動画広告はテレビCMのリーチ補完施策だった
──今回お話をうかがうキャンペーンの対象商品「スカルプD メディカルミノキ5 プレミアム(以下、メディカルミノキ5)」について教えてください。
谷古宇:2022年10月に販売を開始したメディカルミノキ5は、第1類医薬品の発毛剤です。メンズシャンプーブランド「スカルプD」が展開する商品の中でも、特に「髪の毛を生やしたい」という願いに寄り添って開発されています。発毛効果が認められている成分「ミノキシジル」を国内最大濃度(※1)の5%配合しており、壮年性脱毛症による薄毛や抜け毛が生じている箇所にアプローチすることで、髪の毛を生やしたり脱毛進行を防いだりします。
※1 国内で承認されている最大濃度
──メディカルミノキ5の対象ユーザーはどのような層ですか?
谷古宇:毛髪の悩みは人によって異なるため、一概に年代で対象を区切っているわけではありませんが、男性は30~40代で毛髪の悩みがピークに達すると言われているため、コアターゲットはその年代の男性と言えます。
──これまでアンファーでは、どのような方針でメディカルミノキ5のマーケティングを実行していたのでしょうか。
谷古宇:Web広告の配信にあたっては、刈り取りを目的とした静止画クリエイティブの出稿をメインに実施していました。Web広告のKPIとして獲得に重きを置いている当社からすると、動画広告はCPAが合わず、そこまで注力できていなかったのです。動画広告はテレビCMを出稿している期間にリーチを補完する目的で実施していました。
マイクロコンバージョンへの貢献度をいかに測るか
──先にうかがった方針でマーケティングを実行するにあたり、課題はありましたか?
谷古宇:動画広告に接触したユーザーが商品を検索したり、バナーをクリックしたりする可能性は大いにありますよね。獲得前のマイクロコンバージョンに動画広告がどの程度寄与するのか、測りたい気持ちがありました。動画広告によってマイクロコンバージョンが増えれば、施策単体で見たときのCPAは高くても、広告全体のCPAを下げる効果があるのではないか。そのような仮説のもと、今回のキャンペーンを通じて検証に踏み切った次第です。
──今うかがった課題感やニーズを踏まえて、どのような施策を立案しましたか?
谷古宇:広告代理店からコネクテッドテレビ(以下、CTV)での広告配信を提案されました。キャンペーンのポイントは二つあります。一つはクリエイティブです。テレビCMの素材を流用するのではなく、広告代理店にL字型のバナーを制作してもらい、CTV面に最適化したクリエイティブを用意しました。
二つ目のポイントは配信の最適化です。最大のテーマであった「指名検索数の増加」に向けて広告代理店とプランニングをするにあたり、「マイクロコンバージョンに対する動画広告の貢献度を測る」という今回の目的を達成するためにはThe Trade DeskのDSPが最適だと感じました。なぜならThe Trade DeskのDSPは、CTVなどで動画広告を見たユーザーがその後に起こすアクションを可視化し、「どのアクションがビジネスに寄与し得るか」を見極めながら配信を最適化することができるからです。
広告経由の売上は40%増 CPAは50%も改善
──The Trade Deskが提供するDSPの特徴を教えてください。
伊藤:配信の最適化は、我々が自信を持っているポイントです。当社のプラットフォームでは自社開発の自動最適化AI「Koa(コア)」を採用しています。Koaをより有効に機能させるためには、一定のデータボリュームが必要です。ここで言うデータボリュームとは、コンバージョン数のことを指します。コンバージョン数が増えれば増えるほど、Koaに取り込むデータボリュームが増え、最適化の精度が増していくのです。
伊藤:今回は最初に「ブランドサイトへの来訪者数」をコンバージョンに設定してデータボリュームの最大化を図りました。来訪者数が増えてからは「お悩み相談ページの閲覧」や「会員登録」「購入」など、より深度のあるアクションをコンバージョンに設定し、それらのアクションに至るユーザー数が最大化するよう最適化の指示を出していきました。
──今回のキャンペーンによって得られた成果を教えてください。
谷古宇:約2ヵ月間キャンペーンを実施した結果、指名検索数は10%、広告経由の売上は40%増加しました。Web広告全体のCPAも50%の改善が見られ、認知拡大のための広告であっても、配信を最適化すれば獲得につながることがわかりました。また「何のクリエイティブを何回見た人がコンバージョンに至りやすい」というユーザーの条件を把握できた点も大きな収穫でした。
──今回の成功要因はどのような点にあったとお考えですか? The Trade Deskが工夫したポイントもあわせてお話しください。
