「EC・店舗どちらで買うか」は徐々に意識されにくくなっている
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は資生堂ジャパン(以下、資生堂)の山本さん、宇井さん、ZETAの出張さん、市川さん、そして大橋さんにお話をうかがいます。資生堂さんは10年近く前から「ワタシプラス by shiseido」(以下、ワタシプラス)を展開してこられましたが、提供開始時からの状況の変化、近年のコロナ禍での変化についてどのように見ていらっしゃいますか。
山本:総合美容サイトとしてワタシプラスを立ち上げた2012年頃、オンラインショップの運営は挑戦的な試みでした。
当時はオンライン上での購入が可能になったといっても、シェアの大半を占めていたのはEC専業の化粧品メーカー。美容部員がお客さまの肌質を確認しながら販売するカウンセリング化粧品を取り扱うメーカーで、EC販売に踏み切るところは少数でした。それが現在では、業態や国内・外資系問わずデジタルを活用していないところはほぼ皆無となり、必然的に競合も増えています。
また、かつてはECと店舗を明確に分ける傾向が強くありました。社内においても、販売する選択肢として「リアルかデジタルか」で考えることが多かったですし、お客さまとしても、「どちらで買うか」を今よりも意識していたと思うんです。ですがデジタルが浸透するにつれて境界線がなくなり、お客さまのその時々の状況やライフスタイルに応じて、フィットするチャネルを自然と選んでいただくようになっています。
五感の評価が重視される化粧品をオンラインで展開する難しさ
MZ:商品をオンラインで取り扱う上で、化粧品ならではの特徴や難しさはありますか?
山本:化粧品は、触ってみたり、香りをかいだりと、五感の体験が商品評価に結びつく商材です。だからこそ、デジタルとリアルの体験をどうやって融合させていくかが、今後の化粧品業界全体の課題になると思っていますし、資生堂にとってもカギになる部分だと思います。
最近はコロナ禍の影響で、なかなかお店に買いに行けなくなったり、テスターを廃止せざるを得なかったりと、リアルな場での購入体験を届けられない状態を余儀なくされています。そこでライブコマースやオンラインセミナーなどを活用して、それに近しい体験を届けられるよう力を入れているところです。
MZ:コロナ禍は顧客体験の設計にも大きな影響をもたらしましたね。ZETAさんも日々クライアントと向き合われる中で、同様の変化を感じられますか?
出張:やはり店舗での買い物に制約が生じたことは、大きな転換点になったと思います。店舗に代わる販売場所として、新たにオンラインショップを立ち上げるケースが増え、すでにECサイトと実店舗の両方をお持ちのクライアント様であっても、オンラインへの比重が高まっています。
こうした中で重要なのは、山本さんがお話しされたように「リアルで体験していないものを、オンライン上でどれだけ疑似的に体験してもらえるか」にあると思っています。
たとえばアパレルのECサイトでは、返品無料にして気軽に自宅で試着できるようなサービスを提供するところが増えました。また、以前よりレビュー機能がお客さまにとって重視される情報になっています。以前は「服はシーズンごとに商品の入れ替わりがあるから、レビューを蓄積してもあまり意味がないのでは」と考えられる企業も多かったのですが、今は多くのお客さまからレビューに関する相談が増えています。こうした背景からオンラインとオフラインの接合点に、自分たちのECサイトを置こうとする流れがあるのだと思います。
市川:疑似体験というと、アパレル業界ではスタッフがコンテンツを上げる流れが活発になっていますよね。最近では弊社のレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」の「Q&Aフォーラム機能」に注目が集まっているのですが、これもユーザーの疑問に対してスタッフ、もしくは他のユーザーが回答するもの。取得できるテキストデータが増大するので、それを何かに二次活用しようとする動きも生まれてきているようです。
ECは言わば一本道。「偶然の出会いの提供」に課題が
MZ:生活者がオンラインでの購買体験に求める要求も、より高くなっているように感じます。
山本:そうですね。たくさんの商品の中から、自分があらかじめ意図しているものに素早くたどり着けるだけでなく、その先にあるセレンディピティな出会いによるワクワク感が求められていると感じます。
ワタシプラスの回遊データを見ても、商品詳細の閲覧数が増加しており、いろいろなページを数珠繋ぎにたどって、商品を選んでいる様子がうかがえます。
リアルでは売り場に行けば商品を店頭で見比べたり、店員におすすめを教えてもらうなどといったセレンディピティな体験が生まれますが、オンラインでのショッピングはいわば一本道のようなものなので、工夫しなければ出会いをつくることは難しい。特定の商品に早くたどり着くことはもちろん、悩みごとやキーワードを起点に、知らなかった商品に出会えるような体験をつくりたい。そのような仕組みを実装したいと考えました。
着目したのは検索機能。柔軟なアレンジで購買体験を向上
MZ:今回ワタシプラスにEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」を導入されたのも、そうした改善の一つだったのでしょうか。
山本:はい。検索の持つ役割をさらに広げるため、機能に柔軟性を持たせることが目的でした。より具体的に言うと、それまでのワタシプラスは、一律的で可変が難しい検索エンジンを使っていたのですが、商品データを反映させながら、検索順序や検索軸を柔軟にアレンジできるようにしたいと考えました。
ただ、ECプラットフォームとしての仕組みはすでに持っていましたので、丸ごと変えてしまうのはロスが大きい。そこでAPIのプラットフォームを探したのですが、条件に合致するものがなかなか見つかりませんでした。
