※本記事は、2020年3月25日刊行の定期誌『MarkeZine』51号に掲載したものです。
決済サービスはPayPayが圧倒的
2019年には、消費税増税、キャッシュレス・ポイント還元事業がスタートしたことから、キャッシュレス決済サービスが注目を集めた。中でもPayPayが実施したキャッシュバック施策の「100億円キャンペーン」は多くの注目を集め、認知率と利用率が急激に増加。MMD研究所が2019年9月に行った調査によると、メインで使用しているQRコード決済サービスのうち44.2%の人がPayPayと答えた。楽天ペイが17.1%、LINEPayが13.6%と続くが、その差は歴然としている(図表1)。
QRコード決済サービスについては各社が先行投資する状態が続いているが、ヤフーは2019年11月にLINEと経営統合を発表。また、メルペイはNTTドコモと提携。乱立する決済サービスが少しずつ統合されていく流れが見られるが、シェアを取りきれていない他社がどう動くかは未知数だ。
いずれにせよユーザーの利便性やデータ活用の観点からキャッシュレス化は進展していくと見込まれているため、2020年も大きな変化が起きるのではないだろうか。
DtoCとインフルエンサーの進出
マーケティングに携わっているともはや聞き飽きたかもしれないDtoC。生産から流通、販売、ユーザーとのコミュニケーション、ファンコミュニティの形成まで一気通貫してブランドを運営する新しいビジネスモデルとして日本でも取り組む企業が出ている。
DtoCはスタートアップの立ち位置で参入するケースが多く、アメリカでは大企業によるブランド買収も増えてきている。こうしたDtoCの隆盛の背景には小売におけるEC化率の高まりやデジタルチャネルでの売上上昇があり、消費者が気軽に情報発信できるようになるなどの変化が新興ブランドにチャンスをもたらしていると考えられている。
DtoCはデジタルが主戦場であるため、ソーシャルメディアやインフルエンサーとの相性もいい。さらに、インフルエンサーが自らブランドを立ち上げる事例がアメリカだけでなく日本でも見られるようになった。たとえば、元AKB48の小嶋陽菜によるアパレルブランド「Herlipto」の成功、きゃりーぱみゅぱみゅがクラウドファンディングで香水ブランドのプロデュースを行うなど、ファンを起点としたビジネスとしてDtoCが浸透しつつあると言えるだろう。この流れは2020年以降、より加速していくと思われる。
サービス・ドミナント・ロジックの重要性
2019年を象徴するビジネスモデルといえば、DtoCの他にサブスクリプションモデルがある。ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSがその発端だと言われるが、今後はあらゆるプロダクトがサービス化していくとする識者もいる。この変化を象徴する考え方が「サービス・ドミナント・ロジック」である。
サービス・ドミナント・ロジックには4つの公理があり、それらを満たしていることが必要となる(『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』同文舘出版)。
公理1
サービスが交換の基本的基盤である
公理2
顧客は常に価値の共創者である
公理3
すべての経済的および社会的アクターが資源統合者である
公理4
価値は常に受益者によって独自にかつ現象学的に判断される
ここですべてを解説することとはできないが、公理2について、顧客はサービスを売り込まれるだけの存在ではなく、企業と協力してマーケティングを行う存在だとされている。サービスを中心にビジネスを捉え直すことで、従来の商品開発やマーケティングとはまったく異なる方法論を導き出せるだろう。クラウドサービスの普及も、サービス・ドミナント・ロジックの広がりを後押ししている。
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プラットフォーマーのネットワーク効果
GAFAなどプラットフォーマーの存在感は年々増している。利用者が多ければ多いほどサービスの価値が高まる仕組みをネットワーク効果というが、プラットフォーマーが力をつけ寡占が進むほどその効果が顕著となる(図表2)。
なぜプラットフォーマーにネットワーク効果が働くのかといえば、たとえば検索サービスでは広告料を原資とするためサービスを無料で提供し、さらに広告枠を設定することができる。同時に、ユーザーは検索を何度も利用することで自身の興味やニーズといったデータを提供することになる。そのデータに基づいた広告配信が成果を改善し、広告主がさらに利用料を支払い、それによって検索サービスが充実し……という構図だ。
主要なプラットフォーマーがトップに君臨し続ける理由はまた、ユーザーにとってサービスのスイッチングコストが高いからでもある。長年同じサービスを使っていたり、友人や好きな著名人があるSNSを利用していたりすると、自分がわざわざ新しいサービスに移行する動機も生まれにくい。そのため、利用データはますますそのサービスに蓄積されていく。
キャッシュレス決済サービスの普及に向けて各社がしのぎを削っているが、そこでも同様にネットワーク効果やスイッチングコストといった部分が主たる課題となっていると考えられる。
プライバシー保護にどう向き合うべきか
EUで施行された一般データ保護規則(GDPR)は日本でも大きな波紋を起こした。AppleやGoogleもCookieの制限・廃止に向けて動いている。ユーザーの同意を得ずにCookieやデータを利用することへの懸念や、ターゲティング広告に対する不快感なども表出しており、多くのマーケターがユーザーとのコミュニケーションをどのように変えていけばいいのかの岐路に立たされている。
サイカが2019年7月に企業の広告宣伝担当者を対象に行った「個人情報保護の規制強化による影響実態調査」では、規制強化によって「現在影響が出ている」と答えた人が52.8%、「今後影響が出る可能性がある」と答えた人は38.4%となった(図表3)。
11月の追加調査では、それでも「個人データ取得を継続」すると回答した人が49.3%となり、本当に対策すべきか、どのように対策すべきか、結論が出ていない様子がうかがえる。ただ、そうは言っても政府機関やプラットフォーマーが動き出せば追従せざるをえないのが実情。早めに動向を把握して対策を始めることが賢明だろう。
データとAIを活用する際の倫理
データ活用については情報銀行のような、ユーザーが自ら進んで提供した情報を利用するビジネスも現れ始めている。また特に、今後AIが普及すればするほどその活用にはデータが必要となる。その潮流では特にAI利用に関する倫理が重要になってくる。
野村総合研究所が2019年10月に発表した『NRIグループAI倫理ガイドライン』では、以下の6つが骨子となっている。
- ステークホルダーとの対話・共創の推進
- AIの発展と人材の育成
- 公平性の尊重
- 安全性・セキュリティの担保
- データとプライバシーの保護
- 透明性の確保
AIが人間の持つ偏見を学習し、偏見を露骨に表現したり、偏見に基づいた判断を行った事例を聞いたことがあるかもしれない。「公平性の尊重」はまさにその懸念に対応している。
データ活用であれAIの利用であれ、個人が不当に差別されないよう努めるのはビジネスを行う側の義務と言えるだろう。
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