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2ndパーティデータを活用したDMとは?日本郵便×トップマーケターが語るデータドリブンなアナログ施策

 デジタルマーケティングの登場から二十数年。今、デジタル偏重型の戦略が見直され始めている。第一線で活躍するマーケターにとって、デジタルとアナログ施策を組み合わせることはもはや常識となり、最先端企業では、一般企業がデジタルですら実現できていないデータドリブンなマーケティングをアナログで実現しているという。2018年6月11日、8月27日に開催された「MarkeZine Day Special powered by 日本郵便」では、日本郵便と「デジタル×DM」実証実験プロジェクトを進める各界の有名マーケターが登壇。最新事例の紹介とともに、「デジタル×アナログ施策」について意見を交わした。

デジタルでは6%の顧客にしかリーチすることができない

 オープニングスピーチではイーリスコミュニケーションズの鈴木睦夫氏が登壇。「デジタル施策だけでは、すべての顧客へリーチすることができない」と主張し、デジタルとアナログ施策を掛け合わせる重要性を述べた。

イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏
イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏

 鈴木氏は主張の根拠として、Eメールによるメールマガジン(以下、メルマガ)のリーチ数を例に挙げた。ある会社の調査結果によると、現在、メルマガのオプトイン率は約3割、そのうちメールを開封している人は2割ほどしかいないという。つまり、現状メルマガでリーチできているのは、6%のユーザーのみということになる。

 残り94%に対し、企業はどうアプローチしていけばいいのか。鈴木氏は、テクノロジーを活用してデータドリブンな施策運用ができる体制を整えた上で、ダイレクトメール(以下、DM)をはじめとしたアナログ施策とデジタル施策を融合すべきだと主張する。同氏によると、デジタルとアナログ施策を組み合わせている企業は、3年前は29.1%だったのに対し、現在は35.5%に急増しているという(日経BP調べ)。

 この主張に対し、デジタル戦略を統括していく立場であるCDO(Chief Digital Officer)は、どう考えているのだろうか。

アナログ施策は「ブランド離脱ユーザー」を呼び戻す

 続いて登壇したのは、サンリオCDOの田口氏。同氏はCDOとして、サンリオのデジタルトランスフォーメーションを進めていく立場にあるが、デジタルに閉じた施策をする気はないという。

サンリオ 田口歩氏
サンリオ 田口歩氏

 サンリオは、顧客生涯価値(LTV)の向上を目標に、長期にわたって顧客と寄り添い絆を作っていく戦略を採用しており、“LIFE-TIME JOURNEY”と呼ばれる非常に長いカスタマージャーニーを意識している。

 「キャラクタービジネス」という特性上、同社のユーザーは成長過程のなかで何度かサンリオブランドから離脱してしまうという。離脱自体は避けることができないが、同社では、ユーザーが完全に離れてしまわないよう「関係値を保つこと」と「離脱者をもう一度呼び戻すこと」を目的に施策を行っている。

 田口氏は、前者に対してはキャラクターの一人称によるTwitter投稿など、「デジタル施策」が有効で、後者に対しては「アナログ施策」が有効だと述べる。

 「離脱者をもう一度呼び戻す」アナログ施策として、同社では5年毎に各キャラクターの周年イベントを実施している。「ポムポムプリン20周年記念イベント」を開催した際には、イベントに関するツイートは57,000リツイートされ、イベント期間でフォロワー数は5,500名増加、最終的なエンゲージメント総数は169万という驚異的なバズが起きたという。

 田口氏は、この結果は「体験」の力が大きいと述べる。「アナログだからこそ与えることができる『共感性』と、それを『瞬時に拡散させる』デジタルの強みを組み合わせていくことで、より効果の高いプロモーションを実現できる」と、デジタルとアナログ施策の融合の大切さを述べた。

2ndパーティデータ活用で広がるDMの可能性

 では、デジタルとアナログは、どのように組み合わせていけば良いのだろうか。日本郵便は様々な企業と手を組み、「デジタル×DM施策」についての実験を行っている。本セッションでは、BtoB代表としてリクルートジョブズ、BtoC代表としてIDOMが登壇。鈴木氏とパネルディスカッションを行い、実験から得た学びを共有した。

