顧客接点の拡大で舞台が広がる、キャラクターマーケティングの現在地
安成:キャラクターを活用したマーケティングというと、テレビCMやグッズ展開といったイメージを持つ人は多いと思います。しかし顧客接点が多様化した今、その活用領域も一層広がっているのではないでしょうか。今回は、企業のマーケティングにおけるキャラクター活用の可能性を伺っていきます。
まずは、糸乘さんが所属されている電通のCX専門クリエイターチーム「カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター(CXCC)」についてお教えください。
糸乘:CXCCは、テレビCMなどのマス広告に限らず「顧客体験にまつわるすべてのこと」を手掛ける部署です。新しいテクノロジーを使ったサービスの開発や、オンラインとオフラインを統合させた顧客体験の設計などに取り組んでいます。
私自身はキャラクター領域における経験を活かし、キャラクターにテクノロジーを掛け合わせて顧客体験を高める「キャラクターCXソリューション」を立ち上げました。
安成:従来のキャラクターマーケティングはどのようなものだったのか、そして現在どのように変化しているのか、解説いただけますか。
糸乘:以前はテレビCMでキャラクターを活用して認知を向上させる手法が一般的でした。キャラクターを作って有名なタレントさんに声を担当してもらい、動画を作る。それをCMなどマスで発信し、商品や企業の認知度を一気に上げる方法です。
しかし最近はSNS活用が一般的になり、企業が継続的にユーザーと接点を持つことが必要になっています。昔は年に数回しか出番のなかったキャラクターであっても、今はSNSによってより頻繁かつ継続的に活用できる可能性が広がっています。
認知だけじゃない!デュアルファネル上の各顧客接点で活躍するキャラクター
安成:昔はテレビCMを出せる企業でないと難しかったキャラクターマーケティングも、今は裾野が広がっているのですね。
糸乘:CMを出していなくてもSNSで多くのフォロワーを獲得している企業やブランドも多いですよね。キャラクターを使った発信も身近になっています。
安成:一方で、これまでキャラクターのマーケティング活用に取り組んでこなかった企業も多いと思います。キャラクターを持つことのメリットはなんでしょうか。
糸乘:たとえば「Ponta(ポンタ)」はポイントサービスのキャラクターですが、商品やサービスが単体では複雑だったりわかりづらかったりする場合、キャラクターに置き換えると効果的です。キャラクターの存在によって顧客のサービスへの愛着が高まり、継続利用につながりやすくなります。キャラクターを愛してもらうことが、企業や商品を愛してもらうことにつながるのです。
安成:キャラクターCXソリューションでは、顧客体験に関わるすべての領域をカバーしていますよね。企業が最初に取り組みやすいのはどの部分でしょうか。
糸乘:企業によってやりやすい方法は異なります。SNSに強みがある場合はSNSキャンペーンやコミュニケーションでキャラクターを活用したり、商品が既に広まっているブランドならパッケージに入れたりするなど、「どこからでも始められる」柔軟性もキャラクターマーケティングの特徴だと思います。
キャラクター×テクノロジーで実現できることとは?
安成:2023年5月にはChatGPTを活用した「キャラクターとの自動対話サービス」のプロトタイプ開発のリリースが出ていましたね。キャラクターにテクノロジーを掛け合わせるとどんなことが実現できるのでしょうか。
糸乘:イラストを発信するだけでは、SNSなどで顧客に見てもらったらそこで終わりです。一方、AR(拡張現実)を使ったコンテンツやAIによる接客などを絡めれば、オンラインだけでなくリアルの体験の場でもキャラクターが顧客と企業・サービス・商品との“つなぎ役”になれます。
そうすることで、すべての顧客体験に一貫性が出てきます。またキャラクターというインターフェースでテクノロジーを包むことで、人によっては無機質に感じる部分を前面に出さずに親しみやすいコミュニケーションも可能です。
2023年10月には、ChatGPTを活用したロボットのレンタル&カスタマイズサービス「CHABOT(チャボット)」を開始しました。これは企業キャラクターなどのぬいぐるみやロボットを通じて、ユーザーとの双方向コミュニケーションを可能にするサービスです。
安成:かわいらしく親しみやすい見た目にすることで、誰にでも使ってもらいやすくなるのですね。このようなテクノロジーを使ったサービス開発は、どんな体制で進めているのですか。
糸乘:私がアイデアを出すことも多いですが、社内の専門家と協力しながらサービスを構築しています。キャラクターデザインだけでなく、運用プランの作成、ARフィルターやキャンペーンの企画・設計、AIやNFTなどの開発まで、弊社には様々なプロフェッショナルがいます。
そういった人たちと協力することで、専門的な知見がないとわからない“温度感”なども教えてもらえます。それがわからないまま施策を進めると、失敗や炎上のリスクもあるため、とても重要です。
