マーケティングデータとLTVデータを統合
富士フイルム ヘルスケア ラボラトリーは、富士フイルムが写真フィルムなどで培ってきた独自技術を応用・活用することで、「ASTALIFT(アスタリフト)」や「メタバリア」など、サイエンスに裏付けられた機能性化粧品や機能性食品の開発・提供を行っている。
そんな同社では現在、セールスフォース・ドットコムが提供するマーケティングインテリジェンスツール「Datorama(デートラマ)」を活用し、ASTALIFTとメタバリアのオンライン・オフラインマーケティングデータとLTVデータを統合。マーケティングデータを一気通貫で俯瞰することで、効果的な広告予算投資と業務効率化の実現を目指している。
同社では従来、複数の広告代理店によってオンライン広告、新聞・折込広告、通販番組のデータなどを管理してきた。その一方で、LTVデータは分析ツール「Tableau(タブロー)」から引っ張ってきて、手作業で入力・転記していたため、手間がかかりミスも起こりやすい状況だったという。
同社でシステムの導入・推進を担当する竹内正也氏は、その当時の様子を次のように話す。
「多数のツールが導入され、複数の広告代理店によって運用が行われていたこともあり、データの集計・取りまとめに時間がかかっていました。具体的には、レポートを作成するだけで毎月208時間もかかっていたのです。加えて、複数の広告代理店からレポートをいただけるのが2週間後となっており、タイムリーな予算の付け替えやレポーティングができず、CVRを改善しにくい状態が続いていました。もちろん、これまで蓄積されたデータの抽出・閲覧も非常に難しい状況でした」(竹内氏)
そこで業務効率化を行い、レポート作成時間の削減と、キャンペーンデータの効率的な効果分析、リアルタイムでの広告予算のアロケーションを実現するために、Datoramaの導入を決定した。
「Datoramaを導入した大きな目的は、リアルタイムでキャンペーンデータを確認できるようにすることで広告予算配分をタイムリーに変更していき、CPRの2%改善を目指すことでした」(竹内氏)
導入にあたっては、もちろん社内への説明も重要だ。竹内氏は、あえてマーケティングインテリジェンスツールと伝えず、「広告に特化した分析ツールです」と伝えることで、上層部への理解を促す工夫を行ったという。
データ定義を統一し、既存指標の見直しを実行
ASTALIFTの新規獲得と売上最大化を目的としたコミュニケーション戦略の立案を担当する笹原千江里氏は、Datoramaを導入する際の気付きとして、複数の広告代理店と連携しながらデータ定義を統一し、既存指標が本当に必要かどうか再確認することが重要だったと話す。
「Datoramaの導入にあたって社内外で丁寧な調整を行い、数値の定義を洗い出し統一することにしました。ところがその過程で、データソースの定義と粒度にばらつきがあることが判明しました。異なった定義の指標をもとに商材間のアロケーションや投資判断を行っていたため、運用しやすい指標を新たに設定したほうがいいということになりました。
またツールや部署ごとに微妙に指標の定義が少しずつ異なっていることもわかり、部署異動などで担当者が変わるたびに見ている指標が変わってしまっていることに気づきました」(笹原氏)
笹原氏は多様なデータを扱うことの難しさについて、改めて実感したと振り返る。ただ、Datoramaの導入を通じて、数値そのものの定義から考え直すことになったのは、良いきっかけだったと捉えている。
「Tableau、Google Analytics、DMPなど社内で運用しているツールで活用している指標そもそもの定義を再設定でき、全員の目線合わせができたのは非常に大きなメリットだったと思います」(笹原氏)
導入の過程で、既存指標の見直しの重要性を再認識した同社。現在は、既存指標を見直すための年間を通じた壮大なプロジェクトに取り組んでいる。具体的には、「ツールの見直し」「指標の見直し」「計測ツールの運用フローの見直し」を行っている最中だ。
ユーザーの行動を見据えたデータ活用が重要に
Datoramaの導入後は、Tableauのデータも取り込んでいるというが、そもそもなぜマーケティングデータとLTVデータを統合する必要があるのだろうか。
