SNSを活用した施策で顧客とのエンゲージメントを向上
――デジタルを起点にした顧客体験の設計として、これまでどのような施策を行ってきましたか?
鈴木:2014年に開かれた「湘南国際マラソン」での施策では、SNSを活用した取り組みを行いました。この大会は我々が協賛したのですが、大会前から参加者のエンゲージメントを向上させるための取り組みができないかと施策を練っていました。また、他の競技大会とは違い、マラソンは大会中常に周囲に観客がいるわけではありません。そのため、協賛企業としては顧客のリーチが限られてしまうという課題もありました。
そうした中で、電通と電通テックが開発したサービス「SOCIAL_MARATHON」を活用し、SNSと連動したキャンペーン施策を実施しました。同サービスでは、ランナーのシューズに埋め込まれたIDタグを、キャンペーン参加者が所有するSNSアカウントに紐づけます。そして、一定の距離の地点に設置されたマットをランナーが踏んだ瞬間にシューズのタグが反応し、リアルタイムでその時の走行記録が自動的に投稿されるというものです。
実はこの施策自体は、前年2013年の大会でも実施していましたが、2014年の同大会ではさらに進化させたキャンペーンにするべく、動画を活用しました。
こちらはフルマラソンを走るランナーのみを対象に事前登録制で実施したのですが、30kmを過ぎたあたりから専用レーンを設けて、定点カメラでフィニッシュの瞬間を録画。後日、簡易的な編集を加えた動画をそれぞれの参加者にプレゼントしました。この施策は大会1ヵ月ほど前から告知をはじめ、登録を呼びかけていました。
通常、大会参加者のうち「SOCIAL_MARATHON」に登録してくださるのは全体の約10%なのですが、この施策を行った時はフルマラソンのランナーのうち約25%、人数にして2,500人ほどの方々が参加してくださいました。
また、毎年大会参加者におけるニューバランス製品の使用率を計測しているのですが、翌年2015年での大会使用率も向上し、一定の成果が得られました。フルマラソンのランナーに限定したのにもかかわらず登録者の数はこれまでの倍以上となり、驚きましたね。
デバイスの進化とともに顧客体験も変容
――昨今ではデジタル領域においても様々なデバイスが登場しています。それぞれのデバイスによって顧客体験の設計はどう変わってくるのでしょうか?
鈴木:デジタルは特に新規性があり、技術も日進月歩で発達していきます。たとえば、これまでモバイルはボタンで操作するというのが常だったのに、スマートフォンの登場によって一気にタッチ操作へとシフトしていきました。このように、デジタル領域における「顧客体験」は、デバイスやUIが大きく関与してきます。スマートスピーカーもそれを代表する良い例ですね。特に米国のような車社会においては、手放しで操作できる音声対応は非常に革新的で新しい「顧客体験」と言えます。
――個人的には、まだ公の場で音声操作をすることに対して抵抗を感じてしまうのですが……。
鈴木:そういう人はターゲットではないんですよ(笑)。むしろ、スマホの所有率が低い高齢者の方や子どもたちがターゲットです。我が家にも「Amazon Alexa」「Google Home」がありますが、私よりも子どもが喜んで使っていますからね。デジタルによって新たな顧客とのタッチポイントが出現すれば、当然ターゲットも変わってきます。そして、それだけ「顧客体験」の形も多岐に渡ります。
