集約されたデータには実際の生活とのギャップがある
1979年に創業してから、ソフトウェア開発企業として事業を展開してきたジャストシステム。同社を象徴するロングセラー商品である日本語ワープロソフト「一太郎」や「ATOK」にはじまり、近年は2012年に始めたクラウド型の通信教育「スマイルゼミ」が高い評価を得ている。
さらにネットリサーチでも実績を積んできており、セルフ型の定量調査サービス「Fastask(ファストアスク)」、チャット型の定性調査サービス「Sprint(スプリント)」といった企業が消費者インサイトを掴むためのマーケティングツールの提供も行っている。
登壇した浦野氏は、この2つのリサーチツールのマーケティングを統括している人物。新型コロナウイルスの影響から、消費者に直接会って話を聞くことが難しい現状の中で、どのようにインサイトを収集していけるのか、その手法について語った。
インサイトとは「消費者の気持ちに変化をもたらす隠れた欲求」のことを指すが、これを探る一番の近道は、消費者のリアルな声を聞くこと、つまりインタビュー調査が有効と浦野氏は言う。
「インタビューと相対するアンケート調査やビッグデータも場面によっては有効ですが、大勢の意見を集約したデータになるので、最大公約数的なものになりがちであり、結果が消費者の本心を表しているかと言えば、そこにはギャップが生じていることが多いです」(浦野氏)
調査方法の持ち味を活かし「なぜ」を見つける
調査をする上で重要なのは、「意識・行動・感情」を直接聞くこと、「関連性・因果関係」を解明することだと浦野氏は続ける。
アンケート調査だと、どういう属性の人がどんな商品を好むのか相関関係が見えても、なぜそれが結びついているかまではわからない。インタビュー調査はまさにその、消費者も自社も気づいていない「なぜ、そうなのか?」を見つけることが重要で、そこで見えた消費者の本音からインサイトを探っていくことがポイントであると語った。
しかし、何人かへのインタビューで大勢に支持される消費者の“ホンネ”が集められるのか、疑問も残るだろう。
そこでジャストシステムでは、「定性」と「定量」、両方の調査を組みあわせたリサーチ方法を勧めている。具体的には、N1の深掘りが得意なインタビュー調査でインサイトを発見し、それをもとにコンセプトや仮設を作成、大勢の意見の数値化が得意なアンケート調査を行うことで、その仮説を検証していく流れだ。
本音を聞き出せる向き合い方と3つのアプローチ
次にインタビュー調査との向き合い方として、ポイントが3つあると浦野氏は話す。
1.消費者の体験を明らかにする
2.相手の興味や関心に寄り添う
3.インタビューは複数回行う
相手に直接的な回答を求めるのではなく、商品の周辺情報を聞き出して消費者の体験を明らかにすることを意識すると良いと言う。簡単に答えられる質問を投げかけ、返答を深掘りしていくイメージだ。
「インサイトを見つける上では、無理に『考えさせる』ような質問をせず、簡単に答えられる質問をするのが有効です。相手の回答に応じて次の質問を考え、事前のメモをつくりこみすぎないこともポイントの一つです。
1テーマにつき5~10人程度に一人ずつインタビューし、考察した結果と社内のアイデアを反復しながらインサイトを明らかにしていくのが理想的です」(浦野氏)
インタビューのアプローチタイプも、「ポジティブ型」「ネガティブ型」「未充足型」の3つに分類されると言う。
ポジティブ型は先行品や競合に対し、「商品を買った・選んだ理由」など肯定的な感情から情報を探り、ネガティブ型では反対に、「購買をやめた・乗り換えた理由」など否定的な感情を聞く。未充足型は、先行品や競合をある程度評価するものの、まだ不十分という感情から探っていく方法だ。「満足度を高める要素」や「新たなアクションを行う可能性」を聞いていく。
どのタイプを用いるかは絞らなくてもいいが、優先順位は決めておく方が良いと浦野氏は語る。特に慣れていない場合は、消費者の本音が表れやすい“文句”が聞き出せるネガティブ型がお薦めだと言う。
リアルなインサイトを構成する4要素
次に浦野氏が語ったのは、答えをインサイトとして組み立てやすい質問の立て方だ。インタビューで聞くべきインサイトは「感情」「要因」「場面」「背景」で構成されると言う。
「一言で表すと、それはどのような気持ちでしょうか?」という質問から「感情」を聞き出し、他の3要素はそれに基づいて聞き出していく。「その『感情』が生まれるきっかけは何か?(要因)」、「その『感情』が生まれた情景、シーンは?(場面)」、「その『感情』がポジティブ、ネガティブ、未充足のいずれである理由は何か?(背景)」といった具合だ。
