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第106号(2024年10月号)
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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

「印刷は新たな武器に」オフラインメディアの進化がデジタルマーケターにもたらす恩恵とは

 これからの「デジタル×アナログ」について考えてきた本連載。最終回となる3回目では、2回目で語られたタイミングマーケティングを実現するプリント技術について、イーリスコミュニケーションズの鈴木睦夫氏と、デジタルとプリントメディアを結ぶ印刷テクノロジーを提供するグーフの岡本幸憲氏にインタビューを行った。鈴木氏が「知ればマーケターの大きな武器になる」と話すプリントメディアの価値はどんな点にあるのだろうか。デジタル印刷の今日までの歩み、そして未来で期待される活用についても話してもらった。

20年前からデータドリブンな印刷は可能だった

――前回までのインタビューの中で、鈴木さんからタイミングマーケティングの考え方と、それを実践するための技術環境は整いつつある点についてと語っていただきました(前回記事はこちら)が、具体的にどの程度整っているのか教えてください。

左:岡本 幸憲氏右:鈴木 睦夫氏
左:株式会社グーフ CEO 岡本 幸憲氏
右:イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブプロデューサー鈴木 睦夫氏

鈴木:昨今、様々なデータを収集できるようになったことで、顧客がどのステージにあるのかを測れるようになりました。そのためデジタル上では、データをもとにタイミングに合わせたコミュニケーションというのを行う企業は増えています。

 一方、私が以前よりお伝えしているデジタルとアナログの統合、特にオフラインのコミュニケーションというのは、広告主側のタイミングで送ることしかできていなかった。デジタルとアナログが統合され、アナログでもOne to Oneのコミュニケーションが取れるようになってきたのはここ1、2年のことです。

岡本:正確には、データドリブンで印刷を行うという技術自体は20年ほど前から存在していました。それがマーケティングオートメーション(以下、MA) の技術と連携して、マーケティングでも活用が進むようになったのが近年の動きです。

 ここには、昔からデータを活用した印刷はできるのに「印刷メディアは古い、応用が利かない」という既成概念があまりに強すぎたこと、応用した活用方法を印刷供給側が提案してこなかったことが背景にあります。

技術の進歩でタイミング・ボリュームの調整を実現

――以前より、DMなどのオフラインメディアをデータドリブンで印刷するという取り組みは進んでいたのですね。

岡本:たとえば、2010年の全日本DM(ダイレクトメール)大賞で、JTBトラベランド(現在はJTBに吸収合併)と富士ゼロックスの作品がグランプリを獲得しました。この時はターゲットである団塊世代顧客へのアンケートリサーチをもとにパーソナライズDMを制作して配信しており、これが約10年前の事例です。このように、顧客に合わせてDMを送るコミュニケーションというのはその頃から行われていました。

 ですが、準備のコストがかかる上に使えるデータも基礎的なメタデータや過去の販売実績ぐらいしかなく、これ以上のスケールで行うのは難しいと結論付けられていました。しかし、日本郵便が中心となり「デジタル×アナログ」の啓蒙活動を進めたことで、ここ1年でその認識も変化しています。

 デジタルマーケティングがある一定の成熟期を迎え、デジタル施策だけで顧客にリーチするには限界があるということに気づいたマーケターの方も多いのではないでしょうか。

――確かに、デジタル×アナログの統合というのは、多くのマーケターが現在課題に抱えている部分だと思います。こと印刷メディアでは、どの程度の進化が進んでいるのでしょうか。

岡本:印刷業界に関わる私からすると、「印刷×テクノロジー×マーケティング」はいつでも始められる環境にあります。ただ、印刷会社側がその変化に対応できるかという問題が残っており、その解決に向けて弊社も動いています。

 当社が現在パートナーシップを結んでいる印刷会社には、10年前から一緒に戦ってきた仲間も多く、現在の動きを受け設備投資を強化しています。その結果、24時間以内もしくは当日納品が可能な状態の印刷会社も増えており、Eメールに近いレベルで、配信タイミング・ボリュームをコントロールできるようになっています。

印刷はマーケターの新たな武器に

――Eメールに近い感覚で印刷メディアも活用できると、よりコミュニケーションの選択肢が広がりますね。そこまで来ているのに、活用が進まないのは大きな課題ですね。

岡本:印刷技術は進化を続けていましたが、どのようなデジタル技術と連携するかという発想が抜けていました。さらに、個人情報保護の障害や既存のビジネスモデルが邪魔をしていた。その中で日本郵便さんの実証実験や様々なマーケターたちの決断が新しい活用方法を導き出しました。

 また、シェアリングエコノミーのような考え方が浸透するにつれ、印刷会社も考え方が変わり、印刷物の作り方も変化していきました。

――シェアリングエコノミーと印刷、どのように関係しているのでしょうか。

鈴木:これまでは1社に依頼して印刷するのが一般的でした。しかし、イノベーティブなWebサービスの台頭で、複数の印刷会社とデジタル印刷機器の連携がクラウド上で可能になり、需要に合わせた印刷が実現しました。極端な話、今日は1通、明日は100万通でも同じスピードと単価でできるようになったんです。

 この仕組みを利用して、数量・地域・指定紙質などの条件に合わせた印刷をすれば、デジタルコミュニケーションと統合したシナリオを実現できます。DMを送りたい地域で生産すれば、ロジスティクスのコストも下げられます。また、印刷会社の稼働率を見て作業を分散させられるため、スピード感のある印刷が可能になるなど非常にメリットが多いかと思います。

