情報のサイロ化を解消し、データを活用しやすくするCDP
Webやソーシャルで次々と新しい情報が手に入る時代。消費者の目は厳しくなり、自分が必要とする情報を求めるようになった。コミュニケーションや販売のチャネルも多様化する昨今、企業は適切なタイミングで最適なチャネルを通じて顧客の求める情報を届ける必要がある。
EVERRISEの小木曽氏は、企業が置かれた状況を「従来のマスを中心とした顧客とのコミュニケーションに加え、顧客と直接接点を持ち、さらに詳しく理解できる関係を構築する時期」と説明。折しも、Webブラウザ側ではCookieを規制する動きがあり、今後は企業が利用目的を明示し、顧客からの許諾を得たデータの活用が前提となる。
データ活用において課題となるのが「情報のサイロ化」だ。組織の構造が縦割りとなっている場合、情報が各事業部やシステムでバラバラに管理されているため、必要なデータへアクセスしづらくなってしまう。情報のサイロ化を解消し、データを活用しやすい状況を作るためのツールがCDP(カスタマーデータプラットフォーム)だ。
CDPとは、顧客に関する大量のデータを1ヵ所に集約し、統合・活用することができるデータ基盤のことを指す。小木曽氏は本セッションにおいて、EVERRISEが提供するCDP「INTEGRAL-CORE(インテグラルコア)」の導入事例を引き合いに、CDPで実現可能な業務、データ統合の進め方、CDP導入のタイミングを紹介した。
小売、メーカー、対面営業型のビジネスモデルにおける活用事例
まずは、実店舗とECに販売チャネルを持つアパレル企業の事例だ。この企業はCDP導入以前、ECではデータを使ったコミュニケーションができていたが、店舗では会員カードの情報や購買履歴に基づくコミュニケーションができていなかった。
そこで、EC・店舗それぞれのユーザーが会員登録をする際に、その情報をCDPへ登録するよう設定。CDPで採番されるIDを顧客IDとして利用できるようになるため、1ID化が実現できるというのだ。過去のデータについては別途処理が必要となるが、ECで実施するコミュニケーション施策を店舗ユーザーに対しても行えたり、ECと店舗を横断して顧客の状態を把握したりできる点がメリットだと小木曽氏は述べる。
次に、ヘアカラー剤を製造するメーカーの事例を紹介。このメーカーは自社ECサイトを通じた直販に取り組んでいるものの、ユーザー数のボリュームが少なく、ブランドを横断したコミュニケーションで送客を促したいという想いからCDPを導入したという。
アンケートキャンペーンを通じて取得した回答者のメールアドレスを新たな顧客接点として活用し、ECサイトやメディアにおける行動情報をメールアドレスに紐付け統合管理。一連のプロモーションにおける効果分析および統合したデータに基づく顧客分析を行った。
また、不動産や自動車販売のように対面営業型のビジネスモデルを持つ事例も紹介。現在はコロナ禍の影響を受け、ユーザーがサイトを見て問い合わせをした後に来店する流れが増えているという。この場合、CDPでWebサイト上の行動情報を取得・管理できていれば、顧客の来店時に営業担当者がヒアリングなしで適切な提案を行える。
データ活用は「目的・KPIの明確化」から
また、提案を進める中で顧客からの反応が滞ってしまった場合にもCDPは有効だと小木曽氏は語る。CDPで統合したデータから顧客の状態に合わせて最適なコンテンツを紹介し、再検討を促すことができるからだという。さらに、営業担当者への通知機能によって対応の漏れを防ぎ、顧客ごとのパイプラインを可視化することでマーケティングや営業活動を見直しやすくする効果にも触れた。
「顧客データの活用」と一口に言っても、収集できる情報の種類やボリュームは企業によって異なる。そこで小木曽氏は、データ活用プロジェクトを進めるにあたって重要な6つのステップを解説する。
第1ステップは「目的を定める」。顧客データの利用や統合自体を目的にするのではなく、企業として目指す姿や、顧客に提供したい体験を念頭に目的を設定すべきだと述べる。たとえば小売業の場合は「LTV向上」を目的とし、実店舗とECでシームレスな体験を提供するために顧客データを統合・活用するという順番だ。
第2ステップである「KPIの明確化」について、小木曽氏は「売上の観点のみでなく、業務効率化の観点でも評価できるよう設定しておくこと」がポイントであると指摘。これにより、施策やツールの評価を適切に行えると話す。
第3のステップが「経営者の理解と社内調整」だ。「CDPを使ったデータの活用は、1部署のみで完結しない」と語る小木曽氏。経営企画部門が主導してDX推進部を新設し、そこが中心になって取り組みを進める企業が多いという。
