「正解を出す力」ではなく「創造力」が求められる時代へ
今回紹介する書籍は、『感性思考 デザインスクールで学ぶ MBAより論理思考より大切なスキル』。著者の佐々木康裕氏は、イリノイ工科大学デザイン大学院(Institute of Design)修士課程(Master of Design Method)修了。総合商社でベンチャー企業との新規事業立ち上げ等を経験した後、経済産業省でBig DataやIoT等に関するイノベーション政策の立案を担当。現在は、デザインコンサルティングファーム「Takram」のディレクター兼ビジネスデザイナーとして、幅広い業界で企業のイノベーション支援をしています。
今、世界のビジネスマンの間では「論理思考」を鍛えるMBA(経営学修士)ではなく、「感性思考」を鍛えるMFA(美術学修士)を選ぶ人が増えているといいます。変化の激しい時代、決まり切った「正解を出す力」よりも、柔軟に問題に取り組める「創造力」が求められているのです。
本書は、著者がMFAで学んだ1年間のプログラムを一冊にまとめたもの。感性思考の基本マインドから15のフレームワークまで、突き抜けたアウトプットを生み出すための方法が解説されています。
ひらめきに「センス」は不要
では、デザインスクールで学ぶ「感性思考」でどのようなアウトプットが生み出せるのでしょうか。著者は一例として、米国における子ども向け歯ブラシの事例を紹介しています。
長らく、メーカーが手掛ける子ども向け歯ブラシは、小さくて細いものが一般的でした。これは「大人より子どもの手は小さい→だから小さくて細いものがいい」というロジックから生まれた発想です。
これに対し、あるデザインコンサルティングファームが別のアプローチを取りました。論理やデータを基に考えるのではなく、子どもが歯磨きしている様子を実際に観察したのです。すると、大人に比べて手が器用ではない子どもは歯ブラシをうまく扱うことができず、歯を磨こうとする度に自分の顔をパンチしてしまうことに気が付きました。それまで何十年にもわたり展開されてきた小さく細い歯ブラシは、実情に合っていなかったのです。
そこで同コンサルティングファームが、太い歯ブラシを考案したところ、発売後わずか18ヵ月で、マーケットシェアNo.1となりました。
ここで重要だったのは、従来の小さな歯ブラシを子どもが上手く扱えていないことを発見できた点。このようにデータだけではわからない、自分だけの情報をつかみ、それを基にアウトプットすることで、強烈な差別化につながるのです。
こうした「正解」の枠に収まらない発想は、一部の天才のひらめきによるものと思われがちですが、本書で解説されているプログラムは「センス」不要。創造的なアウトプットから一定の法則を見出し、方法論化した講義を通して、論理思考だけでは生み出せない「打ち手」を見つけることができるといいます。
MarkeZineの読者に特にお薦めしたいのが、第5講義「マーケティング」の章。Apple Storeに施されている「76度の魔法」などを例に、“売れる確度を上げる”感性思考のフレームワークが解説されています。ぜひ、本書を手に取ってみてください。