20年分の目次データから読み解く生活者の変化
ビッグデータと言うと、最新、直近のデータという印象をもたれる方が多いのではないでしょうか。しかし、実は今、様々なメディア企業が自社に蓄積された膨大なコンテンツを、解析可能なデータとして利活用する動きが拡がりつつあります。
連載第2回である今回と第3回で取り扱うのは、小学館の出版コンテンツのデータ化を手掛けるC-POT社からご提供いただいた『CanCam』20年分の目次データ。歴代の編集長をゲストにお迎えし、前後編に分けて目次データの分析結果から世相の変化を読み解きます。
過去20年分の目次に登場するすべての言葉を解析してみると、この間に激減した言葉もあれば、つい最近になって増えてきた言葉もあることが見えてきます。その背景には、どのような社会のムーブメントがあったのでしょうか?
ゲストにお迎えした『CanCam』歴代編集長
- 兵庫真帆子さん:2007年~2009年編集長
- 塩谷薫さん:2015年~2018年編集長
- 安井亜由子さん:2020年~編集長(雑誌担当)
- 加藤真実さん:2020年~編集長(Web担当)
聞き手:
- 酒井崇匡(博報堂生活総合研究所)
- 佐藤るみこ(博報堂生活総合研究所)
「流行」が「正解」だった2000年代
佐藤:この前編では、2000年代から2010年代にかけての変化を見ていきたいと思います。
「流行」「新作」「人気」「ヒット」。これらの言葉は、2000年代の目次に多く見られたものです。特に「流行」については、2008年、2009年のほぼすべての号に登場しています。それが、2010年代に入ると急速に減っていく。その背景には、どのような時代の変化があったのでしょうか?
兵庫:私はまさに、2008年、2009年当時編集長でした。
2000年代に「流行」という言葉がひとつの定番になっていたのは、「流行を見せるのが雑誌の役割だ」という想いがあったからだと思います。いまでこそ、SNSから流行が生まれるのが当たり前になっていますが、私がCanCamに異動してきた2003年には、TwitterやInstagramはもちろん、mixiもまだ登場していませんでした。
当時は皆さんも良くご存知の「エビちゃん(蛯原友里)ブーム」真っ只中。エビちゃん、(押切)もえちゃん、(山田)優ちゃんという、3大(専属)モデルが大きな支持を集めるなかで、私たちにも「CanCamがブームをつくっている」という自負がありました。それを、「流行」というキーワードと共に、記事のタイトルにも強く打ち出していたのです。
「新作」に関しても同様です。当時、ファッションやコスメの新作に関する一般の消費者向けにニュースを届けるという役割は、まだ雑誌のものでした。そんななか、「秋の新作アイテム」や「新作コスメ」といった言い回しで、とにかく新しい情報をお届けしていますよ、という点を強調していましたね。
特に、私の前任者である大西(豊)編集長の時代には、「CanCam的流行」や「バカ売れ」などの企画を雑誌の大きな強みとして打ち出していました。「ヒット」という言葉が多く登場するのも、その一環だと思います。
多様性が重視される今と違って、当時はひとつの「正解」としての流行を、みんなが追い求めていました。いわば、誰もが「エビちゃんになりたい」と思っていた時代。そんな2000年代の空気を表しているのが、先ほどの4つのキーワードなのでしょうね。