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号あたり部数は3年で9%増!フリーペーパー『SUUMO 新築マンション』がデジタル時代も強いワケ

 リクルートといえば、求人、住まい、美容と様々なジャンルでフリーペーパーを発行し、集客成果を上げている。中でも、新築マンション検討者向けの『SUUMO(スーモ) 新築マンション』の号あたり部数は、この3年で9%も伸びているという。本記事では、フリーペーパーの役割とターゲットを明確にし、コンテンツ・タイトルを磨きこんでいく戦略について、リクルート住まいカンパニーの佐々木綾香氏と坂田直樹氏に聞いた。

初期検討層をターゲットに訴求

――はじめに佐々木さん、坂田さんのご担当業務についてお聞かせください。

佐々木:『SUUMO 新築マンション』というフリーペーパーのグループマネージャーとして、メディア全体の統括などをミッションとしています。また副編集長として情報発信する役割も担っています。

リクルート住まいカンパニー 編集部 マンション・戸建・流通情報誌グループ グループマネージャー 佐々木 綾香氏
リクルート住まいカンパニー 編集部
マンション・戸建・流通情報誌グループ グループマネージャー 佐々木綾香氏

坂田:私はフリーペーパーチームのリーダーを務めています。メディア全体としての戦略策定や売上向上のための施策などについて、より現場に近いところで考えています。

――デジタル全盛時代の現在も、『SUUMO 新築マンション』は重要な役割を果たしていると聞きました。メディア戦略全体の中で、フリーペーパーはどのような位置づけなのでしょうか。

佐々木:当社では『SUUMO マガジン』『SUUMO 注文住宅』など、住宅の種類や購入目的に応じて8つのフリーペーパーをエリアごとに刊行しています。中でも、私たちが担当する『SUUMO 新築マンション』は、文字通り新築マンションの購入を検討している方々に向けたメディアです。

 新築マンション領域については、フリーペーパー、PC・スマホのネットチャネル、店頭でアドバイザーに相談ができる『SUUMOカウンター』の3つのチャネルで、ユーザーの物件探しをサポートしていますが、フリーペーパーは、「新築マンションに限らず、漠然と家が欲しい」「なんとなく物件購入に興味がある」と感じている、初期検討層をターゲットとしています

坂田:メディア全体としては、スマホでの『SUUMO』アプリの利用が増えていて、ネットが占める割合は多くなってきています。ただ、数千万円単位の買い物になると、お客様にも様々な不安があります。そこでフリーペーパー、ネット、店頭、3つのチャネルで検討初期から購入までを、トータルでサポートしているのです。

リクルート住まいカンパニー 経営企画室 編集部 マンション・戸建・流通情報誌グループ マンション商品企画チーム 坂田直樹氏
リクルート住まいカンパニー 経営企画室 編集部
マンション・戸建・流通情報誌グループ
マンション商品企画チーム 坂田直樹氏

身近な接点&情報の一覧性を活かす

――ネットや店舗も含め3つのメディアが展開されている中で、フリーペーパーのユニークネスはなんですか。

佐々木:漠然と「家が欲しい」と思ったとき、フリーペーパーなら駅やスーパーマーケット、商業施設など、身近な生活導線上にある専用ラックで気軽に手に取れる点です。また、「誌面をパラパラとめくりながら、まずは大まかな相場を把握したい」という初期検討層のニーズに応えられますし、家探しのノウハウもひと通りチェックすることができます。住宅検討において抑えておいた方が良いポイントを短時間で把握でき、次のアクションを促しやすいメディアだと思います。

坂田:新築マンションカスタマーの生活導線となる、街の至るところに専用ラックを設け、購入検討者と接点を持てるというのは、私たちならではの強みです。

 

 また、紙の情報誌の良いところは、情報の一覧性です。どのエリアにどのような価格帯のマンションがあるかを誌面上で俯瞰して比較できます。するとお客様は、物件の相場観や、希望条件、エリアなどご自身の「検索軸」を早期に手に入れることができるんです

 一方で、インターネットの検索だけでは出会えなかったような物件にも偶然出会えるなど、選択肢の幅も広がります。そしてそこからネットの検索機能を使う、モデルルームへ足を運ぶといった行動をスムーズに行っていただいているようです。実際、フリーペーパーとネットを併せて使っていただいた人のほうが、ネットのみを使った人よりもより短い期間で物件購入まで至ることも調査からわかっています。

“鉄板記事”に異変が!?それでも休刊にしなかった理由

――ここ10年ほどで、お客様のメディア利用環境も新築マンションの購入市場も変化したと思います。それにともない、フリーペーパーの活用戦略も変えていったのでしょうか。

佐々木:そうですね。地価の高騰や物件価格の上昇にともない、購入者の平均世帯年収は1.5倍上がりました。人々が住まいに求める条件も変わっています。

坂田:ラックに置いたときに非常に多く手にとっていただける特集――私たちは「鉄板記事」と呼んでいるのですが――にも、変化が出てきました。以前は「マンションvs戸建て」「住宅ローンの種類」「買う VS 借りる」などの新築マンションの購入に関するノウハウ記事に人気があったのですが、ターゲットとする層の情報感度が高くなり、ノウハウ情報はネットで検索すればすぐわかるようになったこともあって、一時期、手に取っていただける部数が減ってしまったことがありました。