(左から)翔泳社MarkeZine編集長 押久保剛/イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏/リクルートジョブズ 宮尾昇氏/IDOM 目黒友氏
(左から)翔泳社MarkeZine編集長 押久保剛
イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏
リクルートジョブズ 宮尾昇氏
IDOM 目黒友氏

リクルートジョブズが実施した「メルマガ×DM」実証実験

 リクルートジョブズの宮尾氏は、スタッフを求人募集したい「お店」に対し、マーケティング施策を実施しているが、その手法の一つであるメルマガ施策の効果に疑問を抱き、メルマガ会員のcookie紐付け率を調べてみたという。 すると同社のメルマガは、半分のユーザーしかcookieが取得できていない(=半分のユーザーにしか読まれていない)ことがわかった。残り半分のユーザーにリーチ拡大するため、同社は「メルマガ×DM」の実証実験を実施した。

 まず、オンラインを好まないと思われるユーザーを抽出し、メルマガだけを送った場合と、メルマガとDMを組み合わせた場合の比較調査を実施。その結果、後者のサイト訪問数が3.6倍増加した。

 次に、メルマガに対して寛容である「メルマガアクティブ層」と無関心であると思われる「Notアクティブ層」のユーザーに対し、メルマガとDMを送付するという実験を実施。その結果、なんとNotアクティブ層のユーザーにおいて、アクティブ顧客以上のCVRを獲得できたという。

 この結果について宮尾氏は「オンラインだけではなく、オフラインを織り交ぜることで、新たな顧客リーチ手法を実現できた」と語り、デジタルとアナログを融合させる重要性を説いた。

 リクルートジョブズの実証実験に対し、鈴木氏は「要素を分解してテストを行った点」を評価した。分解することで他の条件が固定され、一つの要素がきちんとABテストできるという。また、デジタル施策だけでは何も起こらなかった可能性のあるところから、案件が生まれたことも注目すべき点だと述べた。

 「マーケティングオートメーション(以下、MA)は、よくコールドリードが入ったボックスと表現されている。放っておいたら何も起きないし、何も起こさない。今回アナログ施策を組み合わせたことで、新たなビジネスが生まれた。これはすごく大きな成果です」

2ndパーティデータ活用でDMはどう変わるのか?

 中古車買取販売のガリバーを運営するIDOMは、DMを用いてリテンションを行っているという。同社は、自社が保有するファーストパーティデータ(査定額)と、提携するクレジットカード会社から得たセカンドパーティデータ(ローンの残高)を用いて、ユーザー個別の情報を載せたDMを送付した。その結果、反応率は通常よりも4.85倍となり、ROIも通常時の約1.8倍となった。

ユーザー個別の情報を載せたDM
ユーザー個別の情報を載せたDM

 目黒氏はDMの強みは「訴求力」にあるという。デジタルとアナログ施策について、「重要なのは特性を正しく理解した上で目的毎に使い分けること」だと述べた。

 この実験に対し、鈴木氏は「セカンドパーティデータ」と掛け合わせた点を評価した。

 「普通のユーザーは、ローンがなくなるタイミングで買い替えを検討しますよね。今回の施策は、リアルな額面を載せることで『残債があっても、新しい車に乗り換えてもいいんだ』と思わせたことが素晴らしい」

開封閲読率74.3% なぜDMは若者に好まれるのか

 では実際に、DMの訴求力はどれほどなのだろうか。日本ダイレクトメール協会(以下、日本DM協会)の椎名氏が登壇し、DMの現状について語った。

日本ダイレクトメール協会 椎名昌彦氏
日本ダイレクトメール協会 椎名昌彦氏

 椎名氏によると、DMの現在の広告費は3,701億円で、日本の総広告費6兆3,907億円に対して5.8%に相当すると言う。椎名氏は、DMはテレビ・ネット・新聞・折込に次ぐ5位のメディアであると述べた。

 では、DMはどの程度の効果があるのか。2017年12月に実施された『DMメディア実態調査』によると、自分宛てのDM開封閲読率は74.3%、行動喚起率は22.4%、保存率は39.4%にも上るという。開封閲読率の74.3%という数字は、メールの開封率が1割から2割であることを考えると驚異的で、個人宛てのメディアとしてかなり強い効果があると言える。

