情報氾濫時代に進む、良質なコンテンツの有料化
――Twitterの「Revue」買収を皮切りに、数々の米国メディアによるサブスクリプションコンテンツ事業のM&Aやニュースレターサービスのローンチが話題になっています。そもそも“ニュースレター”とは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか?
藤田:ニュースレター事業の前に、それらを含むコンテンツ事業の根源である、出版・新聞業界の大きなトレンドについてお話ししたいと思います。
米国のメガプラットフォーマーたちが注力し始めたニュースレターなどの事業を、私は「パブリッシャー3.0」と呼ぶことができるメディア形態だと考えています。「出版業界3.0」と呼んでもいいですね。
――「パブリッシャー3.0」。となると、その前の「パブリッシャー1.0」と「2.0」とは、具体的には?
藤田:「パブリッシャー1.0」は、いわゆる“出版社”ビジネス。活版印刷術が発明されてから20世紀終わりまで隆盛を誇った、複製したコンテンツを書籍・雑誌といった媒体に載せて販売するビジネスです。コンテンツの複製と配信に巨大な印刷機や大量の紙が必要で、出版すること自体に莫大な資本が必要なので、そう簡単に誰もが情報を発信することができない時代でした。
「2.0」は、「閲覧無料×広告」のビジネスモデルです。インターネットの台頭で誰でも簡単に情報を発信できるようになって、流通する情報量は膨大になり、「情報自体」よりも、「情報への注目」の価値が高まりました。その結果、情報の閲覧は無料で、それにつける広告を販売するようになりました。
「2.0」の時点で既存の「1.0」のビジネスモデルは大きく崩れましたが、「1.0」で培われた“コンテンツに価値を見出す”という本質的な素地があったからこそ実現したのが「2.0」のビジネスモデルです。
しかし今、ネット上に溢れる情報の中から質の高いものを探すユーザーのコストが無視できないものとなり、バリューあるコンテンツの有料化が求められるようになってきています。これが、「パブリッシャー3.0」です。
玉石混交な情報が氾濫する中で、「良質なコンテンツは有料であっても見たい」というユーザーが増えていると感じます。実際、浸透し始めている有料サービスも散見されますね。ニューヨーク・タイムズの電子版など、名門テキストメディアの有料化も、まさに「パブリッシャー3.0」の流れそのものです。
この流れの中、「良質な情報を、個人が安心して発信できる場」が必要になってきます。安心できるとは、適正なコンテンツ対価を得られるという意味合いです。
音楽業界や映画業界では既に有料課金でのビジネスモデルが定着していますが、「言論業界」というとちょっと硬いかもしれませんが、テキストコンテンツ業界においても、いよいよ新しいうねりが出てきていると感じています。
米国で相次ぐ、ニュースレター事業の買収
――テキストコンテンツというワードが出ましたが、具体的にはどのようなコンテンツスタイルが、ニュースレターと呼ばれるものなのでしょうか?
藤田:有識者やクリエイターなどの個人が、自分のコンテンツの購読者となってくれたフォロワー、顧客、ファン向けに、テキストコンテンツを配信するイメージです。
サブスクリプションモデルであり、旧来のコンテンツモデルで近いものでいうと「有料メルマガ」でしょうか。ただしニュースレターでは、時事的な話題に関する個人の尖ったオピニオンが発信されるので、占いから情報商材まで幅広いジャンルのある従来のメルマガとは異なります。
――米国においてもニュースレターに注目が集まっているとか。
藤田:今年1月にTwitter社がオランダ発のニュースレター配信プラットフォーム「Revue」を買収しましたが、それ以外にも2020年10月には「Business Insider」の運営会社であるInsider, Inc.が米国発ニュースレター「Morning Brew」を買収、今年2月にはHubSpotがニュースレタープラットフォームの「The Hustle」を買収しました。
大手のプラットフォーマー、コミュニケーション事業者たちがニュースレターを事業のスケールアップに活用しようとしていることが見て取れます。