マーケティングで優秀な営業担当者を再現
ルシダスの創業者である池上氏は、世界で5,000社以上が採用するMAツール「Adobe Marketo Engage」の日本上陸を主導した人物。日本におけるMAツール普及の基礎を作った立役者だ。
そんな池上氏は冒頭、多くのBtoB企業に共通するであろう「商材が見えづらい」という悩みから「BtoB企業こそ、マーケティングに取り組む必要がある」と説く。
「BtoB企業の商材は、BtoC企業のものと比べて提供価値が簡単には説明できない商材が多いため、顧客に対してもより丁寧な説明が求められます。しかし、営業担当者のリソースを無尽蔵に割けるわけではありません」(池上氏)
また、BtoB企業の商材は認知度の低さから「顧客が自ら商品を指名して訪問してくれることは少ない」と池上氏。そのため、まずは腰を据えて顧客の声に耳を傾け「課題解決のために何が必要なのか」を顧客と一緒になって探る必要がある。これが、優秀な営業担当者が実践していることだという。ルシダスでは、マーケティングを通じて「優秀な営業担当者による顧客対応の再現」を目指しているそうだ。
行動喚起の種なきMAツール活用はNG
池上氏は「優秀な営業担当者は、興味を持っていない顧客に対していきなりサービスや商品を猛烈にアピールすることはしない」と語る。まずは「事業規模はどの程度か」「類似したサービスを現在使っているのか」などを顧客との会話の中で聞き出し、潜在ニーズを探っていくのだ。そして、購買意向が既に高い顧客にはセールスをする。では、購買意向の低い顧客にはどう接するのか。
「まだ買わない・買う気のないお客様へのアプローチの最適解は、お客様が『知りたい』と思っている情報を提供することです。その結果、お客様と顔なじみになり『今度は商材についても話を聞いてみようかな』と思ってもらいやすい。当社では、この一連の流れをマーケティングで再現したいと考えているのです」(池上氏)
そのためには「MAツールが欠かせない」と池上氏は強調する。MAツールを活用することで、メルマガなどを通じ、顧客が知りたい情報を適切なタイミングで届けられるからだ。さらに、顧客がメールを開封したのかどうか、リンクにアクセスしたのかどうかなども知り得るため「顧客一人ひとりの商談につながりそうなタイミングを見極めていける」と池上氏。まさに営業担当者が1対1で対応するような状態を作り出せるというわけだ。
一方で池上氏は「MAツールさえあれば、すべてが再現できるわけではない」とも指摘する。
「MAツールでメールを配信した結果、あるお客様が開封・クリックして製品情報ページにアクセスしてくれたとしましょう。このお客様は購入への温度感が高まっている可能性があるため、ことの次第によっては営業担当者に報せたほうが良いケースだとわかります。このように『お客様の温度感』や『営業に引き渡すタイミングを行動から読み取れる』点はMAツールの強みではありますが、そもそもお客様の行動を喚起するための“種”がないと強みは機能しません」(池上氏)
では、その“種”とは一体何なのか。それが「コンテンツ」だ。
営業担当者の思考に基づいてコンテンツを制作
コンテンツの代表例としては「自社製品・サービスの紹介記事」や「カタログ」などがあるが、池上氏は「これらは製品・サービスについてしか書かれていないプロダクトアウトのもののため、既に自社に興味を持っている一握りの顧客にしか刺さらない」と語る。優秀な営業担当者を再現するのであれば、自社製品・サービス以外の情報も提供していく必要があるようだ。
では、具体的にどのような情報を盛り込んだコンテンツを作るべきなのか。池上氏は「優秀な営業担当者の思考に基づいて設計すること」を勧める。つまり、自分の知識の範囲内の情報から「顧客が知りたいと思っているもの」を抽出し、コンテンツに落とし込むのだ。
「自分が知らないことをわざわざリサーチしてコンテンツを作る必要はありません。『こんなことは当たり前すぎてコンテンツとしての価値がない』と思うものでも、顧客にとってはそうとも限らないのです」(池上氏)
池上氏は「自社の顧客が抱えている代表的な悩みを起点にして、自分の頭の中にある情報と結びつけて考えると良い」とネタ探しのポイントを付け加える。
部外も巻き込んでコンテンツを制作する秘訣
ルシダスでは、自社サイトのブログでコンテンツを公開している。MAツールで送るメールの内容も、99%がこのブログへの集客だという。メールの平均開封率は39.7%と高い。これほどの開封率を達成できている背景にあるのが、ブログ記事の本数だ。ルシダスでは1週間に1本のペースで記事を更新しており、公開済みの記事は累計約400本に上る。