伊藤:The Trade DeskのDSPは複数の媒体に広告を配信することができますが、今回は広告代理店様とプランニングを進めた結果、数ある媒体の中から注力媒体として「ABEMA」を選定しました。キャンペーンの期間にABEMAでは高校野球を放映していたため、アンファー様の商品に興味を持っていただけそうな年代の方が多く番組を視聴していると考えたのです。同時期に他の媒体にも広告を配信しましたが、ABEMAでの配信を通じて得られた効果が非常に高かったです。
クリエイティブ×配信面の相性と細かい検証が成功の鍵
谷古宇:成功のポイントはクリエイティブにもあります。元々メディカルミノキ5のテレビCMでは、タレントの草彅剛さんと香取慎吾さんを起用して「ミノキ兄弟」というキャラクターを考案し、インパクトのあるクリエイティブで第一想起率を上げる狙いがありました。ただ、指名検索数を増やすためにはインパクトを与えるだけでなく、商品の特徴をしっかりと伝える必要が生じます。
そこで今回は、動画広告用にオリジナルのサウンドロゴ(※2)を制作しました。「髪が生える、髪が抜けない」という強烈なフレーズを特徴的な音声で伝えることにより、テレビCM素材の流用だけでは得難い成果を出せたと考えています。
※2 効果音やメロディーを使い、企業名や商品などを宣伝する楽曲のこと
伊藤:広告の運用面では、広告代理店様と密に連携しながら設定するコンバージョンを細かくチューニングし、「この数値を最大化したら次はこの数値を最大化しよう」「この数値が増えるまでには時間がかかりそうだから、次のアクションはこうしよう」という具合にスピード感をもって進められた点が成功要因でした。
──クリエイティブと配信面がうまく嚙み合ったことと、細かい検証を重ねながら配信の最適化を行ったことが成果に作用したわけですね。
CTVを広告の出し先としてハックする
──今回の結果を踏まえて、谷古宇さんはマーケティングでどのようなチャレンジをしていきたいですか?
谷古宇:YouTubeやCTVは、ここ10年で台頭してきた媒体ですよね。恐らく今後も媒体の多様化は進んでいくと思います。当社はこれまで動画広告、特にCTV広告で求める成果を出せずに苦戦していましたが、今回のキャンペーンで運用の勘所を掴むことができました。
谷古宇:ただ、苦戦するポイントが新たに出てきたり、新しい媒体が現れたりする可能性は大いにあります。その際に「成果を出すのが難しいから」という理由でテレビCMのリーチ補完に目的を限定するのではなく、攻略方法を知って工夫を重ね、その媒体に合わせた戦略で広告を配信していきたいです。このトライによって、その媒体にしかいないユーザーや、当社の商品を求める方に広告を届けることができると考えています。
──谷古宇さんのコメントを受けて、伊藤さんは今後どのようなサポートをしていきたいとお考えですか?
伊藤:CTV広告市場は今まさに右肩上がりで成長しています。スマホだけでなくテレビでABEMAなどのOTTを視聴する時代が来ているため、CTVを広告の出し先としていかにハックしていくか・改善していくかという視点が重要です。我々としては広告代理店様と情報を常にアップデートしながら、CTV広告のハックと改善にトライしていきたいと思っています。
インサイトの分析で顕在層への配信も可能に
伊藤:加えて、広告代理店様がクライアントの事業を起点に広告クリエイティブを制作することにも、引き続き伴走していきます。たとえば薄毛に悩みを抱えている方の中には、育毛シャンプーを使う方もいれば、育毛剤を使う方もいれば、クリニックを利用する方もいます。悩みと解決方法が複雑化しているため、今回のキャンペーンで得たインサイトを活かして「この悩みを抱えている方にはこういうクリエイティブで訴求する」というパターンを広告代理店様と見出していきたいです。今回のキャンペーンで得た知見を継続的に活用することはもちろん、アンファー様が展開するその他の商品でも広告配信をサポートしたいです。
──最後に、アンファー同様CTV広告を含めたキャンペーンの最適化に悩む読者へ向けて、伊藤さんからメッセージをお願いします。
伊藤:多様な広告主様のターゲットやニーズにお応えできるよう、新しい媒体の開拓やCTV/OTT面への配信拡充に引き続き取り組んでいきます。加えて、配信の最適化やインサイトの提供においても満足いただけるように尽力する考えです。
今回は配信最適化のお話がメインでしたが、当社のプラットフォームを活用すれば「そのユーザーが興味関心を持っているカテゴリー」などの分析も可能です。ユーザーのインサイトを分析することにより、クリエイティブの出し分けや顕在層へのアプローチも可能となります。広告の運用にとどまらず、メディアプランニングの戦略的なサポートを実施していきたいと考えています。