安成:アイデアを実現したい時に社内に様々な専門家がいるのは、電通の強みですね。スピード感のあるアウトプットにもつながっていると思います。
キャラクターマーケで押さえるべきポイント
安成:次に、企業がキャラクターマーケティングに取り組む上で押さえるべきポイントについて教えてください。
糸乘:人がずっと付き合っていたいと思えるキャラクター作りは、人間関係に通じます。それは、友達を作るときに大事なことと同じなのかなと思いました。その観点で、「ともだちをつくろう」と題したキャラクター作りにおける5つのポイントを考えました。
きっかけは、「キャラクターとの自動対話サービス」の実証実験でした。これはフリー素材提供サイト「いらすとや」のキャラクターと対話ができるサービスです。実際に使ってみると、キャラクターがなんでも正確に回答するとおもしろくないのです。ところが、たまに「そんなことわからないよ」と返答があるとおもしろい。「対話する」とはこういうことなのだと気づきました。
ポイントの1つ目は「じぶんらしく」です。“自分”を持っている、芯がある人は好感度が高いですよね。キャラクターの場合、SNSなどで展開していくうちにコンセプトがぶれてしまうことがあります。そうならないよう、“そのキャラクターらしさ”を確立しておくべきです。
2つ目は「ずっといっしょに」。ユーザーと長く一緒にいてもらうためには、日常のAlways Onなコミュニケーションに加えて、驚きを提供することが大事です。刺激を与えて楽しませることで、飽きられることなくずっと一緒にいてもらえます。
「バファローズ☆ポンタ」に見る、ファンの増やし方
安成:一緒にいて楽しいかが大切というのは、まさに人間関係と同じで興味深いですね。残り3つについても教えていただけますか。
糸乘:3つ目は「たくさんいるところ」。今は分散している様々なメディアやプラットフォームに露出しないと、広く認知されません。加えて、プラットフォームごとに特性に合わせたコミュニケーションが必要です。
また、元々ファンが多い領域やコミュニティに入って、キャラクターのファンになってもらうことも有効です。Ponta(ポンタ)を例に挙げると、Ponta(ポンタ)の運営会社であるロイヤリティ マーケティングさんが主導となってやられている、プロ野球のオリックス・バファローズを応援する「バファローズ☆ポンタ」があります。
SNSでの発信によって、多くの野球ファンやバファローズファンがバファローズ☆ポンタを好きになってくれました。このように、人がたくさんいる領域にキャラクターが出ていき、ファンを増やすことも重要です。
糸乘:4つ目は「いいひと」です。最近は社会問題などに取り組む企業が、社会的責任を果たしていると認識されるようになりました。キャラクターにもそういった要素を入れていく時代だと思っています。商品のことだけを伝えるのではなく、企業や商品を長く愛してもらうためにはこの視点も必要です。
安成:特に、若い世代の人たちはそういった部分を気にしていますよね。
糸乘:そして5つ目が「よわいところ」。キャラクター自身に弱みを作って、「助けてください」と人を巻き込んでいく。クラウドファンディングも一つの方法です。
そこで助けてくれた人たちがキャラクターのファンになり、コミュニティを形成する。そういった取り組みが、これからのキャラクターマーケティングの在り方になっていくのではないでしょうか。
今からでも遅くない!キャラクターマーケのポテンシャル
安成:「たくさんいるところ」というポイントがありましたが、どこに入っていけばブランドと親和性が高いユーザーにアプローチできるのか、考える必要がありますね。
糸乘:CXCCには、データ分析によって企業や商品と相性が良いコミュニティを探すソリューションもあります。Ponta(ポンタ)の場合は、リアルの場があるスポーツ領域に飛び込んで、キャラクターの浸透を目指されました。
安成:最後に、キャラクターマーケティングの展望についてお聞かせください。
糸乘:やはりAIがおもしろいですね。ヘッドセットのようなデバイスを身に付けると、すぐ隣にキャラクターがいて友達のように対話できる。そんな体験も将来的には実現すると思います。キャラクターとテクノロジーの掛け合わせで、企業と顧客がより密接に結び付くコミュニケーションを作ることができるのではないでしょうか。
現在AI領域は過渡期にあり、企業が取り組むのは大変です。しかし、今から始めて実験を繰り返しておけば、スムーズに運用できます。流行ってからでは遅いのです。
安成:企業もサービスもたくさんある中で、自社のブランドを身近に感じてもらうことが顧客ロイヤルティ向上につながります。キャラクター活用の伸びしろは大きいということですね。
糸乘:日本はキャラクターがあふれていますが、それだけ受け入れられる土壌があるということです。今から始めても遅くありませんし、運用次第で十分人気が出ると思います。キャラクターを作るだけでなく、その後の運用を全方位的にプランニングすることが重要なのです。
安成:それを一気通貫で支援できるのがCXCCの強みなのですね。本日はありがとうございました。