転換点を迎えたビジネスモデル
『サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』は、「ビジネスは歴史の転換点を迎えた」という強いメッセージから始まります。
著者のひとりであるティエン・ツォ氏は、セールスフォース・ドットコムに11人目の社員として入社し、CMOやCSOを歴任。そこでの経験から、サブスクリプション・エコノミーの到来の兆候に気づき、企業のサブスクリプションビジネスへの転換を支援するZuoraを創業しました。
同氏は「どうすれば伝統的な製品ベースの会社をサブスクリプション・モデルに移行できるのか」という知見を提供するために、同書を執筆したといいます。しかし、顧客から定期的に収益を得るという仕組み自体は、新しいものではありません。なぜ同氏は今、このモデルがビジネスを変革すると考えているのでしょうか。
製品中心から顧客中心へ サブスクはその背中を押す
理由のひとつは、顧客の関心が製品の「所有」から「利用」へと変化しているため。企業はそれに合わせて、製品ではなくサービスを利用した「結果」を売ることが必要になります。
製品中心の企業に対する同氏のアドバイスは、とても明快です。
製品に魅力的なデジタルサービスをセットにして提供すればよい(p.53)
たとえば、ギターメーカのフェンダーの場合。ギターという「製品」売るだけでなく、サブスクリプション型の練習サイトを展開することで、演奏できるようになるという「結果」にアプローチしました。すると彼らはギターを辞めずに、生涯の顧客として留まってくれるようになったのです。
このように、顧客と継続的に関係をもつ仕組みが構築されると、企業は利用状況や利用行動といったデータの収集が可能になります。すると製品開発においても、サブスクリプションが強みを発揮します。
例を挙げると、同氏が働いていたセールスフォースでは、意思決定の方法やリソースの配分、新しいサービスを構築する方法について、そのデータを基に考えられるようになったといいます。つまり、製品開発の中心に顧客を据え、製品を継続的にブラッシュアップし続けられるのです。
同書を通じて感じたのは、サブスクリプションとデジタルの相性の良さ。顧客のデータを集め、分析できる環境が整っている今だからこそ、このモデルの強みが発揮されているのだとわかります。
マーケティングは「サービスに組み込む」ものに
同書では、サブスクリプションの下でのマーケティング戦略についても語られています。同氏は、顧客を中心としたとき、ブランドの価値を「広告ではなく経験を通して伝えられている」とみています。そのためマーケターとエンジニアが協力し、フリーミアム・モデルやアプリ内課金といった経験を設計していくことが欠かせません。
また、よい経験をした顧客は、口コミによってシェアすることで、サービスや製品を広めてくれます。誰かに思わず伝えたくなる物語を作るのは、マーケターの仕事。Zuoraでは「ストーリーテリング」を重視し、同書でそのテクニックを紹介しています。
「課金形態の変更」という側面のみで語られてしまいがちな、サブスクリプション。その認識を広げるだけでなく、マーケティングが果たすべき役割も理解できる同書を、手に取ってみてはいかがでしょうか。