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MarkeZine Day 2018 Autumn(AD)

2ndパーティデータ×DMで反応率4.85倍!?日本郵便とIDOMが取り組むデジタル×アナログ施策

 「今、消費者はオンラインもオフラインも関係なく、企業とのコミュニケーションや購買活動を行っている。ならば、マーケティングもデジタル一辺倒ではなく、デジタル×アナログのシームレスな形を描かなければならない」――こうした指摘を2014年から展開してきたのが、前日本郵便・現イーリスコミュニケーションズ エグゼクティブプロデューサーの鈴木睦夫氏だ。デジタル×アナログの融合が注目され、シームレス化にシフトする現在、具体的にデジタル×アナログ施策はどのように進化しているのか。「MarkeZine Day 2018 Autumn」の鈴木氏の講演を取材した。

メール一辺倒では顧客の94%を取り逃がすリスクがある

 マーケティングはアナログからデジタルへ――そんなデジタル偏重型の考え方が近年見直され始めている。日経BPコンサルティングが2018年2月に発表した「マーケティング実態調査」によると、デジタルとアナログを組み合わせたマーケティング施策を実行している企業は、2016年には回答数の3割未満しかいなかったが、2018年には3割超に増えているという。

 イーリスコミュニケーションズ エグゼクティブプロデューサーの鈴木睦夫氏はこの結果を見て、「オンラインは大事だけど、それだけではリーチできない層がいる、つまりオンラインのリーチの限界に気づき始めたと考えられます」との見解を示す。

イーリスコミュニケーションズ株式会社 エグゼクティブプロデューサー 鈴木 睦夫氏
イーリスコミュニケーションズ株式会社 エグゼクティブプロデューサー  鈴木 睦夫氏

 たとえばメール施策で考えてみると、全顧客層に対してリーチできる割合は非常に低いことがわかる。鈴木氏によると、「企業からのメール受信」を了承しているオプトインユーザーの割合は平均3割程度だという。つまり、そもそもメールでコミュニケーションできない層は7割もいるわけだ。

 そして開封率を見ると、平均して全送信数の2割だという。「つまりメールでリーチできるのは、全顧客数の6%ほどです。残りの94%に対してどうコミュニケーションを取ればいいのか、企業はまさにこの課題に直面しています」と鈴木氏はいう。

広く顧客とコミュニケーションするには、デジタル×アナログの融合が必要

 鈴木氏は30年前にP&Gに入社して以来、一貫してマーケティング畑を歩んできた。そのキャリアの中でも特異な実績は、2014年に入社した日本郵便での取り組みだろう。「この当時は、米国から上陸したばかりのマーケティングオートメーション(MA)に注目が集まり、DMPも実装されつつあるなど、日本市場全体がデジタルに向いていた時期でした。その当時から、DM(ダイレクトメール)というコミュニケーション手段を軸に『デジタルとアナログの融合が大切』ということを訴え続けており、近年ようやくその重要性が認識されてきたと実感しています」と鈴木氏は語る。

 最近は、DMとメールだけでなく、たとえばテレビ放送やCMと組み合わせた施策や、コールセンターや店舗、あるいはイベント等の取り組みとデジタルをシームレスにつなぐ動きも出てきた。

 鈴木氏はこうした変化を歓迎しながらも、「デジタルとアナログに関しては、企業内の組織や予算、そして知見が分断されている状況にあります。まずここをシームレスにする必要がある」と指摘する。

 なぜシームレスが大切なのか。それを明らかにしたのが、鈴木氏が日本郵便に在籍している時に実施した富士フイルムの実証実験だという。

なぜDM+メールの訴求が効果的なのか

 富士フイルムではDMとメールを組み合わせたマーケティング施策の成果について、過去2回実証実験を行っている。第1弾では優良顧客を3つに分け、「キャンペーンメールの送信」「キャンペーンDMの送信」「キャンペーンメールとDMの送信」と施策を打った。結果、DMとメールを送ったグループは、メール送信だけのグループに比べ、ランディングページ(LP)のクリック率が60倍という成果が出たという。

