第1回の記事では、SaaS事業の部分最適が起こる構造的な原因に触れながら、問題解決の仕組みを作るためには「顧客起点」での目標設定が必要だと論じた。改めて振り返ろう。
第1回の振り返り
・SaaS事業の機能別組織は短期間での成長を可能にするが、一方で「数⇔質のトレードオフ」や「顧客への期待値設定ミス」という部分最適を引き起こす。
・これらの部分最適はLTV悪化に直結するだけでなく、相互連鎖して悪循環を生み、SaaS事業の成長の土台を揺るがす。
・部分最適が起こる根本原因は、目標設定の仕方にある。各チームが「リード・商談・受注・継続利用」という、本来相関を持つべき変数を独立して追う限り、部分最適は構造的に解消されない。
・問題を解決するためには、SaaS事業の「原則」に立ち返る。つまり、目標設定も「顧客起点」で行うことが必要。
そして第2回となる本稿では、顧客起点での目標設定の概要を説明しながら、気を付けるべきポイントを解説していこう。
「顧客起点での目標設定」を一文で表すと……
まず「顧客起点での目標設定」の定義をしておくと、「各チームの役割と目標を、顧客体験全体の中で示す」ということだ。
顧客体験自体の定義も後ほど行うが、要は顧客にとって理想の状態を実現しようとしたときに、どのような変化が必要になるかを俯瞰的に描き、その変化の「中」で各チームがどこに責任を持つかを定めるということを指している。
"自社起点" vs "顧客起点" の目標設定
より具体的に、自社起点と顧客起点の目標設定を対比させてみよう。自社起点の目標設定とは、第1回でも触れた「リード数~継続利用数」をKPIとする考え方のことだ。
表の上部(青色)が自社起点、下部(赤色)が顧客起点の目標設定のイメージだ(幾分かは単純化している)。このように見れば、両者の視点がまったく異なっていることがわかる。当然、自社と顧客どちらを起点としているかという違いが最初に目に付くが、それによって後のチームにつながる「必然性」を設計しようとしていることが最大の違いだ。
第1回で述べたように、各チームが独立したKPIを追うがあまり、いくらリードを取っても商談につながる「必然性」がないものでは部分最適を引き起こす。だからこそ、たとえばマーケティングチームが追うべきは商談につながる課題意識を顧客に持ってもらえたかどうかだ。課題意識を持っていない顧客と商談に至る可能性は低く、百歩譲って商談や受注につながったとしても、顧客側に課題解決という目的がない状態では継続利用はされないだろう。
もちろん、気づいてもらうべき課題には複数のパターンが存在しうる。ただ繰り返しになるが、重要なことはどんな形であれ次のチームにつながる必然性を設計しない限り、単純な「数」という計測しやすい指標に振り回され、部分最適に陥ってしまうということだ。「計測しやすい指標に振り回されて全体感を見失う」という人間の性質は、選択的注意テストの実験からStreetlight Effectの逸話まで、様々な視点から論じられている。
ここまでの話から、まずは顧客体験を描くことで次につながる必然を作り、それから各チームの役割・目標を設定することについて、そのイメージと重要性をある程度把握いただけたのではないかと思う。しかし、顧客体験を設計する上でも様々な落とし穴が存在する。後半では、その落とし穴を避け、効果的な顧客体験を設計するために必要な3つの視点を紹介する。