広告キャンペーン、ツール管理に課題
三菱電機の宣伝部には現在、BtoCコミュニケーショングループ、海外コミュニケーショングループ、コーポレートコミュニケーショングループなど8つのグループがあり、扱う製品・サービスも、BtoC向け製品では冷蔵庫、エアコン、炊飯器等、BtoB向け製品ではエレベーター、FA機器等、その他イベントスクエアの企画・運営、リクルート、企業広告と幅広い。また各製品・サービスの宣伝施策についても、テレビCMから、店頭で配布する製品カタログ、デジタル広告と多岐にわたる。
宣伝部のウェブサイト統括センターに所属する浅尾氏は、三菱電機が管理・運営する数十万ページに及ぶウェブサイトのガイドラインづくりや宣伝部で利用するデジタルマーケティングツールの導入・推進を担当している。2年半ほど前に宣伝部に異動した浅尾氏は、業務の広さと扱うツールの多さに驚いたという。
「宣伝部は領域ごとにグループ分けされていますが、一つの部署でデジタル広告からテレビCM、カタログの企画推進まですべて担当していたんです。データも膨大になり、デジタルマーケティングツールも増えすぎていました」(浅尾氏)
そこで部署内をヒアリングしたところ、メンバーの異動が多く、宣伝施策のナレッジが引き継がれていないことも課題だと気づいたという。
BtoCコミュニケーショングループで宣伝施策の担当経験のある西上氏も、宣伝部全体にネックとなる組織課題があったと同調する。
「他グループとの連携だけでなく、同じグループ内での連携も改善の余地がありました。自分がエアコンを担当していたとしても、冷蔵庫の担当者がどのような施策を行い、どのように効果検証しているのかをしっかり共有しきれていなかったのです」(西上氏)
そこで、浅尾氏は業務負荷を減らし、効率的にナレッジを共有・継承するため、BIツールの導入を検討。同社宣伝部のデータ統合・支援を行うアイプラネットの石川氏とともに、課題の洗い出し、ツールの選定、導入を進めていった。
「これまで30年近く三菱電機宣伝部の業務に係ってきた経験を通じて、課題の洗い出し、導入、構築などを行っていきました」(石川氏)
ITに詳しくないメンバーも使いこなせるように
BIツールを導入するにあたって、浅尾氏がまず行ったのは業務プロセスの整理だ。グループごとに担当領域は異なっても、業務は同じ広告・宣伝。業務の流れは同じだと考えたのだ。
「どのグループも一見違う仕事をしているように見えて、企画から広告会社へのオリエン・プレゼンを経て意思決定し、施策の実行、効果検証というPDCAのプロセスは同じです。業務プロセスのどのフェーズで、どんな情報が必要になるかをすべて洗い出し、優先順位の高いデータからBIツールに統合しようと考えました」(浅尾氏)
様々なBIツールを検討する中で候補として選ばれたのが「Datorama」だった。ツール導入時に浅尾氏が気にかけたのは、IT専門でない部門で導入・管理でき、ITにそれほど強くないメンバーでも無理なく使いこなせることだ。
「他のBIツールは、IT専門のメンバーが数人いないと対応しきれないと感じていました。Datoramaは必要なアーキテクチャが内包されていますし、セールスフォース・ドットコムのエンジニアやカスタマーサクセスの方々にアドバイスをいただけるため、プログラミングの知識や経験がないメンバーでも簡単に使いこなせるのではないかと思いました。またデジタルキャンペーンの進捗を確認し、より広告効果の高い媒体に出稿するためのマーケティングインテリジェンスツールとしてもDatoramaが最適だと感じました」(浅尾氏)
まず1グループで成功事例を作り、繰り返し勉強会を実施
しかし導入のプロセスには困難がともなった。浅尾氏は各グループに「データを統合して可視化しましょう」と説得したというが、イメージがつかみにくいと言われたという。
「他グループも見るプラットフォームにデータを置くことへの不安や、実際にどれだけ使い勝手がよくなるのかわからないという声が上がり、導入に後ろ向きな声もありました」(浅尾氏)
こうした声を踏まえて浅尾氏は方針転換。当初は広告会社から送られてくるデジタルキャンペーンのデータを統合し、各グループに自力でPDCAを回してもらおうと考えていたが、ハードルが高いと断念。まずは浅尾氏らの所属するウェブサイト統括センターが管理するマーケティングツールやGoogle Analyticsのデータを統合して可視化し、わかりやすいアウトプットを作ることを優先した。
こうした浅尾氏の取り組みに興味を持ち、部署内で真っ先にDatoramaを業務に取り入れたのが西上氏だった。
「日々の業務プロセスの中で、エクセルでデータ分析することへの限界を感じていました。どんな分析もピボットテーブル頼みになっていたんです。そんなとき、Datoramaの導入プロジェクトが進行していると聞き、すぐ浅尾さんに相談しました」(西上氏)
浅尾氏も、「西上さんが興味を持ってくださったことが、部署内へ浸透する上でのトリガーとなりました」と話す。その頃、浅尾氏は部署内にどんなニーズがあるのかヒアリングしようとしたものの、うまくできないというジレンマに陥っていた。
「いざヒアリングしようとすると、ヒアリングの前にツールの説明を求められ、いざツールの説明をはじめると『難しそうだからいいよ』と拒否されてしまう……そんな悪循環になっていたんです」(浅尾氏)
