NTTドコモがTwitterで大規模キャンペーン、背景と概要
背景
これまでマスプロモーションを中心としたキャンペーンにおける補完的な役割として扱っていたデジタル施策をメインに置き、最新技術を活用したライブ配信をTwitter上で展開することで、従来のドコモのブランドイメージを先進性のあるイメージへと変化させることを狙った。
概要
これまでのコミュニケーションはマス中心
――まず山本さんの担当業務について教えてください。
山本:プロモーション部のメディア部門に所属していまして、私はデジタルに特化したメディアのバイイングやブランディング施策の企画立案を担当しています。
――これまでキャンペーンを行う際のメイン媒体はなんですか? また、どのようにマス、デジタルの配分を行っていましたか。
山本:これまで弊社の大きなキャンペーンといえば、テレビCMを中心に、雑誌広告やOOHを展開し、デジタル広告はマスメディアの補完的な役割として活用していました。ただ、ここ2、3年は、デジタル手法が大きく進化し、スマートフォンも浸透したことでデジタル広告と消費者の距離も近くなったことから、デジタルに対する投資の割合を増やしてきました。2017年度からはその動きが特に強くなっています。
もちろんマスメディアも重要なので、テレビCMの出稿費用を地域別に変えるなど、マスとデジタルの統合を進めつつ、デジタルだけでできることにも積極的にチャレンジを行っているような状態です。
デジタル特化という新たな挑戦
――これまでのデジタル施策と比べ、「FUTURE-EXPERIMENT」はどのような挑戦となったのでしょうか。
山本:「FUTURE-EXPERIMENT」は、NTTグループの最先端の通信テクノロジーを活用し、これまでにない臨場感や新体験をともなうエンタテインメントに挑戦するプロジェクトです。第1弾となる「VOL.1 距離をなくせ。」では、アーティストのPerfumeを迎え、「2020年以降に体験できるまったく新しい映像体験を提案するコンテンツ」を全世界に向けてストリーミング配信しました。現在は、「VOL.2 視点を拡張せよ。」も公開しています。
通常のキャンペーンでは、人気のあるタレントさんを起用して、マスメディアを中心とした圧倒的な出稿量をもってシェアオブボイスを獲ってくるという展開が多かったのですが、今回は“Perfume”と、プロジェクトを通して伝えていきたい“5G(第5世代移動通信システム)”をどう組み合わせたらコンテンツを作っていけるかを考えていきました。
具体的には、Perfumeメンバーが、ロンドン・ニューヨーク・東京の各拠点で別々にパフォーマンスをしている映像を5Gの技術でつなぎ、あたかも3人が同じ場所でパフォーマンスをしているように見せるという演出を仕掛け、Twitterの「Periscope(ペリスコープ)」を使ってライブ配信を行いました。
2020年を見据えて整備を進めている5Gという新しい通信規格によってもたらされる世界観を具体化し、一般のお客様方に体感していただくことが目的です。また、それを体現した先にドコモに対するブランドイメージを先進性のあるイメージに変化させていきたいという狙いもありました。
Perfumeの起用、デジタルテクノロジーを駆使した展開、Webでのライブ配信、これらの点でデジタルとの親和性が高い施策と考え、デジタル特化のキャンペーンにチャレンジすることに決めたんです。
Twitterでなければいけなかった、その理由
――ライブ配信できるプラットフォームは沢山ある中で、ライブ動画のメイン配信プラットフォームとして何故Twitterを選んだのでしょうか?
山本:大きな理由として、Twitterが「カンバセーショナルマーケティング」を実現できること、さらにはお客様同士の会話の中で自社のことを語ってもらうことに長けたプラットフォームであることが挙げられます。
弊社は目に見える商材を扱っていないので、なかなか語られにくいのですが、今回の取り組みにおいては、Twitter上にPerfumeファンが多数いるのを把握していましたし、多くの方の話題になると踏んでいました。また、Twitterであれば、ただ拡散されてバズるだけでなく、キャンペーンを通じて会話が生まれると考えていました。
そこで、リリースにはキャンペーンの全容を明かさずに「ドコモ」「Perfume」「5G」というキーワードだけを掲載して、何が起きるのか、まずはPerfumeファンの憶測を呼ぶ。そうしたTwitterの中にいるPerfumeファンを動かすことと、ネタを放り込んで会話を爆発させることにチャレンジしました。
――「バズる」と「会話が生まれる」では、どこが違うのでしょうか。
山本:バズっても、今回でいうと“5Gで何が実現するのか”が伝わらないと意味がありません。そのため、自分たちが思った内容や文脈で会話がされることが大事です。単純に、いいね!やリツイートが欲しければ、奇をてらったことをすればできるかもしれませんが、私たちは、会話のネタを提供しながら、5Gの理解に加えて、“ドコモ=先進的”というイメージ醸成にもつなげていこうと考えました。
3つのステージに分けて広告プロダクトを活用
――ここからはTwitter Japanの金子さんと小野寺さんから施策の詳細についてお話しいただきます。
小野寺:山本様にもお話しいただきましたが、今回ブリーフィングの段階からTwitterの利用者同士で語っていただくことがポイントに挙がっていたので、ライブというイベントを起爆剤として会話を盛り上げていく方法をご提案しました。
そこで重要なポイントとなったのが、「事前」「当日」「事後」の3つにステージを分けて広告プロダクトを上手く使っていくことでした。
