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カスタマーエクスペリエンスを巡る(AD)

数字やハックの追求に愛はない クラシコム青木×プレイド倉橋 対談【後編】

 CX――カスタマーエクスペリエンスという言葉が定着し、重要視する企業が増えている。ただ、一元的に測定できる指標も定石もないのが現状だ。CXについて先進的な知見や事例を探る本連載、初回はCXプラットフォーム「KARTE」を提供するプレイド代表の倉橋健太氏がクラシコムの青木耕平氏を訪ねた。後編ではクラシコム流の顧客理解や、倉橋氏の「KARTE」に込めた思いを掘り下げる。

いきなり「買ってください!」で始まる接客の是非

倉橋:「損得を忘れられる瞬間を作る」という、理想の顧客体験について、青木さんの考えをうかがいました(前編)。聞けば聞くほど、独特です。特に、リアルな場ではなくネット上のビジネスにおいてこうした手触りのある言葉を使われるのは、青木さんならではだと感じます。

株式会社プレイド Co-Founder and CEO 倉橋健太氏(写真左)/株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平氏(写真右)
株式会社プレイド Co-Founder and CEO 倉橋健太氏(写真左)
株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平氏(写真右)

青木:損得を忘れると、こっちもラクなんですよね(笑)。僕らもまだまだ、どうやってお客様を喜ばせるのが理想なんだろうと日々模索中です。倉橋さんも指摘されていましたが、ネット上のビジネスは数値化にはじまり、やっぱりかなり振り切った感がありますよね。リアルの場と比べると、お客様とのコミュニケーションが希薄というか。

倉橋:お店で買い物をしたら当たり前に「ありがとうございました」と言ってもらえますが、ネット上ではそういうコミュニケーションが一切ないのがデフォルトですから。

青木:いきなり「買ってください!」から始まるみたいな感じ、ありますよね。

倉橋:誰が来ているのかもわからずに「ポイント10倍です!」とただ訴えたり。僕もいろいろな企業を支援させていただく中で、そうせざるを得ない状況や、商習慣みたいなものが定着しているのもわかるのですが、本当は “売る・買う”の前にもう少し、顧客とある種の信頼関係を築くことが大事なんじゃないかと思うんです。

数字の追求に愛はない、だから持続しない

青木:わかります。倉橋さんは、どうして「KARTE」のようなプラットフォームを作ったのですか? 今の関係性の話がけっこう関わってくるんでしょうか。

倉橋:まさに、そうですね。昔の僕も含めて多くのマーケターはとにかく数字を分析してCVRを上げて、売り上げをどう最大化するかを追求していました。まさしくハックですよね。でも、数字やハックを繰り返すだけでは愛情が乗らないな、と感じていました。テンションは乗るんですが。

青木:なるほど、それいい表現ですね。愛情は乗らないけど、テンションで引っ張れちゃう。

倉橋:そうなんです。実際、数字ハックに邁進する企業は熱量は高くても、お客様視点の話がほとんど出てこないことも多い。本来は「もう一度来たい」とか「買いたい」というお客様の感情を再現しないといけないのに、数字を再現しようとしているんですね。でも、テンションって一時的なので、あまり長続きはしませんし、もちろんお客様の側も続かない。そういう関与の仕方では、サステナブルな関係性は生まれないんじゃないかと思ったんです。

青木:興味深いです。ただ、それを上から目線で語っても、なかなか聞く耳をもってもらえないですよね?

倉橋:はい、なので結果から自然と顧客視点にシフトしていけるように、アプローチしています。実は、ユーザーの反応を断片的な数字で見るよりも、ユーザーを軸にすべてのデータを貯めて「人」としてみて、そこに働きかけるほうが結果が出ることが多いんです。

人間という“優秀なシステム”を機械が追いかけている

青木:それはおもしろい。そうする中で、結果的に顧客視点の姿勢になっていくわけですね。今のお話は、Googleや各種のアルゴリズムがどう進化していったかという話に似ています。たとえば一時、SEO対策で中身のないコンテンツがあふれましたが、Googleがユーザーのニーズや利益を踏まえ、そうしたサイトは下位になるように進化させた。先にテクノロジーやシステムが一気に進化して、分析や測定の手法がある程度確立されたから、今度はそこに人間が適切に意味付けをして、人間に寄せていく段階になっていると感じています。

倉橋:Googleがどんどん人間のような判断をするようになった、ということですね。

青木:そうです、ユーザーは単に「反応を返す存在」ではなく、「中身のあるコンテンツを読みたい人間」だと理解したわけですよね。よく、人間とテクノロジーやシステムは二項対立的に語られますが、僕は人間こそ極めて優秀なシステムだと考えています。実はこういう概念的なことばかり言っているから(笑)、テクノロジーやシステムで問題は解決しないという立場だと思われがちなのですが、むしろ逆で、人間こそシステムでそこに機械ががんばって追いつこうとしているんだと思っています。

「人」に対してビジネスをするための体制が必要

倉橋:今のお話は、とても腑に落ちます。機械と同様に、企業の内部を見てみても、人を人として捉えてビジネスをするようになっていなかったりします。目標や評価などで「CVRを上げること」が最重要課題となっている。そうすると、顧客である「人」を見失ってしまいますよね。

