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審査員が見たカンヌライオンズ2023

カンヌ2023に学ぶ:Vol.4細田高広「AIには解けない課題がある。人間性と創造性が賞賛された」

 2023年6月19~23日に開催された「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2023(以下、カンヌライオンズ2023)」の潮流を審査員に聞く本連載。今回はイノベーション部門の審査員を務めた細田高広氏(TBWA\HAKUHODO)に取材しました。

AIでは難しい「アクセシビリティ」の領域

 ――カンヌライオンズ2023にご参加されて感じた傾向など、概観をうかがえますか。

 2022年がコロナ禍からののリハビリだったとしたら、今年は本格復帰の年だと言えるでしょう。参加者の数も戻ってきましたし、作品のエントリー数もここ数年の減少傾向から一転、6%も伸びました。また、様々な業界の人が参加するようになった点も重要です、昔は広告業界による内輪の集まりでしたが、エンタメ系やコンテンツ系、商社の方など多様な業界からの参加が見られます。カンヌが讃えるクリエイティビティは広告会社だけのものではなくなりました。良い変化だと思います。

株式会社TBWA\HAKUHODO Chief Creative Officer/Disruption Lab 細田高広氏
株式会社TBWA\HAKUHODO Chief Creative Officer/Disruption Lab 細田高広氏
博報堂、ロサンゼルスの広告会社TBWA\CHIAT\DAYを経て、2012年からTBWA\HAKUHODO所属。グローバルブランドを中心にクリエイティブの全体統括を務める一方、広告にとどまらず企業のビジョン開発、事業・商品・サービスのコンセプト開発も担っている。これまでにカンヌ・ライオンズ金銀銅、ACCグランプリほか国内外で受賞多数。最新の著作に「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」(ダイヤモンド社)がある。

 AIは前振りとしてはよく使われていましたが、メインテーマにはなっていない印象です。AIを使った圧倒的なクリエイティブも見当たりませんでした。むしろ全体を通して、AIのアンチテーゼとも言える「人間性」(Humanity)にスポットライトが当たっていたように感じます。

 中でも「アクセシビリティ」は大きなテーマでした。何かしらの障害を持つ人々は世界で約13億人いると言われています。決してマイノリティではない。無視できないメジャーな市場なのです。これまで自社のプロダクトやサービスの外側にいた人、アクセスできなかった人を、どうやって包摂するか。人間性と創造性がなければ解けない課題の代表例です。

 もうひとつの大きなテーマは、ビジネスにおけるクリエイティビティの発揮です。要するに広告やマーケティングといった領域を超えて、創造性でビジネスそのものがどう変わるのか。サプライチェーンや品質管理といった、これまでにない課題に向き合う仕事がみられました。

 不利な立場にいる労働者や、商品・サービスの対象外になる人たち。社会の影に隠れた部分を想像し、よりよい生活や仕組みを提案することは、人間の想像力がなければできません。AIで盛り上がる今だからこそ、無意識的にAIには替えられない人間の可能性を信じたくなったのかもしれませんね。

今年のカンヌはフィクションの力を感じた

 ――細田さんにとって印象的だった作品はどのようなものがありましたか?

 虚構(フィクション)の力が発揮されたクリエイティブですね。ここ数年のカンヌライオンズではドキュメンタリー系の作品が多く評価されていました。戦争、疫病、環境、人権。こうした社会悪に挑むクリエイティブは自ずと現実を切り取るものになります。カンヌライオンズは、クリエイティビティというより、アクティビストによるドキュメンタリーの祭典になっていました。

 こうした傾向はまだ続いていますが、今年は虚構をつくりあげる力が発揮された仕事に圧倒されました。1つは今年新設されたEntertainment Lion for Gaming(ゲーミング部門)のグランプリ作品、クラッシュオブクラウンの「CLASH FROM THE PAST」です。マリオやドラクエのような長く豊穣な歴史を持たないゲームが、その世界観を広げるために40年分の架空の歴史をゼロからでっち上げ、ひとつのエンターテイメントに仕上げてしまった。

「CLASH FROM THE PAST」

 もう1つがTitanium部門のグランプリだったツバルの「The First Digital Nation」です。ツバルは海面上昇が進むと国土が沈没する恐れがあります。国土がなくなれば国が存続できない。そこでデジタル上に国家をつくり、世界で初めてのデジタルネイションになるという取り組みを始めました。まるでサイエンスフィクションのような想像力の使い方で問題を提議している点が評価されました。

「The First Digital Nation」

 過去をつくる仕事と、未来をつくる仕事。どちらも創造性の祭典にふさわしい仕事だと思います。やはり私たちはどこかで、現実を超える壮大な虚構を求めているのでしょう。

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グランプリ作品は「もう元には戻れない」転換点をつくった

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。2013年までは書籍の編集をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/08/03 10:25 https://markezine.jp/article/detail/42720

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