加えて、化粧品の検索体系は他の商材と比べて複雑なため、カスタマイズ性の高さが必要になり、パッケージ化されたツールでは条件に合致するものがありませんでした。いくつかのベンダーさんに話を聞いていたところ、ZETAさんがこれまでの我々の検索仕様を理解してくれた上で、フルカスタマイズも可能とのことでしたので、選ばせていただきました。検索ロジックをほぼゼロからつくりなおすような依頼でしたが、細かい要望に応えてくださり感謝しています。
出張:実は弊社は、難易度の高い案件をお持ちの企業様が最後にたどり着く、“駆け込み寺”のような役割を果たすことも多いのです。
今回のリニューアルで重視したのが、「検索機能を利用するお客さまに対してどのような体験を提供できるか」ということでした。
MZ:詳しく教えてください。
大橋:具体的には、ワタシプラスのサイトトップからの全体検索を中心に、「オンラインショップ」の商品検索、店舗情報を探す「お店ナビ」、キレイに役立つ美容コンテンツ「美容の情報」の情報検索を強化しています。
全体検索では、商品と一緒にコンテンツを出せるようブランドバナーを用意して、検索された内容に合うブランドサイトへの誘導もできるようにするなど、細かい部分までこだわって設計しました。
商品に対しても、単純なスペックデータからだけでなく、ブランドや新商品・限定品からの検索や、「しみ」「しわ」など化粧品ならではの悩みを軸にしたキーワードでの結果表示に対応できるようになっています。
MZ:これまで以上に商品が探しやすくなったのですね。
大橋:はい。通販はもともと紙のカタログからはじまった販売形態ですが、インターネットの登場によって物理的な重さが取り除かれ、さらに検索機能が向上したことで欲しいものを最短で見つけ出すことができるようになりました。私たちZETAが提供するソリューションは、この探しやすさを様々な観点から突き詰めていく役割を求められていると考えています。
細かな調整が購買体験を高める。実装前後のコンバージョン差で違いを実感
MZ:実装を振り返ってのご感想を教えてください。
宇井:商品検索の大切さを、改めて実感する機会となりました。絞り込み画面の改修をした際に、「ZETA Tag」というお客さまの閲覧行動を測るタグを使い、その結果を基に項目の並び順を変えたのですが、改修する前と後でコンバージョンに明確な差が表れています。細かなチューニングがお客さまの体験を良くするということが目に見えてわかりました。
MZ:チューニングというのは、どういうことを調整されたのでしょうか。
宇井:たとえば、絞り込み画面の改修時は、項目の並び順をお客さまがよく活用している絞り込み項目順に表示する、というチューニングを行いました。他にも、商品一覧を新商品やお客さまの嗜好ブランドの商品、売上が高い商品が上位表示されるようにするなどの工夫をしています。
メーカー側の視点だけで進めると、どうしても内部の事情が優先されてしまうところもあるので、チューニングの際にZETAさんから客観的な視点や生活者の視点での意見をいただけるのは大変助かりますね。
山本:検索は探したいものにたどり着くためのフローですが、利用者のアクションに対してインサイトにぴったりなコンテンツや情報を提供することも、広義では“検索の応用”だと思っています。今回その部分を改善できたことの意味は大きかったと考えています。
検索の可能性を広げ、ワクワクを感じるサイトを目指す
MZ:最後に、資生堂さん、ZETAさんがそれぞれの立場から今後のポイントとして考えていること、またこの先の展望についてのお話をいただけますか。
山本:先にお話したように、我々が目指しているのはワクワクを感じてもらえるECサイトです。それを叶えるためには、サイト上で提供する情報を軸に、これまでの検索の概念を超えた仕掛けや取り組みを提供することで、どれだけお客さまの期待に応え、予想を良い意味で裏切ることができるかが重要だと考えています。ZETAさんには今後も、その実現に力を貸してほしいですね。
宇井:検索の面でもまだまだ改善余地があると思っています。たとえば、あるブランドの商品を調べたお客さまに対し、商品ラインナップだけでなく、商品にまつわるキャンペーン情報やHow to動画を出したりすると、さらに体験を豊かにできるかもしれません。検索という体験に広がりを持たせることができれば、セレンディピティにもつながっていくと思っているので、そうした改善を進めていきたいです。
大橋:宇井さんのおっしゃる通り、検索がもつ可能性は大きいですよね。この先、レビューなど消費者の商品に対するフィードバックが積極的にされるようになると、今までの索引のような検索ではなく、コミュニケーションのきっかけになるような検索も可能になると思います。
市川:レビューは分析することで、そのサイトやブランドに対する共感や好意度が見えてきます。先ほどスタッフや専任のBCが情報を発信する話がありましたが、その応用編として、ブランド愛が強い人が発している情報をもっと活かしていけたら、ますますおもしろいサイトになるのではといったアイデアも浮かびます。「検索×レビュー」の掛け合わせは、これから注目が集まる領域の一つかもしれません。
出張:今以上に検索の持つ意味を拡張し、利用者に対して“提案できる”サイトが求められていますよね。弊社としては、メディアとECの両方の側面を持ったワタシプラスさんの強みを最大限活かすために何ができるか、これからも考えていきたいと思います。
本記事の中で登場したソリューションはこちら!
EC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」
レビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」