良いクリエイティブは多言語展開できる
パネリスト
ココネ ペティ・フロリアン氏
M&E Time Entertainment 兪捷克(Jackie)氏
NHN comico 浜野美穂子氏
天野(Liftoff):まずは広告クリエイティブとの向き合い方を教えていただけますか。
ペティ(ココネ):結局は「何を発信して誰にウケるか」が最も重要だと思っています。そのためのユーザー分析はもちろん大切ですが、数字ではわからないインサイトもたくさんある。ユーザー理解を深めるためには、徹底的なインタビューを行った上で、得られた仮説をクリエイティブに落とし込んでみるしかないのではないでしょうか。
天野(Liftoff):ココネではクリエイティブを内製されているんでしょうか。
ペティ(ココネ):100%内製です。デザイナーにはユーザーと話した内容をフィードバックし、クリエイティブにアウトプットしてもらっています。
浜野(NHN comico):当社では「日本の広告代理店」「グループ会社」「内製」の3本軸でクリエイティブを制作しています。マンガアプリの場合、アプリ自体の広告ではなく作品ごとのプロモーションが必要です。不思議なことですが、同じ作品のクリエイティブでも作る人によって抜き出すシーンが全然違うんですよね。
天野(Liftoff):抜き出すシーンの指示はしていますか。
浜野(NHN comico):細かく指示をすると同じようなクリエイティブができてしまって訴求が似通うので、制作側に委ねることが多いです。グローバル展開している作品については、クリエイティブを翻訳してそのまま使用することもあります。良いクリエイティブは多言語展開しても有効なことが多いんです。欧米で当たったクリエイティブを日本語訳して使ったところ、同じように良い反響が得られました。そうした事例は数多くあります。
Jackie(M&E Time Entertainment):中華系企業では、マーケティングチームとは別にグロースチームを設けることが多いです。前者はブランディング、後者はデジタル広告の制作と実行を担当する形です。
Jackie(M&E Time Entertainment):2つのチームは、いわば“いたちごっこ”のような関係です。グロースチームは効率をとことん重視し、とにかくクリック率を高める。場合によってはライカビリティ(ユーザーからの好意度)が下がってしまうこともあります。そこでマーケティングチームがブランドキャンペーンを打つことにより、下がったライカビリティを回復させたり認知を上げたりするわけです。社内で協業と競合を発生させ、その繰り返しで成長を図っていきます。
天野(Liftoff):クリエイティブに対するアプローチが各社で違って面白いですね。広告のクリエイティブがアプリのインストールや購入に与える影響は大きい一方、カジュアルゲームにおける動画広告のうち、ユーザーの動機付けに成功しているものはわずか4%という調査結果も出ています(出典:Liftoff「モバイル広告クリエイティブインデックスレポート」)。
天野(Liftoff):パフォーマンスの高いクリエイティブを生み出すためには、継続的なテストが不可欠です。当社では「Multi Creative Optimization」という新機能をリリースしました。これまで同時に2種類しか試すことができなかったクリエイティブを、6種類までテストできるように。パフォーマンスの低いクリエイティブから高いものへ自動的に予算を再配分するなど、コストの抑制にも貢献します。
アメリカ進出で成果を出すのは難しい
天野(Liftoff):グローバル展開についてもお聞きします。現在注目している市場はありますか。
ペティ(ココネ):収益という観点ではアメリカの市場が最も大きいですよね。中国へも参入したいですが、難しさを感じています。
浜野(NHN comico):同じくアメリカに注目しています。Webプロモーションの本場という印象を持っているため「アメリカである程度の成果が出れば、どの国でも応用が利くのでは」という考えです。中国もトライはしましたが、成果を出すことが難しかったこともあり、着実にグロースが見込めるアメリカが中心となるのではないでしょうか。
Jackie(M&E Time Entertainment):アメリカは各社が最初に狙おうとする国である一方、成果を出すのは実のところ簡単ではありません。前職でもアメリカ市場への進出で挫折したことがありました。正統派のプロモーションが必要だからこそ、膨大な予算がないと難しい気はします。
当社では、参入障壁の低さから東南アジアに注目しています。インドネシア、タイ、マレーシアあたりですね。アメリカと比較して収益性は下がりますが、低予算で一気にユーザーの獲得が見込めると考えています。
大企業経験者が語るスタートアップの醍醐味
パネリスト
パラレル 道下江里花氏
トリビュー 大西正太氏
天野(Liftoff):おふたりとも、日本を代表するエスタブリッシュな企業からスタートアップへの転職というチャレンジを経験されています。実際に転職されてみていかがですか。
道下(パラレル):リソースが大企業のように潤沢ではないからこそ、施策アイデアの質とスピードの勝負になります。出たアイデアをどんどん試していくスピード感がすごくて、面白さを感じているところです。
道下(パラレル):前職のミクシィで「モンスターストライク」を担当していた頃は、開発担当を含め400名規模のチームに在籍していました。大きな組織では、1つのことを進めるために各所で合意を取るコミュニケーションコストが必要です。
現職のパラレルは20名体制のため、やりたいことをクイックに進められる利点があります。マーケ以外の開発メンバーも、ものすごい数のユーザーインタビューを日々行っているので、お互いに得たラーニングを即座に共有しながら仮説の研磨を進めていけるのも醍醐味ですね。一方で、リソースに限りがあるぶん「どこにセンターピンを置いてやり切るか」という判断の難しさはあると思います。
