膨大なデータで自社“外”消費を把握可能に
Visaをはじめとする四つの決済ブランドを展開する三井住友カード。国内会員数約1,300万人、加盟店舗数200万店を擁し、年間約12兆円の金銭の動きを把握している。
同社のマーケティング本部データ戦略部では、膨大なキャッシュレスデータを活用して顧客の購買行動を分析し、企業のマーケティング活動を支援するサービス「Custella(カステラ)」を提供している。Custellaを構成するのは次の四つのサービスだ。
「クレジットカードはこれまで、少し高価なものを買う際に使われることが多かったが、最近はコロナ禍の影響も相まって、日常的な消費活動でも使われるようになってきた」と語るのは、データ戦略部の登坂崇平氏だ。クレジットカードの利用シーンが増えたことにより、同社が保有するキャッシュレスデータは約5億件/月にも上り、1999年から50倍の伸びを見せているという。
「自社外の消費データを活用することで、1企業・1グループ企業が持つ顧客情報だけでは捉えきれない消費者心理を捉えることができるようになります。たとえば、普段コンビニチェーンAを利用している消費者がコンビニチェーンBで決済するシーンを具体的に分析することも可能です」(登坂氏)
エリアマーケティングに特化した新ソリューション
同社は2022年11月に、Custellaの新しいソリューションとして「Custella Maps」をリリースした。同ソリューションでは、年間約12兆円規模のキャッシュレス消費データを基に、任意のエリアにおけるニーズ、そのエリアの人々の属性、競合他社の動向などを明らかにできるそうだ。登坂氏は「従来の商圏分析における課題であった『消費データの不足』や『データの速報性』を克服したソリューション」と語る。
「当社の持つ実消費データに基づき、より精緻な出店戦略やエリアマーケティングなどを支援したいと考え 、エリアマーケティングに特化したゼンリンマーケティングソリューションズとCustella Mapsを共同開発しました。特定商圏における顧客理解や、有望な新規出店エリアの発見、中長期的な店舗戦略の策定に有効です」(登坂氏)
実データに基づくCustella Mapsの分析結果からは「漠然としたイメージと大きく異なる実態がわかる場合もある」と登坂氏。そのことを示すために、宮城県・仙台駅周辺と群馬県吉岡町のEC 利用率に関するクイズを参加者に出題した。
EC利用率が高いのはどっち?
宮城県・仙台駅周辺は都市部で比較的若い人や独身層が多く、平均年収も高い。一方の群馬県吉岡町は、高齢者層の多い郊外の都市だ。漠然と前者のほうがEC利用率は高そうに思えるが、実際は仙台駅周辺のEC利用率が19.7%、吉岡町では28.4%で、10ポイント近く吉岡町が高いという。
「EC利用率は一般的に、20〜30代の若年層で高く示される傾向がありますが、吉岡町のデータを分析してみたところ、高いEC利用率を支えていたのは40〜60代の人々でした。そこから『生活インフラが都市部に比べると少ないため、ECの利便性に気づいた人が積極的に活用するようになっている』『高齢者の免許返納の動きによって、遠方への買い物が困難になっている』という仮説を立てて分析することで、より実態に即したエリアの特性を考えられるようになります」(登坂氏)
従来の商圏分析は、性別・年代別の人口や世帯数、人流など「人の量」に基づいて行われてきた。Custella Mapsでは消費データというファクトが加わることにより、消費者の興味関心・嗜好性など「人の質」による商圏の判断が可能になったわけだ。
実データに基づく分析の必要性を感じる企業は多く、登坂氏によるとCustella Mapsの導入実績は毎月増えている。あるフィットネス企業ではCustella Mapsを活用し「フィットネス関連の消費額」という観点はもちろんのこと「その商圏に美容・健康意識の高い層がどれだけいるか」という観点で商圏のニーズを分析。また、飲食・サービスなど複数の消費データを分析することで、 最適なテナントミックスを検討している商業施設の事例もあるという。
75業種の消費者動向からヒントを得る
登坂氏はCustella Mapsの提供価値として次の四つを挙げる。
1.出店候補地における購買力・顧客像を分析可能にする
