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第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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CXの経営ごと化はチャンス CMOは売り上げにコミットし部門のカベを越えたマーケティングを主導せよ

 顧客体験(CX)というキーワードが経営課題として浮上している。製品を売るだけでなく、売る前から購入後までの一貫した体験を提供するにあたって「マーケティング責任者は役割を拡大しなければならない」と主張するのが、アクセンチュア インタラクティブ マネジング・ディレクターの望月良太氏だ。CX時代に求められる先駆的なCMOの役割、現状とのギャップを解決するためのアプローチを聞いた。

なぜCXが経営の最重要課題なのか

――CXという言葉をビジネスメディアでもよく目にするようになりましたが、なぜ今CXがビジネス課題として注目されているのかは必ずしも自明ではないように思います。望月さんはどうして多くの経営者がCXを最重要課題として位置づけているとお考えでしょうか。

 CXの定義は様々だと思いますが、顧客が商品を知り、購入し、購入後も使い続ける――この一連の接点の集合体がCXと定義できると思います。いかにして一貫したブランディングを行い、企業のメッセージを伝え、顧客に感じてもらいたいものを提供できるか、そのためには全体をコントロールする必要があるという認識が高まっています。

 背景として、製品や商品のコモディティ化が進んでおり、差別化できる点が減ってきていることがあります。消費者側も、モノへのニーズはそこそこ満たされており、モノ消費からコト消費、さらにトキ消費へと生活者の要求がシフトしています。モノ単体ではなく、それを使った時にどんなに気分が上がるのか、満足できるのかが新しい基準になっているのです。

 新しい消費者は、以前の消費者に比べて、製品や商品を選ぶための基準の範囲が広くなっています。たとえば、ミレニアル世代と言われる若い人たちは、企業が社会に関わる姿勢でブランドを決める傾向があると言われています。また、特定の決済手段・配送手段が使えるか、接客やお店の雰囲気がよいかなども選択基準の中に入っています。

 製品や商品を選択するための基準が広がった消費者の心をつかむために、一連の接点の集合体であるCXを魅力的にすることが重要なのは明らかで、フォレスターの調査結果によるとCXスコアが1ポイント上がると年間収益が1,000万~1億ドルも増加することが明らかになっています。これこそが、CXが経営課題となっている理由です。

アクセンチュア インタラクティブ 望月良太氏
アクセンチュア インタラクティブ 望月良太氏

経営層を巻き込まないと実現しないキャンペーンが増えてきている

――CXが重要になる中で、CMOのあり方はどのように変化しつつあるのでしょうか。

 狭義のマーケティングから広義のマーケティングへのシフトが進んでおり、マーケティングKPI(重要業績評価指標)からビジネスのKGI(重要目標達成指標)へとコミットが変わりつつあります。

 これまでのCMOはブランドオーナーであり、広告・広報が主な担当でした。狭義のマーケティングにおける責任者で、広告代理店やプロダクションをパートナーとし、コミュニケーション領域に特化していました。

 現在はCMOが関与する領域が広がっており、広告やコミュニケーションだけではなく、購買、アフターセールスも領域に入ります。最近は二次流通市場が大きくなっていますが、そういったことも関係してくるでしょう。このように領域が広がると、CMOが商品自体に意見を持つ必要性も出てくるかもしれません。

 また、クリエイティブやコミュニケーションの領域であっても、マーケティング部門だけでは実現できず、CEOや営業部門長を始めとする経営層を巻き込めたからこそ実現した、大胆なキャンペーン事例が増えてきています。

 たとえば、NikeのDream Crazy("Just Do It" 30周年キャンペーン)が好例です。このキャンペーンは、アフリカ系米国人に対する警察の暴力を批判するために、国歌斉唱中に起立を拒否して国論を二分するセンセーションを引き起こした人気アメフトプレーヤーのコリン・キャパニック氏を炎上覚悟で起用するなど、マーケティング部門だけでは決断できないようなリスクをとって破格の成功を手にしました。