大西(トリビュー):楽しさの方が大きいですが、もちろん大変さも感じています。私が入社した2021年8月時点で、トリビューのマーケティング担当は0人でした。組織の立ち上げから資金の使い道まで考えなければならない。資金も潤沢ではないため、日々悩みながら打ち手を考えています。
大西(トリビュー):反面、プロダクトとは非常に関わりやすいと感じています。ユーザーが利用しやすいサービスを作るにあたり、改善点があればすぐにでも試してみて、ダメならまた変える。「とりあえずやってみよう」のスタンスで、開発者と一緒にプロダクトを作っています。
転職の指標は「サービスに可能性を感じるか」
天野(Liftoff):転職先を決めるにあたって、重視した指標や基準があれば教えてください。
大西(トリビュー):収入面は皆さんが気になるポイントだと思います。私自身、10年前であればスタートアップへのチャレンジを選んでいなかったかもしれません。昔と比べて企業の資金調達が容易になった影響か、最近では大手に引けを取らない水準で採用しているスタートアップ企業も増えてきています。
転職先を決めるにあたって重視しているポイントはいくつかありますが「そのサービスを愛せるか」「市場として伸びる可能性があるか」という2点は特に意識しました。
道下(パラレル):前職のミクシィには、SNSサービスが主力事業だった時に入社しました。ここ10年間は、2011年までに立ち上がったサービスがコミュニケーションサービス市場の覇権を獲った10年だったと感じています。
しかし一方で、SNSによって傷つく人や周囲の評価を必要以上に気にしてしまう人が増え、フォロワー数でのマウンティングといった弊害が生まれていることも否めません。パラレルはSNSが生んでしまう負の部分を解決し、友達同士でフラットに楽しくコミュニケーションが取れる場所です。その点に可能性を感じ、転職を決めました。
大企業での経験により取捨選択の精度が向上
天野(Liftoff):大きな組織に所属している時に培った経験やスキルのうち、スタートアップにおいて役立ったものはありますか。
道下(パラレル):大企業には人的/資金的リソースがあるからこそ可能な検証や勝負が数多くあると思っています。小さな組織の場合、数あるリソースの中から何かをピックアップして、そこだけに集中してやり切るような戦略で挑まなければ大企業には勝てません。大企業で様々な施策と検証を経験できたからこそ、現職でも有効な打ち手を取捨選択できているような気がします。
大西(トリビュー):スタートアップ企業では、フェーズに応じて求められる人材が変わってくるんです。マーケティングと一口にいっても、業務は多岐に亘ります。事業のフェーズごとに必要なスキルセットや能力も変わるため、私は現職でゼネラリストを目指しました。その結果、今の環境に適応できていると思います。
道下さんのお話とも関係しますが、失敗できる環境でたくさん失敗しておいた方が良いと思います。小さな組織の場合、失敗の許されないシビアなタイミングがあります。過去に失敗の経験があれば、そんな場面においても適切な取捨選択ができるのではないでしょうか。
国内DLが伸び悩む一方、海外市場の期待値は高い
パネリスト
MOTTO 佐藤基氏
オーテ 目黒悠氏
天野(Liftoff):最近アプリマーケティング界隈で気になっているトピックはありますか。
佐藤(MOTTO):アプリゲーム業界では「ダウンロードが取れなくなった」という話を最近よく耳にします。せっかくリリースしたゲームが、下手をすれば3~4年前の半分程度しかダウンロードされないケースもあります。
佐藤(MOTTO):一方、先日韓国でリリースされた「ウマ娘」は、セールスランキングで1位を獲得。アメリカでは「僕のヒーローアカデミア」のゲームが、ブラジルでは「聖闘士星矢」のゲームが、それぞれトップ30にランクインしています。つまり、海外では日本産のコンテンツにかつてないチャンスが訪れているというわけです。
天野(Liftoff):確かに、先日仕事で韓国を訪れた際は街や駅などそこら中がウマ娘一色でした。韓国ではゲーム会社やエンタメ会社が莫大な予算を使い、OOHを席巻するような戦略を取ることが多いため「その時何にお金が使われているか」がわかりやすい国だと思います。その対象が、ウマ娘だったことに私も驚きました。
目黒(オーテ):iOS14.5の影響もあり、国内でのダウンロード数が伸び悩んでいるアプリマーケターは多いのではないでしょうか。その中で弊社が現在注力しているのは認知・未使用、未認知層へのアプローチです。
目黒(オーテ):当社ではこの2~3年、主にデジタル広告の最適化によってインストール数を伸ばしてきました。インストール数が頭打ちとなった時、さらにグロースさせるためには認知・未利用、未認知層へのアプローチでパイを広げる必要があったのです。現在はどのアプローチの仕方が最適かを判断するために、ターゲットとなる顧客ピラミッドの作成や、対象ターゲットの人数推測を行っています。
未認知層のリーチが広く取れるVODメディアやテレビCMでの出稿も、最近ではインストール数の計測ができるようになっています。「効果がわかりにくい」「PDCAが回しにくい」などの懸念も薄れてきているのではないでしょうか。
もちろん、今使っている媒体の最適化を続ける必要はありますが、アプリマーケターとしてサービスをさらに広げていくためにどんな手段を選択すべきか、判断するにあたっての材料を集めることが大切だと実感しています。
天野(Liftoff):「ダウンロード数の減少」というテーマだけで別のセミナーが開けそうですね。海外進出も1つの手段でしょうし、ファネルの変更やトラフィックエクスチェンジなど、様々なアプローチが考えられそうです。
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