――部数が減ってしまった場合、休刊・廃刊にするという決断を下すと思うのですが、コンテンツを変えて巻き返しをはかろうと考えたのはなぜでしょう。

坂田:実は休刊も経験しているんですよ。10年ほど前、名古屋版を休刊にしたことがありました。

 ところが休刊にしてみると、名古屋エリア全体でモデルルームへの来場者が軒並み減ってしまったのです。名古屋エリアのマンション供給クライアント様たちからも、「早くフリーペーパーを復刊して欲しい」というお話を聞き、その後復刊に至りました。

ペルソナ変更から着手しブラッシュアップ

――アンケートでは見えにくかったものの、フリーペーパーには確かに効果があることがわかったのですね。

坂田:はい。このときわかったのは、フリーペーパーはラックインフラと情報の一覧性を強みとして、「検討カスタマーの購入意欲喚起」という重要な役割を担っていたのだということ。新築マンションマーケットの創造をも担っているということがわかり、フリーペーパーを止めるのではなく、ブラッシュアップして続けていこうという事業判断をすることになりました。

佐々木:現在『SUUMO 新築マンション』首都圏版の発行部数は、2週間で4万9,000部です。モデルルームの来場者数は、2週間で1万4,000件くらい。そう考えると、かなりの数のお客様にリーチしていることになります。

――再始動にあたって、まずは何から行ったのでしょうか。

坂田:まず読者のペルソナ設定を大幅に変えることにしました。10年前は、マンションに広さや眺望といったスペックを求める方々が多かったので、「より豊かな暮らしをしたい専業主婦世帯」が主なペルソナでした。

 しかし今は共働き率の上昇もあり、新築マンション検討者の世帯年収も上がっており、都心へのアクセスや子育て環境、時短という項目が、重視されるようになってきたことから、「共働きで世帯年収1,200万円くらいのパワーカップル」を、メインのペルソナとして置き直しました。

“1秒4文字”が勝負!表紙タイトルの磨き込み

―― 誌面作りでは、どのようなことを大切にしていますか。

坂田:メインターゲットである「世帯年収1,200万円以上のパワーカップル」に向けて、街に焦点を当てた記事を中心に制作しています。

 パワーカップルたちは、物件の広さや価格などのスペックはもちろんのこと、通勤アクセスや子育て環境など、「街」という観点も重要視していることがわかってきました。そのため、たとえば「住み心地ランキング」「東京23区学校力調べといった、多角的に街を紹介する企画に取り組んでいます

佐々木:表紙タイトルの言葉選びが勝負ですA/Bテストや手に取られた部数の集計から、響くワードと響かないワードを分析するようにしています。

 たとえば「学校力」は部数が伸びるけれど、「中学受験」「保育園」はそれほど伸びない。中学受験や保育園といったテーマは、関心のある時期が一過性のため、読者との接点を狭めてしまうのが要因のようです。

 それから、人間が1秒に認識できるのは4文字くらいまでと言われているので、スマホを見ながら道を歩いていても手に取りたくなるような言葉選びをするようにしています。記事の中身とメリットが、歩きながらでもわかるように極力3~4文字に抑えるよう気をつけています

――現在、効果測定はどのように行っているのでしょうか。

佐々木:どれぐらい手に取ってもらえたかという、いわゆる「号あたり部数」を見ることが第一です。それから、モデルルーム来場者に取っていた紙のアンケートをiPadによるデジタルアンケートに切り替え、データを収集しています。

 先ほど、モデルルーム来場時のアンケートで接触した媒体としてフリーペーパーを挙げる人が少なかったとお話しましたが、アンケートでは、やはり記憶に新しい「最後に閲覧したメディア」のみを回答される方が多く、検討の初期段階で手に取られるフリーペーパーの貢献度は、低く見積もられてしまっていたようなのです。

 そこでデジタルアンケートでは、選択肢と一緒に『SUUMO 新築マンション』の表紙写真を載せるなどして、どのメディアに接触したかをより正確に思い出してもらえるようにしています

他の業界に学び、新しい顧客体験を創出

――現在はお客様のデジタルシフトに合わせて、メディア戦略だけでなく、顧客体験の改善にも取り組まれているそうですね。

坂田:はい。現在『不動産情報サイト「SUUMO」』では、モデルルームの即時予約システムの導入が進んでいます。美容や飲食といった業界では当たり前かもしれませんが、モデルルームの予約は、これまでとても手間のかかるものでした。

 電話で「見学に行きたいのですが」と問い合わせると、クライアントさんが調整してから、折り返し連絡がくるという仕組みのため、お客様は正式に決定するまで他の予定を入れにくい。また、モデルルームでの接客は時間も要するため、2時間、3時間と接客されてくたびれてしまう、ということもよく起こっていました。

 そこでネットで予約をする際に、「平日の夜30分ご案内コース」や「接客なしで自由に見てください」というコース、「2時間ご説明しながらじっくりご案内します」など、様々なコースを分け、カスタマーの様々なニーズに合わせ、その場で予約が成立できるようにしました。

即時予約システムのイメージ
即時予約システムのイメージ

――初期検討からモデルルームの来訪まで一連のフローにおいて、利便性の向上に取り組まれているのですね。最後に、今後の展望を教えてください。

坂田:メディア戦略については今後も、これまでなかった“半歩先の観点”でコンテンツを出し続けるとともに、フリーペーパーならではの新しい選択肢や切り口を提供していきたいと思います

 フリーペーパーからネットへ、そして来場へとつながるOMOにも、積極的に取り組んでいきたいです。新築マンション業界にとっても、検討者にとっても欠かせない媒体であり続けたいと思います。

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/30 17:57 https://markezine.jp/article/detail/32947