電通と、電通総研は、2021年7月に12カ国を対象に「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」を共同で実施した。
同調査は、二酸化炭素の排出抑制やプラスチックごみの削減、サステナビリティに対する意識などについて、国ごとの違いとともに、2010年に実施した「サステナブル・ライフスタイル意識調査」と比較することを目的に実施された。
調査結果の考察
日本は10年前よりサステナビリティのイメージが具体化され、エコバッグ利用や詰め替え商品の購入も一般化した。しかし、買い物時にはある程度エコを意識する機会がある一方で、環境コスト負担を受け入れ、社会活動を支援する層は一部にとどまり、使用・廃棄まで人々の意識が行き届いているとは言えない。
さらに、次世代につなぐことよりも、今の生活を守ることに精いっぱいという人の割合が高く、このことは日本以外の経済先進国※1においても同様の傾向だった。
日本の対極にあるのは、インドネシア、フィリピン、ベトナムといったASEANの国々だ。社会活動への支援が活発で、公的な意義を優先した消費への意欲を持ち、リサイクル行動を実践する人の割合も高い結果となった。
さらに、社会課題に関心を持つきっかけは「SNS投稿」と、ニュースが優勢の経済先進国とメディア接触の状況が異なる。ASEANは若年人口構成比率が高く、SNS利用度とサステナビリティ意識の相乗効果が表れているとみられる。
※同調査での「経済先進国」の定義は国際通貨基金(IMF)が2017年に発表した「経済先進国」に準じ、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、シンガポールが該当する。
12カ国比較で見る日本の特徴
関心のある社会課題に「少子化・高齢化」が上位に入るのは日本のみ
関心のある社会課題について、日本は1位「自然災害」57.2%、2位「少子化・高齢化」45.6%、3位「大気汚染」41.6%だった。イギリス、ドイツ、シンガポールは「海洋プラスチックごみ」、アメリカは「人種差別」「医療制度・設備」、中国、インド、ベトナムは「大気汚染」「水質汚染・水不足」、フィリピン、マレーシア、インドネシア、インドは「公衆衛生」、タイは「失業率」が上位と、関心を寄せる社会課題には大きな地域差が見られた。
日本はエコバッグ使用率・詰め替え商品購入率が平均より高い
リサイクル行動について、日本は「エコバッグ」使用率が78.8%で、フィリピンに次ぐ2位。「詰め替え商品」購入率は67.8%でフィリピン・インドネシアに次いで3位で、いずれも平均よりも高い結果となった。
一方、「マイボトルの持ち歩く」「レストランで余った食べ物を持ち帰る」はいずれも最下位で外出時の飲食機会における意識が低いことがわかった。特に、マイボトルの使用は日本が46.4%に対し、他の国では半数を超えていた。
日本は不用品を手放す際に、リサイクルや寄付を利用する割合が他国に比べて低いこともわかった。インドネシアとベトナムが「衣料品やおもちゃを、店舗の回収ボックスにもっていく」割合の同率トップで、「不用品・本を寄付や中古買取してもらう」ではイギリスがトップ。ベトナムは両項目とも割合が高い。
インドネシア、フィリピン、ベトナムの約8割が社会活動に高関与
「署名・寄付などの社会活動」に高関与な人は12カ国中で最も低い割合の28.0%だった。インドネシア、フィリピン、ベトナムは約8割が「社会活動」※の高関与者(イベントを企画するリーダー+参加するメンバー+情報を広げるサポーターのいずれかを選んだ人の合計)となり、高関与者が半数に満たないイギリス、ドイツ、日本と比べて、社会活動が可視化されやすい地域と言える。
※「社会活動についてあなたに最もあてはまるものを1つ選ぶ」という設問で、社会活動に関する寄付・署名などのイベント企画者をリーダー、参加者をメンバー、情報を広める人をサポーター、情報を積極的に受け取る人をフォロワー、情報に興味がない人を無関心、活動に反対する人を反対者の6つの選択肢で聴取。なお「社会活動は、気候変動問題や社会的不平等の是正に向けて、人々に働きかけていく活動」という注釈を入れ提示。
日・英・中・独「ニュース・記事」で社会課題に関心を持つ
社会課題に関心を持つきっかけについて、日本は「ニュース・記事」が56.0%だった。同様にイギリス、中国、ドイツでは「ニュース・記事」が「SNS投稿」を上回る。ASEANでは「SNS投稿」が「ニュース・記事」を上回り、前述した社会活動の高関与者の多さとの関連をここでも確認することができる。
情報源に関する自由回答では、日本ではニュース(番組、サイト、アプリ)が中心で、SNSはTwitterが上位だった。
2030年のイメージ、日本のみ「不安」が上位
日本におけるサステナビリティのイメージは、欧米同様に「地球環境」51.8%、「循環型社会・サーキュラーエコノミー」29.2%が上位に入った。イギリスとドイツでは「責任・義務」も上位。アジア諸国では「発展」「技術的進歩」など技術・産業成長も「サステナビリティ」として連想されていることがわかった。
2030年のイメージは、「デジタル」「技術進歩」「発展」「グローバル」が国を問わず上位で、サステナビリティで聴取した場合よりも、技術・産業成長についてのイメージが強いことがわかった。その中、日本のみ「不安」34.6%が上位に入っている。
日本の半数が「環境税などのコスト負担を許容できる」と回答
経済意識について、日本は半数が「環境税などのコスト負担を許容できる」と回答。シンガポール、アメリカ、ドイツで「許容できないが」過半数を占めた。
また、次世代につなぐより、「今の生活を守ることに精いっぱいだ」では日本がトップの割合で、シンガポールとアメリカも同傾向が見られた。ベトナム、インドネシア、中国は、「環境税などのコスト負担を許容できる」が7~8割と高く、さらに「今の生活を守ることに精いっぱいだ」よりも、「次世代につなぐためにできることをしている」の割合が高い。
2010年から2021年にかけての日本の変化
サステナビリティへのイメージ、具体的・現実的に
サステナビリティという言葉から連想するイメージについて、10年前は「つながり・関係性」「責任・義務」「子供・次世代」「忍耐」など、次の時代に期待する漠然としたイメージの言葉が上位であった。一方、2021年では「循環型社会・サーキュラーエコノミー」「社会的影響」「多様性」など、より具体的で現実的な、現在進行形の社会課題という認識に変わった。
また、2030年のイメージについて、10年前は「崩壊」「遠い」など漠然とした負のイメージの言葉が上位であったが、2021年では「不安」「デジタル」が上位にあることは変わらないが、「多様性」「ゲノム・バイオ技術」も加わり、より具体的で現在と地続きの未来という認識に変わった。
日本、「私的な満足度を優先」の割合が6.7%増加
日本では消費は「私的な満足度を優先」の割合が高まり、「公的な意義を優先」が減少した。またドイツ、イギリス、アメリカと、日本、シンガポールの経済先進国は「私的な満足度を優先」が約6割だった。一方、日本とシンガポールを除くアジア諸国では「公的な意義を優先」が多数派で、かつその割合が増えた。
【調査概要】
「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」
調査手法:インターネット調査
実施主体:株式会社電通、電通総研
調査時期:2021年7月8日~20日
対象国:12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド 、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)
サンプル数:4,800ss
対象条件:18~69歳男女500ss、ASEAN 6カ国は18~44歳男女300ss