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11.9万人を魅了した「SoftBank World 2020」 完全オンライン開催成功の裏側

 完全オンラインで開催された国内最⼤規模の法⼈向けイベント「Softbank World 2020」は、なぜ総視聴者数のべ11.9万⼈を記録できたのか。2021年3月4日に行われたMarkeZine Day 2021 Springに、ソフトバンクの住谷泰紀氏とブライトコーブの大野耕平氏が登壇。マーケターにとって新常識となったオンラインイベントの企画・開催について成功の秘訣を語った。

SoftBank World 2020は法人向けのアニュアルイベント

 「SoftBank World」は、ソフトバンクの法人向けのアニュアルイベント。開始当初、ソフトバンクはコンシューマー向け通信キャリアのイメージが強く、法人向けのソリューションを提供している認知が低かったため、その認知拡大を狙い実施してきたという。

(左から)ブライトコーブ Marketing Manager 大野耕平氏、SoftBank 法人事業統括 法人マーケティング本部 マーケティング戦略統括部 マーケティング戦略部 Web戦略課 担当課長 住谷泰紀氏
(左から)ブライトコーブ Marketing Manager 大野耕平氏、ソフトバンク 法人事業統括 法人マーケティング本部 マーケティング戦略統括部 マーケティング戦略部 Web戦略課 担当課長 住谷泰紀氏

 2020年は初の完全オンラインイベントとして開催。B2B向けのイベントとしては国内最大クラスのオンラインイベントとして、2日間の開催期間中に70を超えるセッションが行われた。

 登壇者は孫正義氏をはじめ代表の宮内氏やマイクロソフトやZoomなど各パートナー企業からのエバンジェリストや海外のエグゼクティブなどITの最先端を行くそうそうたる顔ぶれだ。参加登録者4.4万人、視聴者数(再生回数)は11.9万人と、昨年対比682%を達成。1セッションあたりの視聴者数は平均1,000人を超えた。

 ソフトバンクのオンラインイベントは約4年前、コロナウイルス感染拡大以前から始まっていた。「ただ、メインはオフラインのリアルなイベントで、展示やブースを設けて会場に集客し、それを一部オンラインで流す状況でした」と住谷氏は述べる。

 オフラインイベントでは、会場のキャパシティーによって参加人数に限りがあったり、遠方の人が参加しにくかったりする。そこで、基調講演や一部の特別プログラムはオンラインでも見られるように中継して配信していた。

 また、海外のエグゼクティブは以前からビデオ会議システムを使ってリアルタイムでセッションに参加していた。こうした背景から2020年開催が完全オンラインイベントといってもテクノロジーとして新しいものを使ったわけではなかったという。

初の完全オンライン開催には既成概念の打破が必要だった

 完全オンライン開催に舵をきったのは2020年の夏頃。そこから同年10月末の開催まで、試行錯誤を繰り返してきた。それまで中継配信はしてきたが、あくまでリアルがメイン。オフラインでの既成概念にとらわれすぎず、オンラインならではの利点を最大限に活かすことに注力したという。

 「物理的なイベントではアカウント営業がお客様をご招待してコミュニケーションを深め、エンゲージメントを高める場として活用できていました。それができない状態でイベントという場をどう活用すればいいのか。根本から考え直す必要がありました」(住谷氏)

 大野氏が中でも苦労した点を尋ねると「一番苦労したのはオフラインイベントの前提や思い込みから抜け出すことだった」と振り返った。しかし、オフラインの「この日この会場に来られる人」という縛りから抜け出すことで、アイデアの幅が広がって企画も充実していったという。

 では、結果的にオンラインはオフラインと同様のバリューを出せたのだろうか。

 住谷氏は、ブース作りにおいてオンラインでもパートナーの動画やドキュメントを掲載して参加者が視聴できる仕組みを作り、同じような効果を出せたと自負する。ログイン認証など動線を考えたうえで、顧客のストレスにならない設計にしたユーザーエクスペリエンスはオンラインならではの工夫点だという。

 大野氏によれば、そもそもオンラインイベントは、見たいセッションだけを見て消してしまう視聴者も結構多く、そこで興味のあるコンテンツを提示できるかはとても重要だ。一方で、オンラインでもイベント企画がまったく変わるわけではない。「ソフトバンクはUXやカスタマージャーニーに重きを置いている点が独特だ」と大野氏は語った。

イベントは当日だけでなく前後のコミュニケーションも設計する

 イベント実施における主な役割には、全体マネジメント、講演やセッションの企画担当、配信・運営などのシステム担当、UX(Webサイト)担当、集客および外部PR担当などを置いていたという。基本的に他社と変わらないだろう。

 特筆すべきはカスタマージャーニーの設計とそのフォローだ。ソフトバンクはイベント単体で顧客とのコミュニケーションを考えず、イベント前後のコミュニケーションも含めて顧客との接点をどう作り、コミュニケーションを充実させていくのかを考えているという。

 「対象となるオーディエンスがどういう方かと考え、その設計を最初にしっかり行います」(住谷氏)

 ソフトバンクの場合、顧客属性の種類が非常に多い。そのため、業種、顧客の担当業務、役職でセグメントし、それぞれにコミュニケーションプランを立ち上げているという。顧客に対して、「いかに自分に関係のあるコンテンツだと思ってもらうか」を大切にしているのは、イベントに限ったことではない。