社内調整のポイントは、各事業部に対し「なぜこのプロジェクトを進める必要があるのか」を明確に説明することだと小木曽氏は述べる。これにより、異なるKPIを追うメンバー全員が共通のゴールをイメージでき、円滑に進みやすくなるとした。
施策の実行フェーズでCDPによる細かな設定が効く
いよいよ第4ステップ「施策の実行」へと移る。具体的には「データを集める」「データがどういうものかを把握する」「データを作る(統合する)」「コミュニケーションを行う」「効果測定から施策のサイクルを回す」という順番で進めることになるという。
「この第4ステップにおいて、CDPで統合したデータを利用すると、目標・対象・タイミングなどを顧客単位で細かく設定できるようになります」(小木曽氏)
施策の実行後は、BIなどを用いて第5ステップの「効果測定」に移る。たとえば小売企業の場合、統合データを基にEC向けの施策を実施した後は店舗への影響をチェックすることがポイントだと述べ、「第4ステップと第5ステップを繰り返すことで、施策の精度や顧客理解を深めることができる」と続けた。
最終ステップは「社内リテラシー」だ。より深く、細かく、スピード感を持ってPDCAを回すためには人材の教育が必須だと語る。
では、CDPを導入するベストな時期はいつなのか。小木曽氏は、目安となるタイミングを3つ挙げた。
顧客エンゲージメントの向上やCookieレス対応にも有効なCDP
1つ目は「事業部やシステムを横断して分析したい時」だ。売上向上のための新たな打ち手を考えたい、手動で行っているレポート作成を効率化したいなどの課題に対しては、CDPが実現する基幹システムと各種分析ツールとの統合が有効になる。
2つ目のタイミングが「顧客エンゲージを高めたい時」だ。複数のチャネルで顧客にコミュニケーションを行っている場合、そのコミュニケーションが一方的なものであれば顧客体験を損ねている可能性もある。そこでCDPを導入すると、各コミュニケーションチャネルのデータが統合でき、顧客目線でシナリオを分類できるようになるという。
3つ目は「プロモーションの効果を分析したい時」だ。たとえば、オンラインとオフラインをまたいだ広告の評価を行いたい企業や、ポストCookie時代に向けた取り組みを行いたい企業がCDPを導入するケースが多いという。なぜなら、広告配信結果の収集や、その結果を出稿媒体に紐付ける際にCDPが有効であるからだと小木曽氏は述べている。
CDPを導入する前の土台作りや、適切な導入タイミングについて語ってきた小木曽氏。では、導入すべきCDPには具体的にどのような機能が求められるのだろうか? 小木曽氏は同社のCDP、INTEGRAL-COREの特徴となる機能を解説した。
小木曽氏によると、同ツールの最大の特徴は「シングルカスタマービュー(SCV)」にあるという。SCVとは、複数のデータソースに点在する顧客情報を統合し、1人の顧客として管理するための機能だ。SCVで統合した顧客情報を基に、管理画面上でセグメントを作成してマーケティングツールに連携したり、BIに連携して可視化したりできる。
EVERRISEはCDP導入時の技術的な支援に強みを持つ
また、INTEGRAL-COREでは顧客に関するデータを管理画面からノーコードで統合可能。「データの状態によってはSQLを書く必要もある」と小木曽氏は補足するが、定期的な処理として実行できるよう機能を提供している。
「データ加工の自由度を高く設計しているため、各企業の目的に応じたデータ活用が実現できます」(小木曽氏)
小木曽氏はほかにも、提供プランの柔軟性に言及。INTEGRAL-COREはSaaS版と専用環境の2プランを用意しているため、セキュリティ上SaaS環境に個人情報を置くのが難しい企業でも安心して導入できると語った。
現在INTEGRAL-COREでは、リアルタイムデータ処理のための機能を開発中だという。この機能を実装すると、利用企業は店舗へ来店した顧客に対し、リアルタイムデータに基づいた接客やマーケティング施策を行えるようになる。
一方、CDPの導入には各種システムとの連携など専門的な技術が必要となり、それが企業にとってのハードルとなっている。EVERRISEではデータの状態に応じた前処理や高度な加工など、開発領域のサポートを手厚く実施。これにより、導入企業がデータ活用のステップを着実に踏めるよう支援していると小木曽氏は話す。なお、その先にあるビジネスプランやマーケティング戦略の立案は、EVERRISEのパートナー企業と連携することで支援していくと続けた。
目的に合わせたデータ統合基盤の開発やコンサルティングのほか、既に保有しているデータを調査するデータアセスメントもEVERRISEでは提供している。小木曽氏は「攻めのDXや顧客データ活用における課題があれば、気軽に問い合わせていただきたい」と述べ、講演を締めくくった。