 これを受け、第2弾ではDMとメールを送る順番で成果の違いを見た。「最初にDM、次にメール」「最初にメール、次にDM」「最初もメール、次もメール」の3つの層で違いを見たところ、DMとメールの組み合わせは、メールだけの通知に比べ、どちらもランディングページへのアクセス率は2.3倍という結果が出た。さらに「最初にDM、次にメールという組み合わせの場合、キャンペーン商品の注文率が14%と最も高いという成果が出ました」(鈴木氏)という。

 その理由は「DMのほうが記憶に残りやすいから」ということが考えられる。DMの提案内容の記憶が残っているうちに、同じ内容のメールが来ることで、強く訴求できる。しかもメールであればデジタルのLPへの誘導が容易なため、より行動を促しやすい。

DMとメールを組み合わせたOne to Oneマーケティングを目指したIDOM

 もちろん、単にDMとメールを組み合わせただけで成果が上がるわけではない。「やはりコミュニケーションなので、『いつ(タイミング)、誰に(ターゲット)、どんなメッセージを(提案)、どんな手段(チャネル)で送るか』というコミュニケーションの4つの軸を考えて戦略を立てることがポイントです」と鈴木氏は説明する。

 特に重要なのがタイミングだ。どんなに素晴らしい提案でも、タイミングが合わなければユーザーの心理や行動変容を起こすまでには至らない。こうした課題に対し、DMとメールを融合して「購入タイミング」そのものを変えてしまった事例がある。それが、中古車販売業を営むIDOMの取り組みだ。

 鈴木氏に続いて登壇したIDOM デジタルコミュニケーションセクション メディア開発第一ユニットの目黒友氏は、「年間数十万件に及ぶ中古車購入商談の中、購入に至らなかった顧客へアプローチして売上につなげるため、DMとメールを組み合わせたOne to Oneマーケティングに取り組むことになりました」と説明する。

株式会社IDOM デジタルコミュニケーションセクション メディア開発第一ユニット 目黒 友氏
株式会社IDOM デジタルコミュニケーションセクション メディア開発第一ユニット 目黒 友氏

 自動車の乗り換え周期は平均7年であり、洋服や食品などと比べると期間が長い。このため過去に購入したユーザーをリピートに結びつけることが難しいという課題があったという。

 営業手段としては、チャットを使った提案型営業や集客アプリがあるが、購入するには必ず店舗への来店が必要なため、デジタルだけで完結しているわけではない。一方、購入に至らなかった層に対するフォローは、画一的なメッセージをメールで送るだけにとどまり、なかなか再購入にはつながらない。目黒氏は「このようにビジネスプロセスそのものがオムニチャネルになっていること、CRMで長期エンゲージメントを築くことが難しいこと、加えて画一的なコミュニケーションにとどまっていたことから、マーケティングのやり方を見直すことにしました。そうした中、鈴木さんに相談して、DMとメールを組み合わせたコミュニケーション施策を実施しようと決めたのです」と語る。

パーソナライズドDMでリッチなコミュニケーションを実現

 目黒氏によると、DMのメリットは「リッチなコミュニケーションが可能で、かつ強いプッシュ力があること」だという。その一方、メールに比べるとコストが高く、大きなリーチ力は期待できない。こうしたことから、「ターゲットを限定し、強いプッシュ力の成果を引き出す」ことを目指したそうだ。

 そこでターゲットに選んだのは、「ガリバー店舗で購入経験があり、自動車ローンの支払いが半年以上残っているユーザー」だった。この層に対し、(1)現在乗っている自動車の推定査定額、(2)ローン残高の2つを出し、(1)-(2)がプラスになったユーザーだけに買い替え提案のハガキを送付したという。

