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MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZine Day 2022 Spring

「EC化率世界一」でも毎年500超の大型商業施設が誕生。中国の小売で、いま何が起きているのか?

オンオフ問わずアプリ決済に限定し、購買データの一元化を目指す

 フーマーは海鮮類の品揃えが充実しており、実店舗では、購入した商品をその場で調理してもらい食べることができる。顧客は店舗をレストランのように使い、商品を確認することができるのだ。

 「お客様は店舗で体験しておいしいと思えばそのままECで注文します。家に帰った頃には自分がさっき頼んだ商品がもう届いている、こんなサービスが、フーマーでは実現できているのです」(洞本氏)

 一方、インタイは店舗をブランドの世界観を体験する場と位置付けている。

講演資料より
講演資料より

 また、フーマーもインタイも、オンライン・オフライン問わず顧客に自社アプリでの支払いを求めることで、購買データの一元管理を目指している。顧客データはアリババグループ内で統合され、Tmall(アリババが運営するEC)やAlipay(アリババが運営する決済サービス)もすべて同じ顧客番号で紐づいている。つまり、フーマーやインタイで購買した人がTmallで何を買っているのか、またAlipayでいつ何に対して支払っているかということを、アリババは横展開で追跡できるのだ。

 このようにアリババは、オンラインとオフラインが融合された高効率な小売を実現。フーマーの1店舗あたりの売上は、一般的なスーパーの2~3倍と言われている。オンラインとオフラインがつながることで顧客のライフスタイルに対する理解が深まり、小売にとって一番大切な「顧客はなぜこの商品を買っているのか」というインサイトの仮説構築精度を高めることにつながっている。

 「今アリババは、彼らが持っているビッグデータやマーケティングノウハウ、物流などを活用し、零細小売の支援サービスも提供しています。そこで新たな収益を得るとともに、さらなるオフラインのデータを獲得しているのです。このように、データを用いて正のスパイラルを回すことに成功していると言えます」(洞本氏)

講演資料より
講演資料より

今も毎年500超の大型商業施設が誕生。その特徴とは?

 EC化率世界一と言われ、さらにアリババを筆頭に新小売の概念を体現している中国。しかし実店舗が消滅したわけではなく、毎年500店舗ほどの大型商業施設が新設されている。そのなかでも支持されている店舗は、一定のデジタル対応はしつつ、実店舗の強みを磨くことにこだわっているのだという。逆にインタイのような形式は、プラットフォーマーでなければ難しい。その具体的な例を洞本氏は3つ挙げた。

(1)圧倒的な買物体験を提供する高級商業施設

 1つ目は、圧倒的な買物体験を提供する高級商業施設だ。中国の大型商業施設の売上ランキングのトップ10に入った店舗はすべて、コロナ禍でも前年大幅増となっている。1位の北京SKPの売上は年間240億元。日本円にすると4,300億円の売上となる。ランキング入りしたのはいずれも、ラグジュアリーブランドを保有する商業施設だ

 「ラグジュアリーブランドの主な買い手は富裕層ですが、彼らは高額商品を買うとき、少しでも安くということよりも、リアルな場できちんと接客をしてもらうという体験を望んでいるのだと思います」(洞本氏)

 中国ではオンラインが先行して発達したため、上海・北京等の大都市以外の都市にはラグジュアリーブランドがそろった実店舗が十分行き渡っておらず、まだまだ余白がある。そのような都市では、今でも高級商業施設の開発が進んでいるのだという。

(2)非物販機能重視の商業施設

 2つ目は、実店舗でしか体験できない非物販機能重視の商業施設だ。2021年に上海にオープンした北外灘来福士は、非物販テナントの構成比が非常に高く、半分以上の約54%を占めている。一方で、従来の伝統的な百貨店アイテムの構成比は低く、3分の1以下に抑えられている。

 北外灘来福士の一番の売りは、90年代の上海を再現した飲食街だ。急速に豊かになった中国では、貧しい時代の中国を知らない若い世代が増えている。そのため昔と言っても僅か30年前の街並みが若い世代には非現実であり、このような飲食街が人気を集め、中国の至る所で広がっている。ほかにも、商業施設の中に水族館や植物園、博物館、スケートリンクが入っている店舗もあるそうだ。

(3)「顧客が集う場」として機能している商業施設

 3つ目は、その2つの例の結果、商業施設自体が「顧客が集う場」となっているケースだ。たとえば、成都にある成都遠洋太古里というショッピングセンターは、大慈寺という歴史ある寺と隣接しており、店舗が寺を取り囲んで古い街のように広がっている。店舗にはラグジュアリーブランドが、それぞれ一戸建ての家屋に分かれて入っている。古い街並みを再現した独特の風格を持つこの商業施設をめがけて人々が集まってくるようになり、成都という街のイメージを変えることにも一役買ったそうだ。

 「これら3つの事例を見ますと、彼らは実店舗の役割を拡張していると考えることができます。今までの小売は物と人をつなぐ場でしたが、今後は生活のあらゆるモノ・コトと人を高次元でつなぐ場になっていく必要があると思います。3倍速で物事が変化する中国ですから、この3つの要素いずれかを保有していない商業施設は日本より早く滅びるかもしれません」(洞本氏)

講演資料より
講演資料より

 これまで見てきた中国の状況を踏まえ、日本の商業施設や百貨店はどのように進化を遂げていくと良いのだろうか。洞本氏は講演の後半で、自身が属する大丸松坂屋百貨店の最近の取り組みを紹介した。

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“意味性消費”への対応を強化

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

 就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・翻訳ツールなど...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/04/20 09:00 https://markezine.jp/article/detail/38714

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