてきました。今回の記事ではまず、楽天の消費行動分析データと、Supershipのオーディエンスデータおよびテクノロジーを組み合わせる今回のプロジェクトによって、どんな成果が得られるかを聞きたいと思います。
小林:データを使った広告配信在庫の拡大につながり、これまでリーチできなかった人に広告をリーチさせることができます。また今までよりも多くのデータを活用することで、スマートフォンのWeb/アプリのユーザー分析もよりしやすくなると思います。
渡邉:また、Supershipが接続している国内の広告在庫は質がよく、パフォーマンスに優れています。CPCが安く済むこともあり、その部分にこれまでとの違いを感じます。
小林:これまでの楽天DSPで発揮できていたパフォーマンスと新生楽天DSPの配信パフォーマンスを比較した場合、CPCにおいて今回のほうが良い効果を出しています。
スマートフォン上のブランディング活用の強化にも
――楽天の消費行動分析データと「ScaleOut Ad Platform」を掛け合わせることによって、ほかのDSPより親和性が高く、良いパフォーマンスが出せるということですね。
渡邉:はい。もともとPCのディスプレイ広告を中心にやってきたので、スマートフォンの広告在庫自体が多くなかったということも影響していますが。今回の取り組みで在庫の強化、配信精度を上げることについても効果が出ています。
楽天DSPはブランディング目的で使っていただくことが多く、その中でスマートフォン上でのブランディング施策に対する広告主様の意識が高まってきています。今回のパートナーシップで、「スマートフォン上でのブランディング」がよりしやすくなると考えています。
――なぜスマートフォン上でのブランディングがよりしやすくなるのでしょうか。
渡邉:ブランディング目的で施策を行う場合、調査を紐づけた測定が重要です。ファーストパーティデータに基づいてcookieおよびDeviceIDのマッチングテーブルを持ち、配信でもレポーティングでも一元管理が可能です。
また、グループ会社に楽天リサーチがあるため、調査に深みを出すことができます。言い換えると、データの利活用とマーケット調査をセットでできるプラットフォームなので、今後、ブランディング目的でのスマートフォン上の施策は更に浸透していくと思います。
クライアントに合わせてカスタマイズも
――ちなみにどういったデータの測定が現状可能なのでしょうか。
小林:広告が表示された人、広告をクリックした人、更にはクリエイティブごとのユーザー属性の違いなどを、個人を特定しないかたちで視覚化できます。ほかには、クライアントのサイト内に入ったユーザー分析も可能になっています。
――Supershipのオーディエンスデータ、もしくは楽天のデータに含まれている方がサイトを訪れたということが判別できれば、どのような属性のユーザーかがわかるということですか。そうであれば、配信にとどまらず、さまざまな可能性が広がりますね。
小林:弊社でも分析は行っていたのですが、これまでは年代、性別、趣味嗜好ぐらいの簡単な分析で終わっていました。しかし今回、楽天様と組んだことでさまざまなことが可能になりました。
年代、性別などの属性の分析はもちろん、ウェブ上でどれくらいの金額を使っているのか、どういう商品に興味を持っているのかまで分析することができます。ですので、今後の広告配信の改善にはもちろん、商品企画や実店舗の棚作りにも活かせるはずです。
両社が考える今後のサービス展望とは
――購買に紐づく情報があることは絶対的な強みですね。
小林:商品の購入だけでなく、「買う手前」のところまでの情報を分析できるのは、非常に意味があります。
渡邉:自社サイト訪問者をつぶさに追いかけるだけではスケールを出すことも難しいですし、何より「ライト」な潜在層の動向を把握することはできません。自社サイト未訪問の潜在顧客が楽天においてどのような行動をしているかが、マーケターにとっての貴重な情報源となるはずです。
ただ、それをどのように自動化してシステマティックにしていくかについてはまだ課題があり、市場のニーズに合ったものを開発しなければなりません。