具体的なプロダクトでいうと、事前にPerfumeファンを中心に広くキャンペーンを認知させるための「プロモツイート」と、当日のライブ視聴者数とコメントの盛り上がりを最大化するためのリマインダー向けリツイート施策を活用しました。
後者のプロダクトは、事前に特定のツイートをリツイートしておくと、その当日にリマインドが届くというものです。これにより、当日までに放送があることを忘れていた利用者に思い出してもらうことができます。
また、当日は1日1社限定でトレンド欄の上部に広告を掲載できる「プロモトレンド」で告知することで利用者を誘い込みました。ライブ終了後は、リアルタイムで視聴できなかった方にも改めて語ってもらえるよう、アーカイブが視聴できる特設サイトへ誘導することで、事後の接点と機会を創出するところもフォローアップしました。
金子:ライブ配信時間は20分で、ダンスパフォーマンスとトークセッションを披露してもらいました。ですが、それだけでは3人が普通にパフォーマンスしているように見えてしまうので、そのあとに種明かしとして、Perfumeの3人がそれぞれ違う拠点にいることを伝えました。
Periscopeのライブ配信画面では、一番上で動画が視聴でき、その下に出てくる視聴者のコメントも見ながら楽しめるUIになっていました。また、アーカイブを視聴した方たちもハッシュタグを基点に様々な感想や視点をツイートしていました。そのため、20分と動画としては長尺でしたが、飽きずに見ていただけたかと思います。
ハッシュタグがキャンペーン後の資産になる
――キャンペーンの結果について教えてください。
金子:Perfumeに関連するようなハッシュタグがいくつかあったのですが、そうしたタグがライブ時間帯中はオーガニックでもトレンドに入ってくるほど盛り上がっている様子が見られました。
山本:Perfumeのコンサート開催時より盛り上がったんでしたっけ?
金子:「#prfm」という、Perfumeファンの間で使われているハッシュタグで比較したところ、今回のライブ配信に関するツイートボリュームのほうがコンサート開催時のツイートよりも多く、「#futurex」は2017年のPerfumeファンの間で1番盛り上がった話題といえるのではないでしょうか。
山本:「#futurex」というキャンペーンのタグも「#prfm」に比例して高い数値を得られたので、Perfumeが何かをやったということだけでなく、ドコモが仕掛けた施策であるという点も伝えられてよかったのかなと。
金子:事前から事後に至るまで、Twitterを中心にストーリーを持ってキャンペーンを設計したのは、弊社にとっても新しいチャレンジでした。
――トレンドを生み出せたという以外に、得られた成果はありましたか。
小野寺:山本様もバズではなく、NTTドコモがどのように語られているかが重要とお話ししていました。
そこで「#futurex」でつぶやかれたツイートを調べたところ、楽しかったという意見が多くキャンペーンの満足度が高かったのはもちろん、配信に使われていた5G技術について考察する利用者もちゃんと現れてくださいました。
狙っていたとはいえ、やはり企業発信の情報ではなく一般の方から語っていただく声は改めてパワフルだと思いました。
――山本さんは施策の結果を受けて、どう評価されていますか。
山本:ここまでハッシュタグの付いたツイートがあったことは驚きでしたが、ほぼご提案の通りの結果になり、満足しています。世の中を盛り上げられたチャレンジになったと思います。
あとは、こういうことをやると技術よりもタレントに話がいきがちなのですが、Twitter利用者の情報感度が高く、PerfumeだけでなくFUTURE-EXPERIMENTのハッシュタグ「#futurex」にも反応してくれた。そうした人たちに対し、ハッシュタグでリターゲティングすることによって、再アプローチができるため、本来の目的である5Gのサービス理解といったところまで一気通貫してできたのは、ありがたいです。5Gへの理解を深めるための資産として今後も継続的に活用していきます。
デジタルのコミュニケーションを心地良いものに
――今後、Twitterを含むデジタルでの施策をどのように発展させていきたいですか。
山本:デジタルというと、色々な可能性が増えていく一方、アドフラウドやアドブロックなどネガティブな部分が見えてきています。弊社においても、とりあえずバナーを出稿するといった、お客様の状態を考えずにコミュニケーションすることがないよう工夫しています。たとえば、DMPを活用して自社のデータや外部データを組み合わせることで、年齢性別というだけでなく、趣味嗜好なども踏まえてお客様に対してコミュニケーションしていけるように進めているところです。
1、2年でできることではありませんが、データの連携も含め、お客様に嫌われるリスクも大きいデジタル広告・コミュニケーションを、便利で心地良いものにしていけるようプランニングしていきたいです。
金子:今回はドコモさんの施策は、メインにTwitterを据えて大々的に行ったキャンペーンで、ここまでの施策は弊社としても新しい試みでした。
これまでTwitterで施策を行う場合、いち出稿メディアや誘導媒体として捉えられてきた部分があると思うのですが、今回のキャンペーンが成功したことで、Twitterの持つマーケティングプラットフォームとしての可能性を示すことができました。
今回の取り組みを今後さらに発展させていき、ドコモ様と新たな施策を行えればと思っています。
小野寺:Twitterをマーケティングに活用するメリットは、4,500万のMAUを活かしたリーチと、今回のように特定のトピックに深くタッチできるインサイトをTwitterのデータから洗い出してアプローチできることです。今回のキャンペーンのように、今後も新たな切り口でコミュニケーション設計のお手伝いをさせていただきたいです。