デジタルトランスフォーメーションの本質
――そもそもデジタルトランスフォーメーションとは何でしょう。
菅原:2つ挙げるなら、1つは意思決定の量と質を上げること。データを頻繁に見られるようになれば、意思決定の回数が増え、最終的には質の高い意思決定が可能になります。
もう1つは顧客の求めている体験をデジタルで提供すること。たとえば、サブスクリプションモデルや、24時間オンデマンドで欲しいものが入手できるといったことです。
堀内:私としては「生活者の変化への適応」も見逃せません。「デジタルマーケティング」とよく言うけど、マーケターの方々がよく仰っている本来の意味は「マーケティングをデジタル化すること」ではないでしょうか。

生活者のデジタル化が進み、企業視点での「プロダクトの価値」が伝えにくくなったと多くの企業が悩む一方で、生活者の変化を的確に捉えた企業は成功を収めています。
生活者の変化に敏感な若い人たちの出番が来ているように感じます。若い人たちに知識や経験が足りないならば、周りがフォローしてチャレンジを加速させないといけない。それから、一人のユーザーとして自分自身がデジタルトランスフォーメーションすべきですよね。
菅原:いろいろなサービスを使ってみることもその一つです。
堀内:たしかに、サービスやデバイスを自分で使ってみて初めてわかることは多い。課題や改善点を見つけることができれば商機にもなりえます。
菅原:ただ、勉強だけしていればいいわけでもないです。さきほどのオーケストラの比喩でいうなら、今から新しい楽器をやるかと言われて短期間でできることは限られるし、自分で何もかも演奏する必要はない。バイオリンはバイオリン、ドラムはドラム。指揮棒で1つの形になればいいわけですから。
――1つの楽器を突き詰めてきたような、デジタルマーケティングにおける特定の領域に集中してきた人は、どのような力をつければ指揮者にキャリアアップできるのでしょうか。
菅原:数字を読めることは、経営者になるために必要な要素。そのうえで、ビジネスモデルを熟知しないといけない。ユーザーが何に困っていて、どうすれば手にとって使ってもらえるか、どう届けるか、いくらで提供するかを考えることがデータを操ることにつながります。
堀内:情熱も挙げたいですね。「次はどんな施策をやろうか」をいつも考えている人は適性がある。経営の関心は、可視化と分析の後に何ができるか。分析で満足する人は多いけれど、経営層は分析に対する投資でどのくらい売上を増やせるかを見ています。マーケターは、売るための仕組みをずっと考えていられるような人が向いています。
企業としての理想像に近づくには、どんな意思決定を増やせばいいか
――デジタルトランスフォーメーションを推進する上で、マーケターはどうやって経営層の理解を得ればいいのでしょうか。
菅原:データ活用の必要性について説明して、経営層から「で?」と聞かれたら、「そもそも企業としてどうなりたいのか」を逆に質問してみるのがおすすめです。
「どうなりたいのか」がわかれば、どんな施策についての意思決定を増やせばいいかがわかる。その意思決定のためにデータ活用が活きてくる、と説明すれば経営層の納得が得られます。

まず企業としての理想像があって、その理想を実現するための施策が導き出され、施策に対する意思決定のためにTREASURE CDPのようなデータ基盤という手段があるという順番です。最初に「どうなりたいのか」を考えるべきです。
堀内:データ基盤が整えば、施策のPDCAを高速で行えるようになります。早期に失敗を繰り返して、スピード感を持って改善できれば、最速で成功を重ねることができます。
菅原:ビジョンというか、あるべき姿がなければ成功も失敗もないですよね。あるべき姿というのは、業界シェア1位になるとか、売上を何千億円にするとか、生活者の「ほっと一息」を作るとか、企業やブランドそれぞれで違うもの。行き先がなければ、行き方(施策)もわからない。