――今後、どんな活用方法が見込まれますか。
小林:広告配信領域では、目標としているのはクロスデバイスでのユーザーコミュニケーションです。調査分析も進めていくつもりですが、クライアントごとに見たい項目、見たい情報、データの使い方が異なります。そのため、クライアントに合わせカスタマイズを行うか、どの企業でも扱えるプロダクトとしてリリースするか。いくつかの方向性があります。
渡邉:今回、両社が組むことによってできることが大きすぎて、一つひとつをプロジェクト単位に落とし込み考える必要があります。まずは、フリークエンシーのコントロール、リサーチ、テレビのリーチ補完などができるサービスにしていきたいです。
小林:広告配信での活用から進めていますが、今後は他のニーズも拾いながら開発を進める予定です。
デバイス横断のコミュニケーションを実現
――今後、このようなサービスが浸透することでどういった未来が予測できますか。
渡邉:海外では、世界最大手の広告会社であるWPPグループのメディアエージェンシーGroupM(グループエム)がデータユニット「[m]Platform」という独自IDを構築・活用する組織を立ち上げるなど、Google、Facebookに対抗するソリューションをエージェンシーがリードしながらやろうとしている動きがあります。その中で今回のサービスは、それらの対抗馬になりうると考えています。
時間ごとのデバイス利用状況を表した図を見ると、朝起きてから就寝するまで、どこでどんなデバイスを触っているかが想定できます。また、イントラデバイス――同じ端末内でもWebなのかアプリなのか、生活者のデバイス接触パターンを分析することもできます。こういった情報があれば、マーケターは「人ベース」のコミュニケーションプランニングを行いやすくなります。
小林:現状では、スマートフォンやPCなど、デバイスごとでしかコミュニケーションを取れていないケースが多い中で、近い将来、デバイスを横断して、ひとつながりのコミュニケーションが可能になるでしょう。
――スマートフォンを使っている人がPCを開くとこれまでは別の人として捉えられていたのが、クロスデバイスで同じ属性として捉えてもらえるのはユーザーにとっても良いことですね。
小林:先ほどお話ししたデバイスのなかには、テレビも含まれています。デバイスとしてはスマートフォンとPCがメインではありますが、コミュニケーションの接点になるものはほかにもあるはずです。今後、VR、IoTもどんどん増えていくでしょう。将来的に、すべてのデバイスを横断するコミュニケーションを実現したいと考えています。
ユーザーが望んでいないバナー上の広告やウェブ広告は、ときとしてユーザーから歓迎されないことがあります。ユーザーが本当に欲しい情報を、欲しいタイミングでお届けできるような世界を実現していきたいです。
より「何を届けるか」に注力できる時代に
――フリークエンシーコントロールができれば、解決の一歩になりそうですね。
小林:楽天の消費行動分析データがあれば、「この商品を買いそう」「これも欲しいはず」という予測モデルが作りやすくなります。「欲しい情報を欲しいタイミングで」は実現できます。
渡邉:わかりやすい例でいうと、ベビー用品が挙げられます。「オムツの次はトレーニングパンツ」のように、年齢に伴った購買行動の変化やパターンは予測モデルが作りやすく、そのような特徴的な購買行動は、広告主様にとっても有効なマーケティングデータになり得ます。
――最後に「これだけは伝えたい」ということがあればお願いします。
小林:データの利活用は今後ますます進化していく分野です。我々2社が協力するだけでもこれだけ大きな将来像を描けるので、データを保有するあらゆる企業様に、データ利活用の可能性を知っていただきたいですね。もちろん、利活用においてはユーザーへの配慮も欠かせません。
渡邉:「メッセージを誰に届けるか?」という部分は、テクノロジーの進歩により、実装しやすくなっています。そこは我々にお任せいただいて、マーケターの方々には、クリエイティブが担う部分、つまり「どのようなメッセージを届けるのか?」に集中していただきたいと思います。