 他の例としては、米国のアウトドア用品ブランドREIが、ブラックフライデーに店を閉めるキャンペーン(#OptOutside)を展開しました。「ショッピングするのではなく外に出てアウトドア活動を楽しもう」というメッセージですが、米国で最も商品が売れるブラックフライデーに店を閉めるというキャンペーンは、営業を管掌する経営層の理解なくしては実現不可能だったはずです。

 このようにクリエイティブやコミュニケーションのアウトプットを大きくするためには、CMOだけでなく、他のCクラスの理解や決断が必要になります。卓越したCMOとは、担当領域も責任範囲も従来より広くとるものだと言えます。

全体最適の視点で社内のサイロを打破できるか

――ビジネス指標に関わる施策をマーケティング部門が実行するためには、CMOはどのような立ち回りをすべきなのでしょうか。

 マーケティングの領域が広がっていることを意識し、マーケティング部門のトップは全体最適の視点を強く持って動く必要があると言えます。

 たとえば人材。デジタルマーケティング部門を作ってもジョブローテーションがあるためにせっかく育成した人材も別部署に異動してしまい、またデジタル知識の乏しい社員が入ってくる、するといつまでも「新人」しかいない、という話はよく聞きます。

 ジョブローテーションは人事マターであって、マーケティングの責任者の範疇ではない。そんな部門間のカベを越えて、マーケティングのトップが、デジタルマーケティングの部署では人事組織のルールを変えてくださいといった要求を言えるか・言えないかで大きな違いが生まれます。

 システムやデータも同じです。自分の部署の管轄ではないので特定のデータが使えないから分析が浅くなる、という問題はよくありますが、マーケティングのトップがリーダーシップをとって社内のサイロやファイヤーウォールを壊せるかどうかが大事なのです。

今はコラボレーション主導型CMOになれるチャンス

――CMOは宣伝・広報責任者という立ち位置に留まるのではなく、顧客視点で社内のサイロを乗り越えて変革を実現していく先導者になる必要があるのですね。

 CMOはCXを軸に事業部門間をつなぐ役割が期待されています。そこで我々は新しいタイプのCMOを「コラボレーション主導型CMO」とし、とるべき4つのアクションとして、(1)顧客の声をCクラスに浸透させる、(2)企業内でコラボレーションを促進する、(3)顧客ニーズにあわせたテクノロジーを用意する、(4)イノベーション文化の創造を提示しています。

――「CMOの役割が変わる」という御社のレポートで「マーケターを志すには絶好のタイミング」とあります。これは日本のマーケティング責任者にも当てはまるのでしょうか。

 日本ではそもそもCMOという役職を作るかどうかの問題もありますが、時代の方向性として、CMO的な立ち位置の責任者が全体最適の視点を持つことが認められつつあります。会社の業績へのコミットが許されるようになれば、これまでは口を出せなかったところに対しても関わることができるようになる。そういった点で、最高のタイミングです。裏を返せば、そうせざるを得ない状況とも言えます。

もっと詳しく知りたい方に

アクセンチュア インタラクティブについて
調査レポート:CMOの役割の再考
調査レポート:新時代のCMO

日本のマーケティング責任者が直面する課題

――CMOが新たに担うべき役割についての議論では、海外の先進的なCMO像が色濃く反映されていると思います。そもそも日本と海外では、従来型のCMOであっても位置づけが異なるという指摘も多いです。

 CMOの違いの前に、まずマーケティングの位置づけが異なります。

 欧米には様々な人種や言語の人が暮らしており、メディアも細分化されています。一方で日本は同質性が高く、モノを作れば売れる高度経済成長期があったため、マーケティングがそれほど重要ではありませんでした。メディアの選択肢も少なく、マス広告を打てば売れた時代がありました。ある意味、効率的だったと言えます。日本の商品は高い技術力に裏打ちされていたことも関係しています。

 その結果、強い製品を持っている会社ほどマーケティング部門が弱い傾向がありますし、数字を背負うのは営業部門であることも重なって、マーケティングセクションの発言力は弱くなります。

