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デジタルビジネスのルールチェンジ~取引透明化とプライバシーガバナンス

デジタルプラットフォーム事業者への規制がついに本格化!経済産業省に聞く「取引透明化法」の詳細

 デジタルプラットフォームを巡るビジネスの透明性・公正性を高めるため、政府が対応に乗り出している。2021年2月に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)が施行。現在は、大規模な総合物販オンラインモールやアプリストアを運営する国内外の事業者5社が法律の対象として指定されている。そして2021年6月、この法律をデジタル広告分野のプラットフォーム事業者にも適用することが閣議決定され、実現に向けた調整が進んでいるという。本記事では、デジタルビジネスに精通する高橋君成氏が、本法律の運用に携わっている経済産業省の村瀬光氏にインタビュー。法律のポイントや今後の見通しについて聞いた。

そもそも取引透明化法とは?

高橋:私は昨年から今年にかけて、データビジネス・デジタルマーケティングと個人情報保護に関連した取材を進めてきました。村瀬さんにはポストCookieと個人情報保護法改正の文脈から、「プライバシー保護とデータ利活用をどのように両立していくのか?」についてお話をうかがいましたね。

※昨年の記事はこちら※
Cookie規制は目前、政府はどんな議論を?経産省に聞くプライバシー保護・データ活用両立への道筋

 村瀬さんは現在、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、取引透明化法)の運用に携わられているそうですね。この法律は現在オンラインモールやアプリストアの分野に適用されていますが、デジタル広告分野にも適用することが閣議決定され、検討が進んでいると聞きました(※1)。

 まずは改めて、この法律がどのような内容なのかお話しいただけますか?

※1 参考:内閣官房デジタル市場競争本部事務局「デジタル広告市場の競争評価 最終報告 概要
経済産業省「デジタルプラットフォーム取引透明化法の対象追加(デジタル広告市場)について①

経済産業省 商務情報政策局 デジタル取引環境整備室 室長補佐(総括)村瀬 光氏
経済産業省 商務情報政策局 デジタル取引環境整備室 室長補佐(総括) 村瀬 光氏

村瀬:取引透明化法は、近年飛躍的に成長し利用者を増やしているデジタルプラットフォームを運営する事業者と、それを利用する事業者との間の取引の透明性・公正性を高めることを目的とした法律です。その背景としては、たとえば、「申請したアプリがリジェクトされたがその理由が明かされない」「ポリシーやシステムが急に変更され、事業に影響が出た」といったプラットフォーム事業者との間の取引に関する利用事業者の懸念の声があったことが挙げられます。

 この法律は2020年6月に公布され、2021年4月には法の規制対象となる「特定デジタルプラットフォーム提供者」として、BtoCの総合物販オンラインモールの運営事業者(アマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフー)とアプリストアの運営事業者(Apple Inc.及びiTunes、Google LLC)の5社が指定されました。指定の基準は、総合物販オンラインモールについては3,000億円以上の国内売上額、アプリストアについては2,000億円以上の国内売上額と定められています。

デジタル領域にフィットする法律の在り方を採用

高橋:対象となった5社は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

村瀬:法律の規定に基づき、取引条件などの情報を利用事業者に開示するとともに、利用事業者からの苦情等に対応するための手続・体制を整えるなど、透明性・公正性を高める取り組みを講じています。

経済産業省「デジタルプラットフォーム取引透明化法の概要」より(クリック/タップで拡大)
経済産業省「デジタルプラットフォーム取引透明化法の概要」より
(クリック/タップで拡大)

 上の図の特定デジタルプラットフォーム提供者と行政庁(経済産業省)の役割に注目いただきたいのですが、まず、特定デジタルプラットフォーム提供者が、取引条件等の情報の開示に加え、指針(※2)に基づき自主的な手続・体制の整備を行い、次に、行政庁が、そうしたデジタルプラットフォームの運営状況を関係者に意見を聴きながら評価・公表し、その結果を踏まえて、特定デジタルプラットフォーム提供者が、自主的な改善をする、というサイクルになっていますよね。これまでの一般的な法律のように、国がルールを細かく設定しそれを遵守させるのではなく、国は大枠として達成すべきゴールを定めて、それを達成する具体的な手段については各社の創意工夫に委ね、それを関係者で評価(モニタリング・レビュー)する、というスキームになっているのが、この法律のポイントです。

高橋:国が理想的な取引の在り方を提示し、その達成に向けて、関係者が共同で取り組んでいくことになるのですね。このスキームには、昨年の取材でお話しいただいた「ガバナンス・イノベーション(※3)」の概念が取り入れられているのでしょうか?

村瀬:はい。デジタル時代において、イノベーションを阻害せず、技術革新の速さにも対応していくためには、政府は大枠としての方針を定め、それを達成するための手段は事業者の創意工夫に委ねつつ、その達成状況を関係者でレビューし、政府・事業者それぞれが取り組み内容をアジャイルにアップデートしていく、という規律の枠組みに転換していく必要があるという考え方が、「ガバナンス・イノベーション」の精神です。

 このような規律の枠組みは「共同規制」と呼ばれますが、取引透明化法は、「共同規制」という概念が初めて導入された法律と位置付けられると思います。この法律に「共同規制」という仕組みが取り入れられることになったのは、プラットフォーム事業者が(中小企業等に販路開拓機会を提供するなど)「イノベーションの担い手」でもあるという点を考慮したためです。

※2 特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針(令和3年経済産業省告示第16号)

※3 ガバナンス・イノベーションの概念図は以下の通り。各主体の役割が変化していく。

『GOVERNANCE INNOVATION Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン』より
GOVERNANCE INNOVATION Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン』より

村瀬:今年の5月末までには、規制対象の5社から、それぞれの取り組みについて自己評価が付された報告書が提出される予定です。報告書の提出後、行政庁(経済産業大臣)が、デジタルプラットフォームを利用する事業者、消費者、有識者、さらには規制対象事業者自身などの関係者の意見を聴きながら、プラットフォーム事業者による運営状況を評価し、結果を公表することになります。その評価に向けて関係者から意見を聴き、議論をするための会合を、昨年の12月に立ち上げたところです(※4)。

※4 経済産業省「「デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」を開催します

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日本の法律で海外プラットフォーム事業者を規制できるのか?

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この記事の著者

マチコマキ(マチコマキ)

広告営業&WEBディレクター出身のビジネスライター。専門は、BtoBプロダクトの導入事例や、広告、デジタルマーケティング。オウンドメディア編集長業務、コンテンツマーケティング支援やUXライティングなど、文章にまつわる仕事に幅広く関わる。ポートフォリオはこちらをご参考ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高橋 君成(タカハシ キミナリ)

Cosmose Inc, Head of Sales&Partnership, Japan 1988年生まれ。外国語大学卒業後、リクルート、Criteoなどを経て、RTB Houseの日本法人立ち上げを経験。2021年4月よりCosmose Incの日本ビジネスにおける責任者を務める。

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2022/02/03 09:00 https://markezine.jp/article/detail/38025

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