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マーケと営業は上でも下でもない~「組織と人材」から考える、変化に対応し成功する企業の特徴

 マーケティングテクノロジーは、業務を大幅に助けるがゆえに、組織体制や働き方にまで影響を及ぼすことも少なくない。10月13日(金)に開催されたマルケトの「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」にて、このテーマにずばり切り込むセッション「マーケティングの組織と人材」が行われた。特にBtoB領域に焦点を絞り、マーケティングと営業の壁をどう乗り越えるか、また成功する組織の特徴などが存分に語られた。

他部門と密接に関わるマーケティングの業務

 セッションは、モデレーターの早稲田大学大学院の川上智子氏による「マーケティング・イノベーション・プロセス(MIP)」図の提示からスタートした。

マーケティングに関わる業務と組織
マーケティングに関わる業務と組織

 上記の図からもわかるように、マーケティングは非常に多岐にわたり、かつ長期的な業務で、R&Dとも各段階で必ず調整が発生する。伝統的に“ものづくり”が強い日本だとなおさらだ。「R&Dとの連携に関するマネジメントは、重要な研究テーマのひとつ。マーケティングと営業の間でも、マネジメントが必要なのと同じでしょう」と川上氏。

(左)シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎氏(中央)横河電機 執行役員 マーケティング本部長 阿部剛士氏(右)早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 川上智子氏
(左)シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎氏
(中央)横河電機 執行役員 マーケティング本部長 阿部剛士氏
(右)早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 川上智子氏

 約30年にわたりBtoB企業を支援してきたシンフォニーマーケティングの庭山一郎氏は、マーケティングというテーマについて「飽きた瞬間は一秒もない」と語る。その幅広い領域の中で、リードを営業につなぐデマンドジェネレーションの部分に特化してきた同社だが、マーケティングと営業とのインターフェースに触れ、「これが今、日本の非常に弱いところ。この部分を強化しないと世界に太刀打ちできない」と指摘する。

 かたや、約30年間インテルジャパン(現インテル)に勤め、マーケティングや技術開発・製造技術の統括、そして取締役を経て昨年より横河電機に参画している阿部剛士氏は、「有名な『Intel Inside(インテル入ってる)』のワードは日本発ブランディングの奥深さ、マーケティングの重要性を知った」と話す。

マーケにおける日本と米国の違い 感覚的に15年遅れている……

 今回のセッションでは、以下のアジェンダが掲げられた。

 (1)デジタル時代のマーケティング組織はどのように変革すべきか?
   ―米国と日本の違い
   ―営業や他部門との連携
   ―成功している企業の共通点
   ―テクノロジーの活用がもたらす組織変化
 (2)組織において求められる人物像について

 ICTの進化によって業務が変われば、最適なマーケティングの組織のあり方も変わってくる。まず、日本に比べてマーケティング先進国といわれる米国との違いについて、庭山氏は「感覚的には日本は15年遅れをとっている」と指摘する。マーケティングオートメーション(以下、MA)ひとつとっても、米国で普及したのは2000年。日本の進歩以上に米国での発展が著しいため、世界と戦うには組織変革を含めてさらにスピードを上げる必要がある

 阿部氏は日米の違いについて、マーケティングの地位とマーケティング資産に対する感度という2点を挙げる。日本は第二次世界大戦後の復興時に“ものづくり”で躍進し、メイド・イン・ジャパンのブランドを確立した。質を重視し成功したため、マーケティングの地位がそれほど高くならずにここまできているのだ。マーケティング資産の捉え方も狭く、広告やコミュニケーションに関することにフォーカスしがちだが、実はR&Dも資財の調達能力も、特許も工業デザインも「すべてが資産」だと阿部氏。その上で、資産をどう利活用するかを考える必要に迫られている。

 実際、純日本のトラディショナル企業である横河電機で、阿部氏はマーケティングコミュニケーションだけでなく、R&Dや特許室、新規事業開発、M&Aに関する部署も管轄しているという。

マーケティングと営業は上でも下でもない

 「R&Dまで管轄しているのは非常に画期的。先の図で最上位にCEOをおいているが、そこに極めて近いポジションにCMOの役割として阿部さんがいる」と川上氏。これには「CEOの理解が必ず必要」と阿部氏がコメントを加えた。

 ただ多くの企業では、マーケティング、R&D、そして営業の組織は分断している。またMAで効率的なコンバージョンが可能になっても、組織の問題でその真価が発揮されないこともある。どうすれば、理想的に連携できるのだろうか?

 庭山氏は、双方の仲が良くないというよりそもそも関係が弱い現状を踏まえつつ、「営業が『この会社には何度もアタックしたのに』とか、『この部門の部長にアポが取れたのか』と驚くようなところから案件を引き出せると、少しずつ信頼関係ができていく。経験上、1~2年すれば必ずうまく連携できるようになる」と話す。

 見込み客を啓蒙・育成して絞り込み、安定的に営業や販売代理店に供給する「デマンドセンター」をどの部署につけるべきか、という相談もよく受けるというが、その際は「マーケティングと営業は上でも下でもない、製造業でいうなら前工程と後工程。マーケターの仕事を評価するのは営業なので、それができるよう、デマンドセンターは小規模でも営業と分けたほうがいい」と答えているという。

 阿部氏も、組織のサイロ化による分断を指摘しながら、「MA、SFA、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)、DLM(デバイス・ライフサイクル・マネジメント)……たくさんのツールが登場してIT的につながると、組織も人もつながらざるをえない。ITサイドからの組織改善に期待している」と語る。