 しかし、かって均質傾向にあった消費・購買ニーズは、細分化の一途をたどっています。もはや性年代などのデモグラフィック属性のアプローチだけでは成果は作れません。多様化した個人のニーズ、消費の価値観に沿って丁寧に対応しないと購買には至りません。よりカスタマイズ化・パーソナライズ化された商品が求められる傾向にあります。

 こういった生活者側の変化への対応を可能にしているのがメディア・プラットフォーム側の進化です。テレビなどの4マス媒体に加えて、デジタルの各種メディアやソーシャルプラットフォームが台頭しています。そこでは膨大なコンテンツが限りなくリアルタイムに生み出されており、自分が知りたい情報をいつでも好きな時に場所を問わず検索し深掘りできる環境が生まれました。

 こういった情報大爆発時代では、これまでのやり方は通用しなくなりました。マーケティングドリブン(マーケティング起点)の発想がこれまで以上に必要になると考えられます。

全体最適の視点で取り組む権限を得るため、経営指標にコミットせよ

――日本のマーケティング責任者を欧米型の先駆的なCMOにするために、CMOの職務をどのように定義し直せばいいのでしょうか。

 CMOが全体最適の視点で取り組めるようにするため、CMOに権限を付与する必要があります。権限を持ったCMOが、人事トップ、営業トップ、経営企画、システムの各トップと連携して、全社あげてのマーケティングを展開することが求められています。これにより、質の高いCXの提供を推進できるでしょう。

 CMOは権限を持つだけでなく、経営へのコミットメントを深める必要もあります。経営への関与が高まれば他のCレベルとのコラボレーションが生まれ、情報共有の枠を越えてマーケティング改革を進めることができます。CMOは、経営陣と共通のミッションの下に他の部門の執行役員をまとめあげるオーケストレーションのような役割を目指すべきだと考えます。

 その前提として、マーケティング部門は経営指標にコミットすべきです。具体的には、マーケティング部門として追求している数値目標が売り上げ指標にどのようにつながっているかを明らかにする必要があります。同時に、獲得目標が「一人でも多く」といった測りようがない目標になっている場合や、前任者が設定した根拠に基づかない無謀な数値になっている場合は、現実的な目標を立て直すことも重要です。

マーケティング指標と経営指標を結びつける

――マーケティングの指標が売り上げにつながっていないと、マーケティング責任者の発言力や社内における存在感も小さくなりますね。

 その通りです。しかし、マーケティングのKPIと売り上げのKGIが結びつきにくいのも事実です。そこで我々は、仮説でもいいので、まずは結びつける、関連性の方程式を作ってみることを提案しています。

 たとえば、オウンドメディアのPVがこれぐらい増えたので、リアルの売り場においても売り上げにはこれぐらい影響しているというような仮説が確からしければ、PVと売り上げをつなぐ関数がブラックボックスだとしても「PVを上げることには価値がある」となります。逆に、マーケティングのKPIは上がっても売り上げへの影響はないとなると、KPIをどう変えるべきかの試行錯誤ができます。

 このようにマーケティングKPIとビジネスのKGIを結びつける仮説を作り、方程式に落とし込めるかどうかは、施策を実施しPDCA運用を行う上で大きな違いを生むと思います。我々はコンサルタントとしてマーケティングKPIを見直したり、統計学を用いてKPIとKGIとつなぐ方程式を作るお手伝いもしています。

もっと詳しく知りたい方に

アクセンチュア インタラクティブについて
調査レポート:CMOの役割の再考
調査レポート:新時代のCMO

「広告代理店」ではなく「マーケティング代理店」

――ずばりアクセンチュア インタラクティブと大手広告代理店との違いはどこにあるのでしょうか。

 我々は、いわば広告代理店ではなくマーケティング全体、広義のマーケティング代理店ですので、当然支援できる範囲が広くなります。コミュニケーション領域だけではなく、組織、業務プロセス、システムの視点からも企業を支援できます。

