ブームの裏にあるマーケットインとプロダクトアウトのバランス
高橋:マーケティングの目線として、幅広い層のニーズがあり、かつ日常的な商品を高級路線で売り出すというのはとてもいい戦略だと感じます。ブームにともなって同じような店も次々出てきていますが、店名とかデザインとか、個性的な点も一線を画す施策になっていますよね。

高橋 飛翔(たかはし・ひしょう)
1985年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中にナイル株式会社を創業。
ナイルにて、累計1,500以上の法人支援実績を持つデジタルマーケティング支援事業や自社メディア事業を発足。2018年より新規事業として月1万円台でマイカーが持てる「おトクにマイカー 定額カルモくん」をローンチ。自動車産業における新たな事業モデルの構築に取り組んでいる
岸本:うちの会社は、生み出すことが好きなんです。みんなから愛される味を作るマーケットインに対して、すごくこだわったデザイン性でプロダクトアウトを貫くことで、「話題性だけで行ってみたけど、美味しかった」となればいいな、と。
デザインは好みが分かれる感じなので、SNSは半分くらい私の悪口ですが(笑)、逆にプロデュースしてほしいと言ってくださる珍しいタイプの方もいるので、その方たちのためにブランドを作ってあげたいという気持ちでやっています。
高橋:フランチャイズにするという考えはなかったのですか? そのほうが絶対に収益は上がりますよね?
岸本:よく言われるのですが、私は人をよろこばせるのが好きで、その方その方に合わせたブランドを作りたいし、それがその街の魅力として残ってもらいたいという思いがあるので、フランチャイズはおもしろみがないんです。そこに対するロイヤリティもいただいていないから、逆にこれだけご依頼をいただけるのかもしれません。
高橋:ビジネスの合理性より、よろこんでもらうのが好きというモチベーションからなんですね。とはいえ350店舗という数で店名も外装もまったく違うものを作ってきてますが、それだけアイデアがわくところもまた、素晴らしいです。
岸本:プロデュースした店舗は2020年だけで約133店舗、2021年も同じくらいの店舗数になります。アウトプットばかりで、同じことを何度も繰り返しているとアイデアが枯渇するから、実のところ毎日大変です(笑)。
だからこそインプットのために、商品開発も兼ねて365日外食しているんです。外食を通して人から得られるものはすごく多いし、食材の知識も付く。そうしたいろいろな情報を取捨選択できるのが私の強みなので、人が好きという思いと、遊ぶことは大切にしていますね。以前、居酒屋とかで出会った方に「うちの町にも作ってよ」と声をかけていただくこともあって、営業は一切したことがないんです。
高橋:それはすごい! 同じことを繰り返しすぎるとどんどんクリエイティビティが失われていって、何も思い付かなくなるのはわかります。遊びも大切ですよね(笑)。
ここにマーケあり!
・「考えた人すごいわ」「題名のないパン屋」などの岸本さんプロデュースのパン屋さんの奇抜なネーミングや外観は、興味本位で来てくれる人を効率よく増やすことを狙いとしていました。そこで待っているのは、地域ごとに異なる粉の風合いや配合で作られた高品質の美味しい食パン。多くの人が日常的に食す食べ物だからこそ、必然的にリピーターを生み、宣伝コストを抑えて事業が立ち上がっていくことになります。「食パンの味が良ければ話題性だけで来た人でもリピートする」というアイデアにもとづく、良い戦略だと感じました。
・奇抜なネーミングや外観の店をプロデュースし続けるクリエイティビティを保つため、商品開発も兼ねて365日外食をするという岸本さん。食事を通じて知り合う縁から次のプロデュース店も決まっていくと言います。奇抜な名前や店の外観に囚われ見過ごしがちですが、圧倒的な努力を日々のルーティンの中に取り入れているからこそ、年間133店舗をプロデュースするという離れ業ができるのだと腹落ちしました。