企業が出店を検討するエリアのポテンシャルを測定し、自社のビジネスにとって真に価値のあるエリアか否かを判断できる
2.エリア内の同業種のうち自社が占めるシェアや、自店舗を利用する顧客の消費傾向を分析可能にする
既存店舗分析において自社の勝ちエリア/負けエリアを判別し、販促を行うべきエリアを最適化することでROIを向上できる
3.マップ上だけでなくダッシュボードにもデータを表示することで、商圏や顧客層を一覧で比較可能にする
既存店舗同士の比較に加えて、新規出店をしたい物件と既存店との比較から、新規出店候補地のマーケット環境を評価できる
4.データの分析結果をPDFやCSVとしてアウトプット可能にする
Excelや企業が導入しているデータ分析ツールなどにインポートして活用できる
加えて登坂氏は、Custella Mapsの強みとして「同じ業種以外に、自社にとって関連が深い業種の消費者動向も分析できる点」を挙げる。消費データは75個の業種別にセグメントされており、ヒートマップとして分析可能とのことだ。
「たとえばCustella Mapsの分析結果から『車を所有する目的は主にアウトドアや旅行』という示唆が得られた場合、当該エリアにおいて車の買い替えを訴求するキャンペーンの効果的なクリエイティブが自ずと決まってくるはずです。実際にそのような用途でCustella Mapsを活用したいと相談を受けることもあります」(登坂氏)
決済額や利用頻度でヒートマップを表示
Custella Mapsは、Webブラウザで使用可能なSaaS型のサービスだ。ログインすると、商圏を表示するマップのほか、ダッシュボードやサポートメニューなどが閲覧可能となる。地図のインターフェース上に自社および他社の店舗をマッピングすれば、任意のエリアにおける自社のシェアを確認できる仕様だ。「徒歩●分以内の商圏」「車で●分以内の商圏」などの粒度でエリア指定も行える。
「任意のエリアにおける消費のうち、自店舗の占めるシェアが赤と青のヒートマップで表示されます。データは36ヵ月前まで遡ることができ、ヒートマップの指数は『決済額』だけでなく『利用頻度』などでも設定可能です。また、消費者の勤務地を商圏に設定して消費ボリュームなどを分析できるようにもなっています」(登坂氏)
消費者の抽出条件も多様だ。性別、年代、家族構成、年収など、かなり細かく設定してヒートマップに表示するという。マップをクリックすると、町・丁目の単位による分析も実行可能に。店舗の売上データや売上の推移は、最大36ヵ月まで遡って表示できる。
「Custella Mapsでは、当該エリアにおける消費の傾向と、自社を利用している消費者の傾向を2軸で比較できます。たとえば、当該商圏内における内食(テイクアウトしたものを家で食べる)比率と外食比率を比べ『自社客はどちらに支出する傾向が強いか』といった分析をすることが可能です」(登坂氏)
市場推計など新機能の実装も進む
また、出店予定地の商圏範囲を設定し、実際の消費データをプロットした上で、他の店舗とのカニバリゼーションが生じないエリアを探す際にもCustella Mapsは有効だという。エリア内の競合数をワンクリックで把握できるため、出店前調査の工数を削減できるメリットも登坂氏は強調する。
2022年11月にリリースされたばかりのCustella Mapsだが、同社では既に様々な新機能の追加を予定しているという。その一つが「市場推計機能」だ。決済データのバイアスを除去するとともに、業種別の推定市場規模を可視化することで、実務により役立てやすいサービスへの飛躍を図る。
また「Custella Promotionとの連携も実施予定」と登坂氏。既存店分析をした後、そのままそのエリアに対して販促が打てるような機能を実装する考えだ。さらにAPI 連携の機能も付与することで、より高度な分析環境の提供を目指すという。なお、市場推計機能の追加およびCustella Promotionとの連携は、2023年度内の実施を予定している。
登坂氏は次のようなコメントでセッションを締めくくる。
「キャッシュレスデータを検索データやGPS、SNSデータなどと連携することによって、より付加価値のある消費行動データを得られるようにしていきたいと考えています。さらに、AI などの新技術をデータと掛け合わせることで新たな価値を創出し、企業のマーケティング課題をより強力に支援していきたいです」(登坂氏)