 たとえば、セキュリティを担保しながら、複数の部署が共通して閲覧できるようなシステムを作るような支援もできます。システム、戦略、業務コンサルの領域ではアクセンチュアのコンサルチームと連携して進めます。

 もう一つの大きな違いは、トップダウンのアプローチがとれる点です。広告代理店はマーケティング部門の現場レベルとボトムアップで施策を作り上げていくケースが多いと思いますが、我々は企業の経営陣に対して「マーケティングはこうあるべき」という話から入らせて頂くことが多いです。

 これに加えて、メディアやソリューションに中立的な立場であるため、支援内容が広告ビジネスに限定されません。たとえば、広告を打つよりもサービス開発に力を入れるべきであるといった、常にあるべき姿、とるべき方針の観点から提案をさせて頂いています。

成功しづらい横串マーケティング組織を業務プロセス定義で支援

――マーケティング部門の仕事のあり方や組織改革を支援した事例をお聞かせください。

 あるメーカーでは、デジタルマーケティング組織のあり方を再定義するのを支援しました。

 デジタルマーケティング部門を立ち上げても、社内で存在感を得られていないというケースは実は数多くあります。これまでは各事業部が個別に代理店と契約してデジタルマーケティングを展開してきたので、横串のデジタルマーケティング部門を立ち上げても事業部や商品部にあまり頼ってもらえないわけです。

 あるいは、事業部のデジタルスキルが弱すぎてデジタルマーケティングの知識がない場合は、逆にデジタルマーケティング部を頼りすぎ、デジタルマーケティング部門が個別の対応に追われて力を発揮できなくなります。どちらにしても、横串組織の意味がなくなってしまいます。

 とあるメーカー様の場合は、事業部のデジタルマーケティング能力が弱いケースでした。本来であれば、デジタルマーケティング部が様々な技術やツールを事業部に提案するはずが、事業部門からの細々とした相談が押し寄せてしまい、組織設計から始める必要がありました。現状を把握してどこにボトルネックがあるのかを調べ、ボトルネックを解放するにはどのようなスキルの人が何人必要なのかといったことを定義させて頂きました。

 このプロジェクトの効果創出に大きく貢献したのが、業務プロセスの定義でした。事業部からどんな依頼が来ているのか、依頼している人のレベルはどのぐらいなのか、それに対応するにはどんな人を入れればよいのか、を整理したのです。人を入れただけではパンクしますから、実際に仕事をさばいていくにはどういうプロセスにすべきかも考えました。

 別の事例では、事業部でデジタルマーケティングを実施していたが、Webマーケティングを進める中でPDCAサイクルの確立と改善が課題になりました。そこで我々がその事業部と広告運用の委託先企業との間に入り、“デジタル翻訳”という役回りでKGIの設定、それを回すためのPDCAサイクルの構築を進めました。

コラボレーション主導型CMOを全方位で支援

――全社的で包括的なマーケティングを網羅的に支援できるのがアクセンチュア インタラクティブの強みですね。

 そうですね。この強みを存分に発揮するために、包括的マーケティングサービス支援として「Unified Marketing & Sales」の提供を始めました。これは、チャネルと部門のカベによって断絶している企業内のマーケティング・セールス活動を、経営のKPIとつなげ、一貫性を保ち、持続的な売り上げ拡大に直接寄与するスキームを構築・提供するというものです。

 戦略立案から、施策実行、組織変革、プロセス設計、プラットフォーム構築まで、デジタルマーケティング活動に関わる全方位をカバーするプログラムになっており、コンサルティング、エージェンシー、システムインテグレーター、アウトソーサーの機能を備えたアクセンチュアならではのサービスだと自負しています。

もっと詳しく知りたい方に

アクセンチュア インタラクティブについて
調査レポート:CMOの役割の再考
調査レポート:新時代のCMO

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーライター

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MarkeZine(マーケジン)
2019/08/30 10:00 https://markezine.jp/article/detail/31841