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特集:マーケターの「これから」を話そう

データは個人のもの。その規制が広告業界の労働者にまで及ぶとき

 非効率かつ不健康となってしまっているネット広告業界。商習慣や業界的な構造の問題によるところが大きいが、媒体社・広告代理店・広告主の3者でウィンウィンとなれる可能性はある。少し広い視点で、広告運用担当者のマーケターとしての能力および評価のされ方を考えてみよう。

※本記事は、2021年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』72号に掲載したものです。

なぜ、日本のCPMは低いのか?

zonari 合同会社 代表執行役社長 有園雄一氏

 早稲田大学政治経済学部卒。1995年、「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社1995年9月)で出版。オーバーチュア(現ヤフー)、グーグル(Sales Strategy and Planning/戦略企画担当)などを経て現職。2016年〜19年、電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタント。2018年、アタラ合同会社フェローに就任。

 「日本のCPM(※1)はかなり低い」。アメリカの知人によれば、Wall Street JournalやFinancial Timesは、CPMが200ドル(2万円超)ぐらい。一方、日本では、CPMが数百円というケースも珍しくない。

 なぜ、日本のCPMは低いのか? 90年代に米国で働いていた私は、ネット広告が日本に導入されたとき、コミッション(手数料)制とフィー(作業報酬)制について、アメリカ人と議論した経験がある。アメリカ人は、日本のコミッション制は広告代理店に有利であり、媒体社や広告主には不利だと主張した。「コミッション制では、CPMが上がらない」と。だが、アメリカのフィー制では、電通・博報堂の協力が得られない。アメリカ人も仕方なく、コミッション制を飲んだ。

 アメリカ人曰く、「コミッション制では、マーケターの能力が評価されない。つまり、広告効果が改善しない。その結果、CPMは上がらない」。電通や博報堂の言い分は、「日本には日本の商習慣がある。媒体費の30%など手数料を受け取る。その結果、ネット広告を売るインセンティブがあり、大量に売ることができる」と。

 CPAの計算式によれば、コンバージョン率を高くするとCPAが改善する。あるいは、CPAを一定に維持してコンバージョン率を改善すると、CPCやCPMなどのコストを高く維持できる。コミッション制では、媒体費のグロス金額を重視する。そのため、電通や博報堂で、コンバージョン率を改善したマーケターや広告運用者が組織的に、高く評価されることは稀だ。

 これは、テレビのように電通・博報堂の寡占市場なら良いのだが、ネットはオープンな市場で、サイバーエージェント、オプトなど、多くのネット代理店との競争になっている。結果的に、手数料の値下げ競争に陥って、コミッション制であっても、マス広告に比べて利益率が悪くなった。

 つまり、90年代当初の電通・博報堂の目論見どおりにはならなかった。

 だが、いま、CPMを上げれば、電通・博報堂の収益も上がるし、媒体社の単価も上がるし、もちろん、コンバージョン率も改善される。それは、広告主にメリットになる。これを業界的に理解すれば、マーケターや広告運用者の能力を、ROI・コンバージョン率改善などの数値で評価して、日本のCPMを高くすることは可能だろう。

※1 CPM:Cost Per Mille(コスト・パー・マイル)。ネット上で広告を1,000回表示するごとにかかる広告費。

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/12/24 07:15 https://markezine.jp/article/detail/38012

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