要素を整理したあとは、いよいよキーとなるインサイトの整理に入っていく。整理する際には次のように一文でまとめるのが有効だと言う。
【ターゲット】は【場面】なとき、【要因】によって【感情】な気分にさせられる。なぜなら【背景】だから。
まとめてみて違和感があれば、それはそれぞれの要素につながりが持たせられていないということだ。違和感ない形にすることで、生活に即したリアルなインサイトとして整理できると浦野氏は述べる。
「なぜ?」を知りたければ「なぜ?」と聞かない
インタビュー調査を行う上で重要だが、なかなか引き出すのが難しい「なぜ?」を上手に聞き出すためのインタビューテクニックについても紹介された。
ひとつは、「なぜ?」を知りたければ「なぜ?」と聞かないこと。
「なぜ?」「なんで?」には攻撃的なニュアンスが含まれるためなるべく避け、「なぜその商品を購入したのか?」ではなく、その商品を購入した『理由』や、もう一歩踏み込んで話を聞き出したいなら、その商品を購入した『決め手』に言い換えることがコツになる。
他にも「5W1Hを活用」、「明確」にする、「詳細説明」を求める、「比較」するといったテクニックを使って掘り下げていくことで、潜在的価値を明らかにしていけると言う。
時間と費用がかかるインタビューを手軽に
ここまでインタビュー調査によるインサイト獲得の方法について紹介されたが、企業が定性調査を実施しようとすると、多くの壁が立ちはだかる。主には「時間」と「費用」面で課題を感じるところが多いだろう。
たとえば従来の定性調査サービスは、リサーチ会社に依頼してモデレーターを雇って行うのが一般的で、それには準備から納品までに月単位の時間を要し、現在のビジネススピードに合っていない。また1回あたり数十万~100万円と費用も高額なため、気軽に実施できない現状がある。
加えて今は、コロナ禍で対面によるインタビュー調査実施が難しいという問題も新たに生じている。
こうした問題点を解決するツールとして、ジャストシステムが提供するのが、チャットインタビューツール「Sprint」だ。スマートフォンでの1on1テキストチャットを採用することで、従来サービスの問題を解決し、より手軽なインタビュー調査を可能にしている。
企業担当者がインタビューを依頼すると、スマホのプッシュ通知で募集をかけて約5分で消費者モニタを募り、テーマに合ったモニタに対して、30分間のインタビューが実施できる仕組み。インタビューのデータは終了と同時に納品される。
モニタとのマッチングでは、モニタに質問を投げかけ、その回答をもとに対象者を絞り込んでいく「ライブスクリーニング」が可能だ。
チャット形式だからこそ得られる“本音”
また浦野氏は「チャットだからこそ得られるメリットも少なくない」と語る。具体的には次のようなメリットがあると説明した。
・チャットだから“本音”が引き出しやすい
・今まで出会えなかった対象者に出会える
・進行と分析が同時にできる
・使い放題だから気兼ねなくインタビューできる
・非対面だからコロナ禍でも安心
本音が引き出しやすい理由には、顔を出す緊張がないためにプレッシャーから解放され、リラックスしてインタビューを受けられることがあげられる。加えて、対面インタビューに抵抗がある人も参加可能なこと、スキマ時間に取り組めるので様々な立場の人が参加できることから、インタビューの対象者も増える。
また、モニタの顔は見えないもののデプスプレビュー機能でモニタが回答を打ち込んでいる内容が「同時に」見えるようになっている。「同時に」見えるとは、モニタの回答が確定して送信される前から、入力中の回答や一度書いた後に削除した内容などが見えるということだ。これにより、回答への迷いや、どう答えるか困っている様子など、表情に近い部分がテキスト上でもわかるようになっている(下図)。これも本音により近づきやすい理由だと浦野氏は話す。
「最近はコロナ禍の状況もあり、従来調査の代替手段としてご相談いただくケースもかなり増えました。また『対面でのインタビューをするほどではないけど、アンケート調査の自由回答では物足りない』という場合にも使っていただいています」と、幅広い活用ができることを伝えた。
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