西上氏のチームが、デジタル広告のエクセルデータをDatoramaに取り込んで可視化し、ダッシュボードとして活用するようになったことで、同様の使い方をしてくれる他のグループが少しずつ増えていったという。
それに加えて、浅尾氏は部内で勉強会を実施。通りいっぺんのツール説明ではなく、西上氏にも話をしてもらい、実際にどのようにエクセルデータをDatoramaに取り込んでいるのか、どのようにデータ統合していったのかをユーザー目線で語ってもらうことで、自分ごと化していったのだという。その後も根気よく大小様々な勉強会を実施。地道な活動で、宣伝部内のDatoramaユーザーを増やしていった。
定点観測とPDCAにDatoramaを活用
現在、同社の宣伝部内では主に2つの目的でDatoramaが活用されている。1つは定点観測だ。同社では、これまで様々なツールがバラバラに提供されていたため、見るべき指標が多くて追いきれず、結局広告会社からのレポート待ちになっていたという。
そこをGoogle AnalyticsのデータをDatoramaに取り込み、冷蔵庫、炊飯器、エアコンなど各担当者が確認するデータを1つのダッシュボードに統合。競合サイトとの比較やSNSでポジティブ・ネガティブな反応を示すキーワードについてもひと目でわかる仕様としている。
また同社が東急プラザ銀座で運営しているカフェ「METoA Ginza」の来店客数や、スマートフォンアプリのダウンロード数なども連動させ、数値の相関関係について、店舗スタッフや関係者と分析し始めるようにもなったという。
2つ目はPDCAサイクルへの活用だ。こちらは西上氏のグループでエアコン製品を中心に、出稿中のデジタル広告について評価し、より出稿効率の良い媒体に予算を再配分することに活用しているという。
今では浅尾氏と石川氏のチームに、アイプラネットのエンジニアに加わってもらい、修正対応や簡単な開発についてはクイックに対応してもらえる体制を整えた。セールスフォース・ドットコムとは週1回定例会を実施。新しいダッシュボードや機能を開発したいときは、構想段階から相談したり他社の事例を聞いたりするようにし、部署内の課題をより本質的に、より早く解決できるようになっている。
膨大なデータを一元化し、キャンペーンの精緻化が実現
こうした取り組みの結果、宣伝部のあらゆる担当者がデータを閲覧できるようになり、必要なデータをリアルタイムにチェックできるようになったという。
「Datorama導入以前は、施策の成果を調べるためには、ソーシャルリスニングツールやウェブサイトの流入量観測ツール、Google Analyticsと様々なツールにログインして、いくつものウィンドウで開かなければなりませんでした。複数ツールを使うとID・パスワード管理も難しいため、『パスワードを忘れてしまいました』という問い合わせも多かったですね(笑)。またツールによっては数アカウントしか使えないケースもあり、限られた人しか使えないということもありました」(浅尾氏)
こうした情報をDatoramaにすべて集約したことで、同社の社員のみならず、広告会社や制作会社などプロモーションに関わるすべてのスタッフがいつでも必要な情報にアクセスできる体制を作ることができた。
現場でBtoC向けプロモーションに携わる西上氏も、Datoramaの活用によってキャンペーンをスムーズに進められるようになったという。
「Datoramaの導入により大きく2つの利点がありました。1つ目はデータベースの見える化です。これまでグループごと、担当製品機種ごとにクローズドになっていたデジタル施策が見える化され、他グループや担当外製品のキャンペーン結果も見られるようになりました。
2つ目はダッシュボードの活用による広告プランニングの精緻化です。これまで広告会社からデジタル施策をご提案いただいたとき、CPCやCTRなどブラン表の数値について十分に精査しきれないことが多かったんです。しかしDatoramaの導入によって過去のCPCの平均などを簡単に算出できるようになりました。その結果、オリエンの質もあがり、プレゼンについても、クオリティ高く精査できるようになったと感じています」(西上氏)
その結果、宣伝部全体のデジタル施策についてのリテラシーが大幅に上がり、日常的にデジタル施策について意識するカルチャーも醸成されたという。直近で実施したキャンペーンではDatoramaのダッシュボードで分析を行ったところ、事前に予測したキャンペーン成果と比べて動画視聴完了が110%改善、サイト誘導については成果を151%改善することができたという。
今後の展望について、アイプラネットの石川氏は「今回のこうした取り組みを仕組み化し、三菱電機・宣伝部内だけでなく、社内全体に広げてアイプラネット丸の内本部をPDCAセンターのような位置づけにできたらと考えています」と話す。
西上氏は「より一層Datoramaの活用を推進しながら、エアコンで行っているダッシュボードについて全機種に広げていきたい」のだという。そして浅尾氏は「今回一つの成功事例ができたので、あらゆる広告会社とこのDatoramaのダッシュボードを用いて精度の高い広告キャンペーンをできる体制を整えたいと感じています。今後はリーダーや経営層クラスがウォッチするダッシュボードを整備したいですね」と意気込む。
地道な努力により、Small Victoryを重ねてきた同プロジェクト。成功体験を元に横展開を続け、コロナ禍のDXの推進に必要なツールとして、さらなる利用促進を狙っていくという同プロジェクトの今後に期待だ。