記事の更新頻度を保つために、ルシダスではマーケティング部門以外の従業員も含めて、持ち回りで記事執筆にあたっているという。
「マーケティング部門内だけで必要なコンテンツを全て制作するのは無理です。そのため聴講者の皆さんも、外部ライターに執筆を発注するなり、支援会社に依頼するなり、社内の別部門の人たちを巻き込むなり、とにかく『コンテンツ制作には外部の協力が必要』という考えを持ってください」(池上氏)
ただし、外部に執筆を依頼する場合は「ひと工夫が必要だ」と池上氏。突然「ブログ記事を1本書いてもらっても良いですか」と依頼しては、声をかけられた側も何を書けば良いのかわからない。ルシダスでは、コンテンツ戦略会議の中で特定のターゲットや特定の温度感の顧客に対する記事のタイトル案を複数出しているという。複数の案を示しつつ、執筆者に「この中から書きやすいものを選んでください」と声をかけるのだ。闇雲に「ただ書いてください」と依頼するアプローチに比べると、執筆へのハードルは一気に下がる。
「ルシダスでは持ち回りで記事を書いているため、一人あたりの執筆量は月に1本もありません。それでも年間70本ほどの記事を制作することができています。記事が書きやすくなる工夫を凝らし、多くの人を巻き込めるようになると、量を確保しつつ一人あたりの業務量を減らすことも可能です」(池上氏)
必要最低コンテンツ数を算出できる数式とは?
では、自社でどのぐらいコンテンツを出すことができれば売上につながるのだろうか。池上氏は、目安となる数式について説明する。ポイントは次の四つだ。
2.新規顧客との商談がクロージングするまでのリードタイム
3.MAツールでメルマガを配信する頻度
4.顧客の「温度感」の層数
まず「コンテンツマーケティングで対象としたいターゲットの種類」を出す。ルシダスではターゲットを三つに絞っているという。次に「初めての顧客とマーケティング部門が接触し、営業部門につないで商談がクロージングするまでのリードタイム」を算出し、その数字に1.5を掛ける。ルシダスの平均リードタイムは約8ヵ月のため、1.5倍すると12ヵ月、つまり54週だ。この週数を「MAツールでメルマガを配信する頻度」で割り戻すのだという。最後に顧客の購買への意欲度、つまり「温度感の層数」を掛ける。ルシダスでは「コール」「ウォーム」「ホット」の3層に分けて温度感を定義しているそうだ。
整理すると「3(ターゲット数)×54週(平均リードタイム×1.5)÷2.5週(MAツールの配信頻度)×3(温度感)」の方程式で、製品・サービスの購入までに必要な最低限のコンテンツ数が割り出せる。ルシダスの場合は194本が目安だという。
「コンテンツの量がその基準に満たしていないとコンテンツマーケティングとして成立しないわけではありませんが、この数字は到達しなければいけない最初のゴールになります。またコンテンツを作っていく中で、たとえば内容が古くなったもの、読者からの反応が良くなかったものなどは、サイトから落とす必要があるでしょう。その点も考慮すると、実際には最低本数の2倍ほど確保できると安心ですね」(池上氏)
MAツール×コンテンツで問い合わせ数3.3倍に
本セッションの総括として、池上氏は改めて「MAツールとコンテンツは常にセットで考えたほうが良い」と話す。
「MAツールとコンテンツは切っても切り離せない関係です。MAツール自体も非常に優秀ではありますが、それはあくまで種があっての話。お客様にとって有益なコンテンツがなければ単なる“箱”です。優秀な営業担当者のスタイルと同じように、MAツールを使ってコンテンツを適切な人に適切なタイミングで配信して初めて結果が出ます」(池上氏)
池上氏がここまで紹介してきたTipsを踏まえたことで、ルシダスでは顧客からの問い合わせ数が2年で3.3倍に増加。売上にも結びつき、2倍近くまで伸長している。しかも、増加した問い合わせ・売上の全てはマーケティング起点で接触・契約に至っており、コンテンツマーケティングの賜物といえる。
ルシダスでは、売り込み目的ではなく「お客様の知りたい情報」を日々考えながらコンテンツを作成しているという。「当社の記事やメルマガはネタの参考になると思います。ウェビナーやブログなど様々な形で情報を発信しているため、発信のテクニックも学んでいただきたい」と話し、本セッションを締め括った。
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