SNSを活用し若年層へのアプローチを強化
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは福島さんと笠間さんの担当業務についてお聞かせください。
福島:2022年3月に販売促進部から名称変更したマーケティング部の総括マネジャーを務めています。名称変更前もマーケティング視点でプロモーションを行ってきましたが、体制をより強化すべく専門部署を立ち上げた形です。
笠間:私はマーケティング部のデジタルメディア(SNS・ホームページ)チームに所属し、様々な媒体を活用しながら主にスイーツのプロモーションを担当しています。
MZ:現在御社がマーケティングで解決されようとしているビジネス課題はありますか。
福島:セブン-イレブン・ジャパンは多くの加盟店がいらっしゃるフランチャイズビジネスの本部なので、加盟店の売上利益を上げることが我々の使命となります。売上利益を上げるにあたり、課題となっているのが減少傾向にある客数です。加盟店に負荷をかけず、情報発信によっていかにお客様に来ていただけるかを考えるのが、我々マーケティング部だと考えています。
客数とあわせて改善すべき点が若年層の構成比率です。来店者の内訳を見ると、20~30代の割合が人口構成比よりも下がっています。若年層にも選ばれる存在となるために、手を打たなければなりません。
MZ:具体的にどのような手を打っていらっしゃるのでしょうか。
福島:来店を促すためにテレビCMなどは打っていますが、最近はテレビを持たない・見ない若年層も少なくありません。そのような層に向けて発信できるのが、笠間のチームが担当するデジタルであり、特にアプローチしやすいのがSNSです。彼らは「買ってください」という押し付けの広告を嫌がる傾向があるため、SNSでは広告色を控え「いかに楽しく興味深い情報を提供するか」という観点で施策を展開しています。
サイトの「裏ページ」で脱・押し付けの販促を実施
MZ:楽しさを感じさせる企画として、様々なフェアを行われたそうですね。フェアの内容について詳しく伺えますか?
福島:2022年の1月に「北海道フェア」を、3月には「九州フェア」を開催しました。コロナ禍で旅行が難しい状況を踏まえ「他県に足を運ばなければ食べられないものが、全国のセブン-イレブンで食べられたら楽しいよね」という想いが企画の出発点です。ご当地グルメが圧倒的な人気を誇る北海道と九州からフェアをスタートしました。
弊社は全国の各地区に商品開発拠点があるため、フェアのために新しい商品を開発できるという強みを持っています。今回も北海道と九州の有名店とご一緒させていただき、オリジナル商品の開発を行いました。
MZ:デジタルならではの表現として、Webサイトにある工夫を施されたそうですね。
福島:北海道フェアと九州フェアでは、サイト上に「裏ページ」という仕掛けをつくりました。表ページでは標準語で内容を表記し、裏ページでは方言に切り替えたんです。
またサイトには地図を掲載し、特定のエリアをクリックすると、その土地の魅力を説明する文章と関連商品が表示されるように設計しました。商品を売ろうとするのではなく、まずは観光情報を見てもらい「ご当地商品を開発したので、よろしければ食べてください」という構成にしたわけです。
福島:また九州フェアでは「九州を吸収」という遊び心のあるフレーズを使い、WebサイトやSNSで展開しました。
投稿動画のエンゲージメントは平均値の約10倍!