 ソフトバンクは顧客の購買フェーズを現状課題の認識、解決策の探索、製品の選定の3つに大きく分けている。SoftBank World 2020では「解決策の探索」をメインコンテンツとした。そこから、その前後ではどのようなコンテンツを提供すればいいのかを検討する。顧客の立場に立ったコンテンツの開発ができ、あとは各部署でやることが明確になり計画が立てやすくなる。

 「イベントが、参加者の課題が解決できる場になっているか。そういう全体設計がイベント前からできているのかということですよね」(大野氏)

 またソフトバンクでは、イベント前に「プレウェビナー」、イベント後に「ポストウェビナー」も実施。プレウェビナーでは、当日のコンテンツに対して一歩手前の購買フェーズにいる顧客に向け、課題が再認識できる内容を用意している。イベント当日に向け前段となる情報提供を行い、顧客の購買フェーズが少しでも前進するよう取り組んでいるのだ。

 つまり、オンラインイベントの何週間も前から、イベントそのものは始まっていることになる。これには、「イベント後にウェビナーを実施している企業もあると思いますが、イベント前までウェビナーがあるのは恐らく少ないと思います」と大野氏も驚いた。

オンラインイベントならではのデータを取得する

 SoftBank World 2020では、顧客のニーズを理解するために、顧客接点ごとにしっかりと情報を取得し、正しいコミュニケーションが取れる全体の設計を考えていたという。

 大きなタッチポイントは、登録フォームの記入内容、どのセッションを見たのかという視聴行動、そして視聴後のアンケート。この3つで計画的に情報を取得し、それぞれに対するコミュニケーションを充実し、また必要に応じてコミュニケーションを切り替えていた。

 そうした中で注意していたのは「この情報を取得することで、顧客に対するコミュニケーションが向上するのか」だと住谷氏は語る。「イベントの場合あれこれ聞きたくなりますが、項目が多くなるとお客様の負荷が高まってしまいます。そこはしっかりと吟味させていただきました」と住谷氏は話した。

最高の顧客体験を考慮した設計になっているか

 募集初期に登録した顧客は、イベント開催までの間に期待感が下がる可能性がある。そこで同イベントでは、参加登録の後に本人の担当業務を基に最適化した関連セッションやウェビナーを提案した。これにより、期待感を維持したまま当日を迎えられるようにしたのだという。

 また当日は、業務に関連するセッションを事前に案内し、視聴後はそのセッションに関連するオンライン上の展示ブースに誘導。つまり、イベントで用意をした各コンテンツをできる限り顧客に案内をする工夫や取り組みを実施している。

 さらに住谷氏は、顧客に最適な体験を提供するにはデザインに関しても最適化が必要だと主張する。SoftBank World 2020ではFINDABILITY SCIENCES社のTouchUpというツールを用いてデザインの最適化を図った。TouchUpは脳科学を基に、顧客の注目エリアを計測してビジュアライズできるAIツール。イベントは開催時期や集客期間が定められているため、ABテストツールで改善を繰り返すというアプローチに加え、短い期間でより効率的に最適化を進めるためにこうしたツールも使ったという。

 イベント集客の面では、対象となるオーディエンスのターゲットセグメントに合わせたメールの内容、配信バナーのクリエイティブなどを個別に制作。かつ、その「受け」となるランディングページもそれぞれのセグメントで異なるものを用意した。同イベントをより「自分ごと」として感じてもらえる工夫だ。

実績あるシステムを使い分ける

 イベントに利用する各システムに関しては、配信システムひとつにしても、その容量・用途によって使い分けたという住谷氏。マーケティングオートメーションプラットフォームにはMarketoを利用し、参加者情報等を管理。各セッションはON24のウェビナーのシステムを使って実施し、基調講演や特別講演といった多くの参加者が予想されるところはブライトコーブの配信システムを採用。これにより、大量の視聴行動、アクセスにも耐えられる構成を実現した。

 ソフトバンクはソフトウェアを扱う企業であるため、当然開発の部隊もあるが、あえてSaaSを利用しているのはなぜなのか。住谷氏は「私たちが求めるスピードを考えると、構築するより実績のあるSaaSツールを利用する方が良い」と答える。ツールを導入する際には、業務プロセスの見直しが必要であるため、それにも注意しながら選定を行っているという。

 扱うシステムが多ければ、当然負荷も大きくなる。正しくツールを使い、管理するからこそパフォーマンスは発揮されるという前提を踏まえ、不必要にアセットを作ってシステムの動作を重くしないよう、日ごろの運用方法にも注意しているそうだ。

 オンラインイベントは配信システムがダウンすると準備がすべて水の泡になってしまう。大きなイベントならば心配はなおさらだ。SoftBank World 2020で配信システム面を支援したブライトコーブはグローバル規模のイベントにおいても動画配信に実績ある企業。大野氏は「何十万人、何百万人が視聴してもダウンすることのないシステムを提供している」と強く語った。

 SoftBank Worldの次回開催については詳細未定。ただ今後は、オンラインとオフラインそれぞれの長所を活かすハイブリッドでの実施を検討中だという。イベントを支える技術と表現、顧客体験の在り方は、これからも進化を続けていく。

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/06 10:00 https://markezine.jp/article/detail/35959