 特に若年層はDMに対して好意的な傾向にあるという。その理由として椎名氏は「デジタルコミュニケーションしか体験したことがない20代は、大量に供給されるデジタルコミュニケーションに飽き始めており、DMに新鮮な印象を受けているのでは」と見解を述べた。

メルマガは件名で判断

 なぜDMはこのような効果を発揮することができるのか。これは、メルマガと比較するとわかりやすい。メルマガはDMと違い、一度に大量に送ることができる。調査によると、一週間でメルマガの受取数はDMの約11.8倍にも上るという。その結果、「件名を見るだけ」というユーザーが多くなっているのだ。

 メルマガと比較した際のDMの利点を調査したところ、「見やすい」「スマホのクーポンと比べて、紙のクーポンは出しやすい」「メルマガと比べて許容できる数」「自分だけに送ってきてくれているという感覚がある」というような意見が得られた。

 DMは顧客化する際の見込み客からの引き上げや、顧客のリピーター化に役立つと椎名氏は言う。また、顧客の情報を詳細に取れているほどDM施策は上手くいくため、紙のDMとデジタルを組み合わせることが重要とも述べた。

ユーザーがトリガーとなる「次世代DM」

 イベント最後のパネルディスカッションでは、カゴ落ちから最短24時間で「紙のDM」が届くという衝撃のリテンション施策を実現したディノス・セシールの石川氏と、それを可能にしたプリント技術を提供するグーフの岡本氏が登壇。モデレーターはイーリスコミュニケーションズの鈴木氏が務め、「次世代DM」に対して意見を交わした。

イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏/goof 岡本幸憲氏/ディノス・セシール 石川森生氏
イーリスコミュニケーションズ 鈴木睦夫氏
goof 岡本幸憲氏
ディノス・セシール 石川森生氏

 ディノス・セシールの石川氏は、同社のECにおいて一度商品をカートに入れたものの購入には至らなかったユーザーに対して、その商品とレコメンド商品を載せたDM送付を実施した。これまでDMは広告主がトリガーを引くものであったが、これはユーザーの行動がトリガーとなっている。鈴木氏は、これを「次世代DM」と名付け評価している。

ディノス・セシールの「次世代DM」(出典:WEB担当者フォーラム)
ディノス・セシールの「次世代DM」(出典:WEB担当者フォーラム)

 石川氏は、ユーザーに適したレコメンドを正しいタイミングで出すことで、紙DMは大きな効果を生むと述べた。

 しかし、これを実現させるためには、大きな課題があった。まず、印刷に時間が掛かるということ。通常、DMを企画してから送るまでに2週間かかると言われているため、石川氏が重要とする「正しいタイミング」に出せないことが課題とされていた。またディノス・セシールが実施した「次世代DM」は、ユーザーのカゴ落ちがトリガーとなっているため、日によってカゴ落ちの人数が変わる。そのため、制作発注するDMの数が日によって大きく変わるという課題ももっていた。

 この二つの課題を解決したのが、グーフである。同社は、「Print of Things」という印刷最適化プラットフォームを提供している。各地の印刷会社とパートナーシップを結んでおり、各種サービスとの自動で連携。発注を受けたあと、印刷会社の稼働率を見て作業を分散させるため、スピード感のある印刷が可能になっている。岡本氏は、「デジタルと連携することで、紙DMはより進化できる」と主張した。

 鈴木氏は、「Print of Things」の登場で、これまでデジタルでしかできなかったことが紙でもできるようになったと述べる。

 「デジタルと紙、表現の技術がまったく同じテーブルに載った瞬間がやってきました。デジタルVSアナログをいう対立構造は終わり、これからはデータドリブンで両方やることが重要です。それぞれの特徴を上手く組み合わせ、活用してほしい」と語り、イベントを締めくくった。

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この記事の著者

福島 芽生(編集部)(フクシマ メイ)

1993年生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、書籍編集を経て翔泳社・MarkeZine編集部へ。Web記事に加え、定期購読誌『MarkeZine』の企画・制作、イベント『MarkeZine Day』の企画も担当。最近はSDGsに関する取り組みに注目しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:26 https://markezine.jp/article/detail/29032