MZ:SNSはどのように活用されたのでしょうか。
福島:SNSではプッシュ型のプロモーションをやめて、商品開発担当者の苦労話や商品を擬人化した動画などを投稿しました。こうしたアプローチはテレビCMだと難しいですよね。広く浅くフェアや商品の情報を伝えるのが限界です。一方でSNSやWebサイトは、より深く情報を知りたい人向けのツールと言えます。マスとデジタルそれぞれの特徴を踏まえた上で、施策の棲み分けを行っています。
MZ:フェアの反響はいかがでしたか。
福島:北海道・九州フェアとも販売は好調でした。SNS投稿への反応もかなり高く、両フェアのWeb動画は通常投稿の平均値を10倍以上も上回るエンゲージメント率でした。
アジアングルメフェアではTikTokに初挑戦
MZ:笠間さんのチームが担当されたという「アジアングルメフェア」についてもお聞かせください。
福島:北海道フェアと九州フェアはマス向けの企画だったのですが、アジアングルメフェアでは女性をターゲットにしました。そんな背景から、笠間をはじめ女性を中心としたチームに企画を100%任せたんです。
笠間:アジアングルメフェアではInstagramやTwitterのほかに、弊社として初めてTikTokを活用しました。具体的にはTikTokで流行している「アイドルグループのメンバー紹介」というフォーマットを活用し、商品紹介の動画を投稿。初めて使う媒体ということもあり「失敗できない」という緊張感がありました(笑)。
福島:Twitterは親近感やスピード感を重視する場、Facebookは少し詳しく説明する場、YouTubeは広告媒体、Instagramはきれいに見せる“映え”の世界と捉えて、各SNSを使い分けています。TikTokは止まらず流れで見るメディアなので、リズム感があって目が留まるクリエイティブを意識したのですが、この見せ方には新しいチャンスを感じましたね。
MZ:2022年2月には「ご当地有名店麺大集合フェア(以下、麺フェア)」を実施されたと伺っています。
福島:同じ「フェア」でも北海道・九州フェアと違うのは、販売エリアをいくつかに分けたことです。全国一律で販売するのではなく、エリアをいくつかに分け「このラーメンはこのエリアでしか買えない」という風に仕立てました。
過去の実績から「ご当地メニューをご当地で販売すれば売れる」ということはわかっていたんです。しかしながら、ご当地メニューを違う土地で限定販売するのはなかなかない取り組みだったため、若干の不安がありました。
MZ:デジタル販促施策はどのように展開されたのですか。
福島: Webサイトではタイアップした店舗の店主様のインタビューを掲載しました。その動画をSNSにも投稿したところ、軒並み高いエンゲージメント率を記録。ターゲットとして設定していた男性層を中心に、販売も好調に推移しました。
フェア体験者の月間来店回数が約5%増!スイーツ企画では声優コラボも
MZ:これまでお話しいただいた4つのフェアは「客数向上」という課題にどの程度寄与したのでしょうか。
福島:来店客数にも売上にも明らかな効果が現れました。セブン&アイグループの会員サービス「7iD」のデータを基に、継続的にセブン‐イレブンへ来店してくださっている約530万人の会員データを調べたところ、北海道・アジアングルメ・麺・九州フェアを開催していた2022年1月~2022年3月の期間中、全てのフェアを体験していない方の月間来店数は6.1%下がっていました。一方、全てのフェアを体験した方の月間来店数は4.7%増加。1%を増やすのも至難の業なので、予想していたよりも遥かに高い数値でした。
また、全てのフェアを体験した方の購入金額も6%程度増加しました。瞬間的に売上を伸ばす値引き販促とは違い、フェアは楽しさを提供するぶんLTVが高いと言えます。
MZ:笠間さんがメインで担当されている「#ちょいハピセブンスイーツ」についてもお話しください。
笠間:「コンビニスイーツと言えばセブン-イレブン」と思っていただくために、2022年のバレンタインからスタートした通年企画です。今後は夏の涼菓以降、季節ごとの催事と掛け合わせた施策を計画しています。
笠間:まずは#ちょいハピセブンスイーツという企画を知ってもらいたかったので、声優さんを起用し、アニメと親和性の高いTwitterでの拡散を狙いました。店内BGMにも声優さんに出演していただき、デジタルと店頭の両輪で認知を獲得する戦略に。ユーザー視点で「こういう内容が面白いのではないか」と考え、SNSでは双方向にコミュニケーションを取れるような投稿を心がけました。
福島:声優さんのお名前を伏せて「この5人の声優さんは誰でしょう?」というティザー動画をTwitterに投稿したところ、物凄い数の反応をいただきました。「アニメ×若者」の親和性は、私たちが思っていた以上に高かったです。
MZ:投稿への反応はいかがでしたか。
笠間:Twitterでのエンゲージメント率は、通常投稿の約5倍になりました。リツイートキャンペーンなど様々な施策による複合的な効果だとは思いますが、公式Twitterアカウントのフォロワー数がここ2~3ヵ月で40万人ほど増えたのも大きかったです。
お客様を待つ姿勢から攻めのデジマ戦略へ
MZ:“攻め”のデジタル戦略でエンゲージメント率や来店数の向上を達成されていて素晴らしいです。最後にお2人の今後の展望をお聞かせください。
笠間:デジタルメディアチームというお客様の声を取り入れやすい部署なので、将来的にはお客様と一緒にスイーツや商品パッケージなどの開発をしてみたいという目標があります。
福島:今後、コンビニ業界は「お店に来ていただく世界」から「お客様の方に歩み寄る世界」へのシフトが求められると考えています。1人1スマホの時代において、スマホを媒介した双方向のコミュニケーションが不可欠になるでしょう。
マーケティングとは「営業行為がなくても商品が売れる仕組みを作ること」だと考えています。そのためにはお客様1人ひとりの考えを我々が正しく集約し、そこに対して価値をご提供できるようにならない限り、新しいビジネスモデルはつくれないでしょう。そんな世界にしていきたいと思っています。