中国市場の今を理解する、5つの手がかり
本講演のスピーカーである大丸松坂屋百貨店の洞本宗和氏は、2017年から2021年9月まで、同社と提携する中国の上海新世界大丸百貨で勤務。その傍ら、現地で見聞きした小売・DX関連の事例を発信してきた。中国の小売というとEC化率の高さや高度なデジタル化に注目が集まるが、実は続々と新たな大型商業施設が誕生するなど、日本におけるイメージとやや異なる点があるという。
洞本氏は冒頭、中国市場の特徴として次の5つを挙げた。
中国市場の5つの特徴
(1)“超”スマホファースト社会
中国において、行動の起点のほとんどがスマホアプリだ。財布を持ち歩くことは不要で、移動、食事、買い物もスマホアプリで行える。
(2)プラットフォーマーの圧倒的な影響力
生活における多くのサービスに、アリババ、もしくはテンセントの資本が入っている。
(3)体感値“3倍速”で変化する社会
中国では製品やサービスのライフサイクルが非常に速い。たとえば、2017年にいわゆる“無人ブーム”が到来し、無人コンビニや無人書店、無人カラオケ、無人レストランなどが次々と誕生したが、社会に浸透することはなく、2020年にはコロナ禍の影響も相まって多くの店舗が閉店した。
(4)すべてに関して振れ幅が大きい
貧富、学歴、消費やファッションの感度、商品・サービスの品質など、あらゆるものの格差・振れ幅が大きい。たとえば日本の超富裕層は5億円以上の資産を有している層と定義されているが、中国の超富裕層は18億円以上で、日本とはレベル感が違う。一方で年収70万円以下の低所得者層が6億人いると言われている。このように「平均」という物差しでは測れないのも、中国の特徴だ。
(5)世界一のEC化率
中国がEC化率世界一の国であることは間違いない。しかしEC化率はその集計方法によって数値が大きく変わるため、注意が必要だ。洞本氏が追っているのは中国の国家統計局が発表している数値で、2021年のEC化率は24.5%。この数字は現地で暮らした感覚とも近いという。
自社アプリが「新小売」の要に
2016年にアリババのジャック・マー氏は、従来型のECが終わり「新小売(ニューリテール)」の時代がやってくると宣言した。この発言は日本においても話題となり、様々な解釈や見解が生まれたが、洞本氏は「より高効率な小売のこと」と、シンプルに捉えている。
「成長が鈍化してきたオンラインプレイヤーが、『オンとオフの良さを掛け合わせればさらなる成長が見込める』というビジネスチャンスを見つけ、オフラインに進出。結果的にオンラインとオフラインが統合され、顧客体験が最大化されているという構図になったと考えています」(洞本氏)
新小売の概念を体現する代表的な会社が、スーパーマーケット「盒馬(フーマー)鮮生」(以下、フーマー)と百貨店「銀泰(インタイ)百貨」(以下、インタイ)だ。
「新小売の要になっているのはアプリです。特にインタイは店舗だけ見るとごく普通の百貨店ですが、アプリでさまざまな取り組みをしていることが特徴として挙げられます。まず、アプリで独自ECを実現しています。フーマーもインタイもアリババグループなので、アリババがやっているECであるTmallにも出店していますが、彼らのECの主戦場になっているのはあくまで自社アプリです
百貨店の場合、日本でも中国でも、基本的に単品在庫データは一部の商品しか持っていません。これが百貨店のEC化を阻む大きな障壁になっていると考えます。しかし、インタイは自社で在庫データを保有していると思われ、自社アプリで多様な商品を販売できるようにしています」(洞本氏)
フーマーもインタイも、ECの注文に対して実店舗の在庫を活用している。
「実際にスタッフが実店舗の棚から商品をピッキングする光景が見られます。いまだに粗悪な商品や偽物の商品が流通している中国ECにおいては、実店舗からの商品出荷は信用性を高める一つの方法になっています」(洞本氏)
実店舗の在庫活用は、即時性も高めることにも貢献している。郊外にある物流センターからではなく、顧客の家から近い店舗の在庫を使って配送することによって、短時間配送を実現。フーマーであれば、店舗から3キロ以内なら30分で届けることができる。
一方、フーマーやインタイの実店舗は、顧客にどんな価値を提供しているのだろうか。続いて洞本氏は、店舗が実現しているサービスやオンオフ統合の実態について言及した。