顧客体験を設計するために必要な視点(3)
最後の視点は、「顧客の行動に変化をもたらす、必然的な理由は何か?」という点だ。

顧客体験を描くにあたって陥りがちなパターンは、顧客の行動だけに着目して描き、それだけに基づいて施策を考えてしまうことだ。しかしこれでは、施策を実行して問題が起こったときに、「どこで起こったか」しか把握できず、「なぜ起こったか」を特定することが難しい。

また、本稿冒頭でも述べたように、行動変化だけでなくその変化が起きる「必然」の設計こそ重要だ。その必然が作れなければ、わかりやすい「数」の指標に振り回され、成果につながらない大量のリードや商談を生んでしまうことは既に繰り返し述べた。
もちろん最初から精度の高い仮説を作れないかもしれないが、顧客理解を進めながらその必然をアップデートしようとするケースとそうでないケースを比較すれば、大きな差がつくことは明らかだ。そしてそのアップデートのためにも、行動の変化を導く「理由」まで含めた全体の設計図が最初から必要となる。
以上の通り、第2回では顧客起点での目標設定の概要と、顧客体験を描く上で必要な3つの視点を紹介した。3つの視点を満たす顧客体験は、顧客との摩擦を解消し、顧客視点に立つが故に効果的で、改善可能な設計図として機能する。

しかし、現実的にはこれらの視点を満たす顧客体験をゼロベースで設計するのは非常に難しい。そのために様々なフレームワークが存在するわけだが、第3回では今回解説した3つの視点を満たし、効果的な体験設計を可能にしてくれる「パーセプションフロー(R)・モデル」(※)という考え方を紹介したい。
(※株式会社クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏が考案した、マーケティングの全体設計図)
第2回まとめ
・「顧客起点での目標設定」を言い換えると、各組織の役割と目標を顧客体験全体の中で示すということ。
・しかし、顧客体験を描くにあたっては様々な落とし穴が存在する。その落とし穴を回避し、効果的な顧客体験を描くために必要な視点は3つ。
・視点(1):「ベネフィット」とは何か?
→ブランドができることではなく、顧客が得たい・達成したいことを軸にする。ベネフィットの明示なしに、顧客体験を描くのは不可能。
→ベネフィットは、カスタマーにとってのサクセスとも言い換えられる。
・視点(2):顧客は「現状」どのような状態に置かれているか?
→顧客の行動や思考は、ブランドとの関わりを持つ前に始まっている。その状態を起点にしなければ、顧客視点に立った効果的な体験は描けない。
→「現状」とは、ベネフィットを得ようとして顧客が既に採用している解決策のことを指す。
・視点(3):顧客の行動に変化をもたらす「必然的な理由」は何か?
→行動だけを描写した顧客体験では、施策実行の際に成功/失敗の理由がわからず、有効な打ち手を導けない。また必然性が説明できない活動は、やみくもな「量」を追うことにつながり、部分最適を引き起こす。
・ 3つの視点を満たすことで、(1)顧客との摩擦を解消し、(2)顧客視点に立つが故に効果的な、(3)改善可能な顧客体験を描ける。