青木:同感ですね。

倉橋:それらを抜本的に変えるのは、まず企業の中の人の意識を変えないといけないし、すごく時間がかかるとは思います。ただ、ミッションとして「データによって人の価値を最大化する」と掲げている僕らとしては、そこにやはり挑戦したい。僕らのクライアント、つまりお客様にサービスを提供する人たちが本当のポテンシャルを引き出せていない状態が、ある程度デジタルテクノロジーが普及した今現在で起こっていて、ある意味で限界を迎えていると思います。だから、ただの効率化や作業の代替に留まらず、意識を変えながら、人がより自然に人と向き合えるような支援をしたいんです。

青木:テクノロジーを通して、ってことですよね。僕は技術開発はしていませんが、うちのスタッフにテクノロジーやその他の手段を使って、ガンダムでいう「モビルスーツ」を用意したいと思っているんです。彼女・彼らがパイロットとなってモビルスーツに乗ることで、顧客への理解力や顧客を喜ばせる発想力が倍増する、みたいな。

倉橋:まさにそれです、モビルスーツ。人の力を最大化したい。誰も数字を分析するように生まれてきていないので、苦手なことではなく得意なこと、人の機微を読むとかおもてなしをする、そういったことを伸ばすようなマーケティングができるのが、理想だなと思います。

お客様の気持ちがわかる「北欧、暮らしの道具店」のひみつ

青木:よく「AIが人を代替する」みたいな議論も聞きますが、ご指摘のように、テクノロジーと掛け算して人の力をもっと活かすことを考えたほうがいいですよね。人間のような高度なシステムは、どれだけお金を投じたってつくれないから、組み込まないのはもったいない。

 以前、109のカリスマ店員さんがLINEを駆使して「◯◯ちゃん、こないだ買ったのにすごく合うスカートが入ったよ!」みたいに個別にアプローチしているのを知って、感動したんです。これって企業から来ているメルマガのようなものですよね。だけど、自分だけを向いていて、しかも好きな人から届いたら、めちゃくちゃ嬉しいコンテンツになるじゃないですか。テクノロジーで彼女たちのそういう能力を代替するんじゃなく、メインシステムとして組み込んで設計するほうが合理的だし、お客様も嬉しいはず。

倉橋:そうですよね。先ほど、御社のスタッフにモビルスーツをとおっしゃいましたが、「北欧、暮らしの道具店」ではその増幅される源となる、クラシコムのスタッフ皆さんのお客様理解力が、そもそもすごく高いような気がします。お客様と深くつながったり理解したりするために、日ごろから意識されていることはあるんでしょうか?

青木:どうしているのかなぁ(笑)。でもいちばん大きいのは、社員のほとんどが元お客様であることでしょうね。当社の採用は自社サイトでしか告知しないので、必然的に元々買い物客として接点があった人が応募する仕組みになっています。

 加えて思うのは、うちは女性スタッフが多いですが、女性の「お客様の喜びを提供できたら自分も嬉しい/悩みを解消できたら自分も癒やされる」という高い共感性がよく活かされているんだな、と。つまり、お客様=自分の心をひたすら掘っていくことで、他者に通じる無限の泉にたどり着き、相手に寄り添える……ということが起こるんです。

自信をもってビジネスに邁進できる“モビルスーツ”を提供したい

倉橋:僕らも自分たちのサービスやサイトで「KARTE」を使っており、そのフィードバックを反映しながらどんどん改善していっているので、社長の僕が知らないアップデートが日々起こっていますね。IT業界だと「ドッグフィーディング」と言いますが、自らが実践的にサービスを使い、ユーザーである顧客の環境を理解し、プロダクトを高速に改善していくのに欠かせないことだと思っています。ただ、顧客企業の業種や業態が多様化しているので、そこは今、様々な企業を支援するにあたって難しいポイントだなと思っています。どれだけユーザーの気持ちになれるかが大事。

青木:モノやサービスが十分でなかった昔と比べて、今は本当に微細な差で選ばれるようになっているので、ユーザーの「そうそうこれをわかってほしかった!」という点をどれだけ盛り込めるかが大事ですね。でも今のお話をうかがって、「KARTE」のようなBtoBでもそういうことを考えていらっしゃるんだなと、それはすごく新鮮でした。今後、御社の顧客をどうサポートしたいとお考えですか?

倉橋:自分たちをBtoBではなくBtoBtoCだと意識して、エンドユーザーがどう感じているかを常に理解するプラットフォームであることを前提に、僕らのサービスを使って仕事をする方々が輝くような環境づくりに貢献したいですね。デジタルとテクノロジーの力で、自信をもってビジネスに邁進できる“モビルスーツ”を提供できればと思います。青木さんはいかがですか?

青木:僕らもBtoBの広告事業を始めていますが、エンドユーザーを見る、Human to Humanであることは忘れずにいたいと思います。僕らの提供する商材はそれぞれニッチなニーズに基づいていますが、ある価値観で束ねられていると思っています。これを「ニッチの花束」と言っているんです。まだ小さな花束ですが、それぞれの方の生活での喜びに関与していければいいですね。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/11/27 10:00 https://markezine.jp/article/detail/29676