20年前からデータドリブンな印刷は可能だった
――前回までのインタビューの中で、鈴木さんからタイミングマーケティングの考え方と、それを実践するための技術環境は整いつつある点についてと語っていただきました(前回記事はこちら)が、具体的にどの程度整っているのか教えてください。
鈴木:昨今、様々なデータを収集できるようになったことで、顧客がどのステージにあるのかを測れるようになりました。そのためデジタル上では、データをもとにタイミングに合わせたコミュニケーションというのを行う企業は増えています。
一方、私が以前よりお伝えしているデジタルとアナログの統合、特にオフラインのコミュニケーションというのは、広告主側のタイミングで送ることしかできていなかった。デジタルとアナログが統合され、アナログでもOne to Oneのコミュニケーションが取れるようになってきたのはここ1、2年のことです。
岡本:正確には、データドリブンで印刷を行うという技術自体は20年ほど前から存在していました。それがマーケティングオートメーション(以下、MA) の技術と連携して、マーケティングでも活用が進むようになったのが近年の動きです。
ここには、昔からデータを活用した印刷はできるのに「印刷メディアは古い、応用が利かない」という既成概念があまりに強すぎたこと、応用した活用方法を印刷供給側が提案してこなかったことが背景にあります。
技術の進歩でタイミング・ボリュームの調整を実現
――以前より、DMなどのオフラインメディアをデータドリブンで印刷するという取り組みは進んでいたのですね。
岡本:たとえば、2010年の全日本DM(ダイレクトメール)大賞で、JTBトラベランド(現在はJTBに吸収合併)と富士ゼロックスの作品がグランプリを獲得しました。この時はターゲットである団塊世代顧客へのアンケートリサーチをもとにパーソナライズDMを制作して配信しており、これが約10年前の事例です。このように、顧客に合わせてDMを送るコミュニケーションというのはその頃から行われていました。
ですが、準備のコストがかかる上に使えるデータも基礎的なメタデータや過去の販売実績ぐらいしかなく、これ以上のスケールで行うのは難しいと結論付けられていました。しかし、日本郵便が中心となり「デジタル×アナログ」の啓蒙活動を進めたことで、ここ1年でその認識も変化しています。
デジタルマーケティングがある一定の成熟期を迎え、デジタル施策だけで顧客にリーチするには限界があるということに気づいたマーケターの方も多いのではないでしょうか。
――確かに、デジタル×アナログの統合というのは、多くのマーケターが現在課題に抱えている部分だと思います。こと印刷メディアでは、どの程度の進化が進んでいるのでしょうか。
岡本:印刷業界に関わる私からすると、「印刷×テクノロジー×マーケティング」はいつでも始められる環境にあります。ただ、印刷会社側がその変化に対応できるかという問題が残っており、その解決に向けて弊社も動いています。
当社が現在パートナーシップを結んでいる印刷会社には、10年前から一緒に戦ってきた仲間も多く、現在の動きを受け設備投資を強化しています。その結果、24時間以内もしくは当日納品が可能な状態の印刷会社も増えており、Eメールに近いレベルで、配信タイミング・ボリュームをコントロールできるようになっています。