 「ローンで自動車を購入して時間が経つと、普通は『自動車の価値は目減りしてローン残金のほうが多いはず』と思っているユーザーがほとんどです。そのため半年以上ローン支払いがある場合、買い替えを検討することは滅多にありません。そこへ、『現在の自動車を売ってもまだ余剰金があるから、これを頭金にして車を買い替えましょう』という提案が来ることで、買い替えを予定していなかった層に対してアプローチできます」と目黒氏は説明する。

 このDMは、同社がそれまで送付していたDMと比べて反応率が4.85倍、ROIも1.8倍という成果が出た。その理由について、目黒氏は次のように考えている。

 「DMという媒体の特性を理解し、『訴求力の強さ』を前面に押し出したことで成果が出ました。そして『自動車を売っても、ローンが残ってしまう』という一般的な思い込みをくつがえす強いメッセージを、強い訴求力を持つDMで訴えたことで、売上増につながりました」(目黒氏)

 鈴木氏はこの取り組みに関するアドバイザーとして関わってきたが、DMで買い替えタイミングを変化させた成功要因について、「やはりDMというアナログが持つ機密性、信頼性は強い」という見方を示す。

 「ローン残高といった個人情報は、信書を扱う郵便でないと送ることができません。このように個々人で異なる車の推定査定額や、ローン残高をDMに記載するため、パーソナライズしたDMを迅速かつ低コストで印刷する『バリアブル印刷』を活用したことも、成果につながったと思います」(鈴木氏)

デジタル×アナログ施策の効果を出すには事前のPDCAが鍵

 こうした実証実験を背景に、DMとメールを組み合わせた施策の知見は少しずつ蓄積されている。その人に適切な買い替えタイミングを促すため、自社のCRMデータとローン会社のデータを掛け合わせたことも、「今後はデータ分析を行い、DMを送るタイミングやターゲットを選ぶことが重要」という知見につながった。

 ただ、DMとメールの融合施策を成功させるポイントは、「やはり自社でPDCAを回して成果を確認することに尽きます」と鈴木氏はいう。

 そしてDM+メール施策のPDCAを回す時のポイントは、「何もかも一度にテストしようと思わないこと」と釘を刺す。たとえば、多数の顧客のうち、どの層が最も成果が出るかを確認する時に、DMやメール配信のタイミングを変えたり、異なるクリエイティブのメッセージを送ったりしても、結局何が有効だったかわからない。「今日はクリエイティブのテスト」「今日はターゲットの検証」と目的を小さく区切り、それ以外をフラットな状態にして反応の違いを見ることで、成果を確認しやすくなるという。実際、「DMとメールを融合する成果がわからず、予算が下りにくい」という企業も、1つひとつ目的を区切ってA/Bテストを繰り返し、予算獲得に向けた成果検証に動いているそうだ。

 なお、アナログのDMといっても、印刷技術の進化により様々なことができるようになった。たとえば大手通販のディノス・セシールでは、ECサイトで購入せずにカート放置したままの顧客に対し、24時間以内にカート放置の告知とクーポンを記載したDMを送るようにしたという。

 このDMは、先述したバリアブル印刷のテクノロジーを活用したもの。ユーザーの「カート放置」という行動がトリガーとなって自動的にDM印刷・配送と回る仕組みを整備したことで、通常のメール告知に比べて反応が20%上がったそうだ。

 鈴木氏は「そもそも今の生活者は、アナログとデジタル関係なく、それぞれのチャネルをシームレスに行き来しています。ユーザーの行動がアナログとデジタルをわたり歩いて一筆書きしているのだから、企業もそれに対応しなくてはなりません」と語る。今後さらに技術が進み、ECや店舗、チラシ、DM、メール、Webなど様々なチャネルがシームレスになる中、「それに合わせたコミュニケーションを設計することが、ますます重要になるでしょう」と述べ、講演を締めくくった。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/10/23 10:00 https://markezine.jp/article/detail/29404