ツールの導入成功には、組織改編と人材流動、両方の柔軟性が必要

 ただ、ツールを使う人の側には、たとえビジネス上といえども心理や思惑があるのが難しいところだ。「うまくいっている企業は、その部分にも配慮しながら仕組みをつくっていると思う」と川上氏。成功企業の共通点について、阿部氏は欧米の企業を参考に「柔軟性、トップの熱量、顧客に見つけてもらう努力をしているか」という3点を提示する。

 特に柔軟性について、阿部氏の前職であるインテルでは毎年のように組織改編があったという。年ごとに戦略を変えるならばそれにしたがって組織も変えなければ、戦略が果たせないからだ。同時に、人材流動も当たり前に起きる。「それはある意味でダイバーシティ組織体制というハード、人材というソフトの両方において柔軟であることは不可欠」(阿部氏)。

 また庭山氏は、成功に向けて「スモールスタート」も提案する。ただし「本当に一部の部門内で終わってしまったら意味がない。“横糸”をつくれというトップからのミッションの下に始めるスモールスタートが奏功する」という。

 MAを導入してデマンドジェネレーションに着手する際、最初から大きな予算をかけて全社で取り組むのは難しいことが多い。むしろ、前述のように営業なら営業部門で閉じていたり、製品事業部ごとに研究開発から設計、工場までの縦のラインが強すぎたりすると、ツールを導入したのに有望見込み客を見つけるベースになる情報が集められないという事態にもなりかねない。「営業には『自分の顧客に触るな』、広報には『展示会で集めた名刺データは使用許可がない』といわれると進めない。これらを並行して解決していくというトップの意志が欠かせない」と庭山氏。

両極端な概念をうまくコントロールする“汽水マーケティング”とは

 縦割り組織の文化が強い日本において、組織を横断した横のつながりを強化する発想に川上氏も同意し、これはコーポレートブランディングにおいても必要だと指摘する。グローバルで見ると、時価総額ランキングやインターブランドのブランドランキングに、ランクインする日系企業はごくわずか。世の中に提供する価値を磨き上げ、グローバルに切り込むためにも、マーケティングが全社連携を率いることは必至といえるだろう。

 そして、テクノロジーが変えていく組織体制について阿部氏は「既にテクノロジーは世の中を“変えまくって”いる。同時に、様々な軸の上で物事が両極端に進んでいる」と指摘する。オンラインとオフライン、インバウンドとアウトバウンド、伝統的マーケティングとデジタルマーケティング……。当分は片方がもう片方を覆す事態にはならないと考えると、両方のバランスを取ることが重要になり、企業もそれに対応できる組織になることが求められる。この考えを阿部氏は、海水と淡水が混ざる汽水域になぞらえて「汽水マーケティング」と提示する。

 「人も年をとるが、組織も年をとる。組織も新陳代謝を高めることは大前提に、特に今はこの“汽水”部分をどうマネジメントするかが勝負を分けると思う」(阿部氏)。

 庭山氏も「テクノロジーの活用を見据えた組織づくりは非常に重要」と語る。たとえば最近注目を集めるABM(アカウント・ベースド・マーケティング)だが、キーアカウントに接触する手法であり「実行するには社内にデマンドセンターが構築されていることが大前提」だという。導入する仕組みを考慮して組織を構築するのは必須、と庭山氏。

失敗を恐れるな 小さく回して経験を積もう

 では、ここまでの組織の議論を踏まえて、マーケティングにはどのような人材が必要なのだろうか? 庭山氏、阿部氏とも、みずからの経験から「マーケティングは学べるもの勉強する姿勢があれば誰にでも活躍できるチャンスがある」と強調する。

 阿部氏は「必須条件をいうなら、まずICTの基本的なリテラシー。データを読む力があるとなおよい。もうひとつはコミュニケーション能力」と2つを提示。「加えて、創造力、問題解決力、リーダーシップ、コラボレーション力の4つも有効。ただ、これら6つを全部備えた人は私を含めていないので、トレーニングした上で、それをしっかり発揮できるOJTを通して評価すること」と語る。

 逆に注意すべきこととして、庭山氏は「実績を出せなかった営業をすぐにマーケティングに配属するのは避けたほうが良い」と指摘。たとえ本人にマーケターの資質があっても、営業部門のメンバーから「売れなかった人」と認識されている限り、いい案件を渡しても追ってもらえないからだ。

 最後に会場の参加者へ、「一度も失敗しない企業はない。それなら学習曲線を速く走ってナレッジを貯めるほうが成功に近づく。ストラテジー、ストラクチャー、システムの3Sをこの順番でしっかり見直して」(庭山氏)、「“Fail”を失敗と訳してはいけない、それは経験。世の中もう予測できないので、小さく回して、査定方法を含めてFailを容認する企業になる努力をしよう」(阿部氏)と力強いメッセージが語られた。

 「失敗を恐れるな、という共通点が印象的」と川上氏。テクノロジーの発展はマーケティングの試行錯誤のスピードを加速しているが、マーケティングにサイエンスとアートの両面が欠かせないことを考えると、“どういう試行をすべきか”を見出すアートの部分はやはり人間がやるしかない。「学びながら、この両輪をうまく回すことが大事」とセッションを結んだ。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2017/11/13 11:20 https://markezine.jp/article/detail/27334