「当社のような通販型のビジネスモデルの場合、獲得するユーザーのこれからのポテンシャルを把握した上での投資判断が重要になります。
にもかかわらずCPRなどのマーケティングデータのみで投資判断を行うと、実際は離脱率が高く長期的には売り上げが上がらなくなってしまうことも考えられます。よって『どの媒体からどの商品を購入したユーザーがどれぐらい顧客として定着しているか』といったTableauのLTVデータを考慮した上で運用することが非常に重要なのです」(笹原氏)
まだこのプロジェクトは道半ばだが、既に大きな成果が出ているという。
「マーケティングデータとLTVデータを統合し、LTVから逆算して広告媒体やクリエイティブを評価していった結果、最も売り上げへの貢献が高い指標に予算をアロケーションできるようになってきました」(笹原氏)
今では獲得効率が高まるばかりか、LTVの高いメディアへ柔軟に予算をアロケーションできるようになったと笹原氏は感じている。
こうした統合作業を通じて、獲得効率が同等のメディアがあった場合はLTVの高い媒体へ投資するようにしたり、媒体側の獲得効率がそれほど高くなくても、直近の引き上げ率やLTVの高さを考慮して投資判断したりできるようになった。次のアクションがしやすくなったと、同社では考えている。
広告代理店と共通のダッシュボードでレポーティング作業を軽減
またDatoramaの導入によって複数の広告代理店とダッシュボードを共有できるようになり、レポート作成業務が大幅に削減したという。その時々でダッシュボードを直接見に行けば、知りたいデータを知りたい粒度でリアルタイムに見ることができるようになったため、広告代理店や社内外のプロジェクトメンバーと円滑なコミュニケーションを図れる要因となっているという。
それに加え、同社の上層部にもDatoramaのアカウントを付与。上層部に上申するレポートを作成せずとも、リアルタイムな施策の遂行状況をウォッチしてもらえるようになった。
中でも、同社では定例会のやり方が大きく変わったと笹原氏は言う。
「今まで週一回の定例会で、現状の把握と次の打ち手について細かくすり合わせなければなりませんでした。今では、ダッシュボードにログインすれば広告代理店が入力した管理メモが日々更新されています。どのような戦略でどうアクションをしたのかDatoramaのダッシュボードで把握できるため、状況把握に割く時間が減り、これからの戦略企画・立案に時間を使えるようになりました」(笹原氏)
同社のダッシュボードにログインすると、「主要KPI Overview」として、見るべき指標が一覧でずらりと表示されている。中でも、獲得効率とCPRについては特に重要なので、すぐ目につく位置に置いている。このOverviewによって、施策の遂行状況を俯瞰できるようになったという。
さらに、知りたいデータを過去にさかのぼって分析できるようにもなり、より長期的な視点で戦略を立てられるようになったという。担当者が変わったときの引き継ぎも容易になったそうだ。
同社の獲得施策には様々な広告代理店が関わっているが、主幹となる広告代理店を1社定めており、その広告代理店を中心にダッシュボードの管理や何かあったときの対応などをしてもらえるようにしている。また、広告代理店に急を要するレポート作成依頼をする必要がなくなり、同社にとっても、広告代理店にとっても心身両方のストレス軽減に貢献している。
今後はDatoramaによって獲得系マーケティングのさらにリアルタイムな運用・可視化を実現し、完成形に近づけることを目指す。それに加えて、テレビCMやPR、店舗売り上げといった他部門が管掌するデータとも統合し、全社的なマーケティングの最適化を目指したいと意気込んでいる。
Datoramaを導入してまだ半年足らずだというが、日々ダッシュボードや見るべき指標について検討を繰りかえしながらブラッシュアップを続けている同社。自社で解決できない問題は、広告代理店を中心としたパートナー企業の力を借りたり、セールスフォース・ドットコムのカスタマーサクセスチームに伴走支援してもらったりしながら、より良い運用を行っていく。
そして現在の部署で着実に成果を出しながら、今後は少しずつ他部署へも影響力を広げていくことを狙う。ポストCookie時代の新たなデータ活用術として、ひとつの視点を提供してくれるだろう。