 DMというと、ハガキやA4サイズの郵便物が思い浮かべられると思うのですが、カタログや資料をパーソナライズして送る事例も今後増えていくはず。岡本さんも話していたデジタルメディアのリーチ力に課題感のあるマーケターにとって、印刷は新しい武器となるはず。マーケティングのROI向上にも寄与できると信じています。

紙の非効率さをデジタル技術×データで解決

――2回目の記事ではカート落ちDMなどのご紹介もありましたが、どのような活用が考えられそうですか。

鈴木:2回目にも少し話しましたが、印刷機を店頭やイベント会場に置いてパーソナライズしたコンテンツを届けることも可能だと思っています。

岡本:たとえばゴルフの試合会場で、プレー中の自分のスイング写真を最後にフォトブックとしてプレゼントするといったキャンペーンは以前からありますよね。ある自動車メーカーでは、試乗後のお客様がアンケートを書いている間に、パーソナライズした内容の見積もりを作り、アップセルを促すといったこともしています。

鈴木:消費者はマーケティングをされたいわけではありません。そうではなく、自分の興味・関心に合ったものが提供されることで喜びに変わっていく。そういったことをデジタル上だけでなく、DMなどの印刷メディアでも可能なことを、マーケターは知っておくべきでしょう。

――届くタイミングや届け方を工夫して、DMなどの印刷メディアの効果も最適化していくべきということですね。岡本さんはいかがでしょうか。

岡本:どのメディアでコミュニケーションする場合でも共通していますが、誰がどのように使うかで、提供できる価値は大きく変動します。印刷に携わる身としては、即ゴミ箱行きのDMやチラシが減り、目的に合ったターゲットに適切なタイミングで届くようになってほしい。これまでのチラシの配り方にとどまっている企業さんがいるのであれば、気軽にデータを活用した配布ができることを伝えたいですね。

鈴木:紙のチラシがやめられない企業が多いのは、効果があるからです。しかし、同時に非効率な部分があることにも気づいているはず。このような問題の起きている紙媒体をデジタルテクノロジーとデータを駆使して、より最適なものにすべきと私は考えています。

未来の印刷が可能にすること

――デジタルテクノロジーとデータが無縁に見えた紙媒体も、これらの組み合わせによって進化しているのですね。

岡本:紙媒体がデジタルとつながったのは一例に過ぎません。私としては、すべてのリアルメディアがデジタルとつながった状態にしていきたいと考えています。

 たとえばDOOH(デジタル屋外広告)。せっかくデジタルとリンクとしているのであれば、その前後にトリガーとなるメディアを使えばさらに踏み込んだ施策ができます。そこで、紙の中にRFIDを盛り込んだり、RFIDそのものを通電性インクで印刷したりするといった研究も進めています。実現できれば、その紙を持っているだけでOOHに近づくとDOOHの内容が変わるというのも可能です。

 すべてのメディアはデジタルの上に成り立つ世界ができると、鈴木さんの唱えるオムニメディアの世界観はより現実味を帯びてくると思います。

――すべてのメディアがデジタルとつながる世界になると、より柔軟なプランニングが可能になるということでしょうか。

鈴木:第5世代移動通信システム(5G)の実現、IoT化が進むとデジタルでつながっていないものは極端に少なくなると思います。接点がリアルかデジタルかの違いなだけで、どちらでも柔軟に条件を可変させてコミュニケーションが取れるはず。その頃には、オンラインとオフラインの統合は当たり前となっているでしょうね。

デジタルに閉じないプランニングを

――最後に、今後のDM、紙媒体がどうなっていくかについてお伺いできますか。

岡本:先ほどのRFIDの事例も1つですが、紙が何かしらのアプリケーションとしての機能を持つようになるといいですね。そうすることで、紙からデータを取得しやすくなるので。

鈴木:そうなると私もいいなと思っています、現状はQRぐらいしか選択肢がないですから。もちろん、QR自体をパーソナライズして個別の情報を入れることができるのですが、QRを読み取るという行為に対するハードルの高さを解消するのは大変ですから。そこに代わる読み取り技術が低コストで実現できると、紙メディアの活用方法は広がるはずです。

岡本:あと、しつこいですが印刷とデジタルがつながっているということは、ぜひマーケターの皆さんに認識していただきたいです。我々は、インフラとして安定した供給と可変性の高さを追い求めていきます。その分、マーケターの方々には生活者をワクワクさせる活用のアイデアを考えていただき、新しいコミュニケーションについて議論できれば嬉しいです。

鈴木:今回の連載では、オムニメディアとタイミングマーケティングをキーワードに解説してきましたが、紙メディアを含めEメールやデジタル広告以外でもデータドリブンでPDCAを回せるようになっています。読者の皆さんはデジタルに閉じず、アナログとデジタルを統合したプランニングについて考えるようになっていただけたら幸いです。

過去2回の記事でデジタル×アナログのさらなる理解を

 今回の記事は3回連載の最終回となっております。デジタル×アナログについてより詳しく知りたいという方は、ぜひ過去2回の記事もご覧ください!

第1回:日本郵便の実証実験プロジェクトから見る「デジタル×アナログ」の未来と活用
第2回:「デジタル×アナログに必要なのはタイミングマーケティング」 その重要性と方法に迫る

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:17 https://markezine.jp/article/detail/30536