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マーケティングとクリエイティブの復権
――カンヌライオンズのリアル開催が復活して2年目を迎える今回、田中さんは現地で参加されてどのような印象を受けましたか。
昨年は日本人がほとんどいませんでしたが、今年はその分の揺り戻しのようなものを感じました。抑圧されていた何かが解放されたイメージでしょうか。
また、全体を通してマーケティングとクリエイティブの復権を感じました。マーケティングとクリエイティブの“筋肉”を備えた企画がきちんと評価されたと言いますか。流行りの手法やテクノロジーを取り入れただけで、本質的な戦略・企画・マーケティングが備わっていないものは、一次審査でことごとく消えていった感じがあります。
この10年ほど「社会にとって良いこと」と「クリエイティビティ」の関係性を強化する傾向が続いているのですが、今年はソーシャルグッドだけでなく、マーケティングやブランディングへの貢献度も重視されていた印象です。
W杯優勝トロフィーVS電気自動車
――マーケティングの復権を感じた具体例はありますか。
モバイル部門でグランプリを争った2社の例が象徴的だと思います。まず、アルゼンチンのフードデリバリーアプリ「PedidosYa」について説明しましょう。今年のワールドカップで36年ぶりに優勝したアルゼンチンでは、国民が歓喜に包まれていました。多くの企業がCMやポスターなど様々な方法でチームへの賞賛を表す中、PedidosYaは優勝トロフィーの“配達通知”をユーザーに行ったのです。
カタールからアルゼンチンへのフライトデータをアプリに紐付け「トロフィーは今、太平洋の上を飛んでいます」「もうすぐ着きます」など、注文した料理が家に届くかのようにトロフィーの追跡情報をアプリのプッシュ通知でリアルタイムに伝えました。PedidosYaはアルゼンチン国民の約半分が利用する国内最大手のフードデリバリー企業ですから、国民の半分に通知が届いたことになります。
PedidosYaとグランプリを争ったのが、フランスの自動車会社ルノーの「PLUG-INN」という取り組みです。INNは宿泊施設を表しています。フランスでは国策として電気自動車の普及に注力しているものの、チャージャーステーションが不足している状況です。そこでルノーはAirbnbのビジネスフォーマットをうまくハックし、ルノーの電気自動車のチャージャーを設置したAirbnbオーナーに対して換金する仕組みをつくりました。自動車産業における環境問題の解決にもつながる素晴らしいビジネスモデルだと思います。