問い合わせ形態が多様化する中、電話はどうなるのか
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は、三井不動産リアルティの電話問い合わせの効果測定における取り組みについて伺っていきます。はじめに、自己紹介をお願いします。
荒木:「三井のリハウス」で不動産の売買仲介に携わった後、経営企画部を経て、現在のリテール事業におけるマーケティンググループに着任しました。Webや紙など様々な媒体を活用した集客施策を推進しています。内容としては、集客の前提となる三井のリハウスブランドの認知向上や、問い合わせ数の増加がミッションとなります。

野村:同じく、入社当初は三井のリハウスにて営業として売買仲介業務に従事していました。その後ラインスタッフとして、営業推進グループを経て、現在のマーケティンググループに着任しています。不動産売買にお悩みのお客様の課題解決をお手伝いできる機会をより多く承れるよう、三井のリハウスをどのようにしたらよりたくさんのお客様に知っていただけるか試行錯誤しながら、日々業務に取り組んでいます。

MZ:昨今、デジタル化で顧客との接点が多様になる中、電話問い合わせの現状はどうなっているのでしょうか。
野村:オンライン・オフラインともに問い合わせ形態の多様化が進みつつありますが、当社でも様々なお客様のニーズに応えられるように試行錯誤しています。お客様側も、目的や時間などに合わせてお使い分けになられる方が多くなっている印象です。
荒木:電話によるお問い合わせは、オンラインの手続きがより拡大した将来にわたっても、なくならないのではないかと考えています。お客様がタイムリーに情報を得る手段として、現在も電話は重要な役割を果たしています。また、すべてのお客様との接点がオンラインで完結するわけではありませんので、オンラインでリーチできないお客様に対しては電話がコンタクト手段のメインとなることが多い状況です。
電話で問い合わせる顧客は、目的が明確・スピード重視
MZ:三井不動産リアルティには、どのような方が電話で問い合わせてくるのでしょうか。
野村:やはり、マイホームなどのご所有不動産に関する売買・賃貸についての相談や、検討をされているお客様が中心となっています。
年齢層で見ると、20代から70代まで幅広いお客様からお問い合わせをいただきますが、不動産売買という性質上お問合せされるメイン世代は50代~60代の方々です。オンラインに限らず、ダイレクトメールやチラシを見て、電話でお問い合わせをされるケースなどがあります。
また、電話でお問い合わせをされる場合には具体的な目的や次の行動が決まっているお客様が多いことも特徴に挙げられます。一方で興味・関心を抱かれ、不動産売買のご検討を始められたばかりの方は、まずはWebサイトから問い合わせや査定を試みるケースが多いですね。
荒木:他にも「早く情報が欲しい」「明日にでも内見に行きたい」といったスピード重視の方は、年齢層などにかかわらず電話でお問い合わせいただくことが多いです。
野村:業界としての特徴を加えると、特に中古物件は一点ものの性質を持つため、スピード感が必要なシーンが比較的多いといえます。素早くタイムリーにコミュニケーションが取れる電話は、お客様にとっても時に重要なチャネルになります。
全国277店舗で実施される施策が異なる中、効果測定やコスト削減を進めるために
MZ:三井不動産リアルティのマーケティングにおける全体設計をお教えください。
野村:当社では、顧客ファネルやカスタマージャーニーの設定など全体的なマーケティング戦略の方針は私たちマーケティンググループが担いますが、実際に各エリアで施策展開をするのは全国各地にある店舗です。全社的に行えるWeb広告といったオンライン施策をマーケティンググループが推進し、地域密着型のオフラインを主とした施策は各店舗がローカライズして行っています。
お客様との接点もオンライン・オフラインの両パターンがあり、オンラインは自然検索やWeb広告からの流入がメインとなります。一方オフラインは来店や電話問い合わせとなりますが、そのきっかけは紙のチラシ・DM・Webを見たケースなど多様です。
MZ:マーケティングにおける課題は、どんなものがありますか。
野村:店舗によって広告運用が異なる体制の中で、具体的にどの方法が効果的か、非効率的かなど、明確な根拠に基づいた判断が難しい状態でした。業務効率化やコスト削減を進めるために効果測定を適切に行う必要があるものの、実施できていなかったのです。

荒木:私も営業現場にいた経験から、店舗ではお客様対応が中心でデータ集計や分析にまとまった時間が取りづらく、時には感覚的な判断をせざるを得ない場面が多いと実感しています。「このお客様は、きっとこうではないか」といった、暗黙知の経験則に基づく施策決定が行われています。
さらに、データを基にした施策決定は、Webからの問い合わせに関してはある程度検証が進んでおり可能でしたが、オフライン、主に紙媒体を通じた問い合わせの正確な効果測定は困難な環境でした。たとえば、チラシを見て電話で問い合わせをされる方が、どのような媒体で当社を認知いただいたかなどの実態は正確につかめないケースが多く、データが蓄積していきませんでした。
野村:加えて、全社的に事業体質の見直しが長年の課題として掲げられており、施策にかけるコストの整理を行うこととなりました。そのため、続けるべき施策とやめるべきものを判断するための材料をしっかりと収集していく一環として、2023年度から電話の効果測定サービス「コールトラッカー」の本格運用を開始しました。
なぜ三井不動産リアルティは「コールトラッカー」本格運用に踏み切ったのか
MZ:「コールトラッカー」の本格運用に至った背景をお聞かせください。
野村:様々な選択肢がある中で、大きな決め手となったのは「電話番号使い放題プラン」が出たことですね。
先ほど申し上げた通り、当社は多数の店舗を展開している他、広告のバリエーションも多様です。そのような状況下で個々の施策効果を測定するためには、大量のトラッキング用電話番号の確保が必要でした。具体的には、年間1万件近くの番号発番が理想的でしたが、使用する分だけ支払いが発生する従量課金方式では相当なコストがかかります。
その結果、効果検証のコストを削減するためのツールが、逆にコスト増加につながるというジレンマに直面していました。その際にコムスクエア社より番号が無制限に発番できる「電話番号使い放題プラン」がリリースされたとの情報をいただいた時に「これならやりたいことが実現できる」と確信し、本格運用に移行しました。
MZ:現在は「コールトラッカー」をどのように活用されていますか。
野村:システムログを通じて、お電話いただいた件数や通話時間などを確認しています。また、正確なコンバージョン測定のために、不動産売買のご相談などのお問い合わせとそうではないケースを区別する判別機能を活用しています。
今後は、お客様がお問い合わせした目的を把握するためにIVR(自動音声応答)機能の導入も検討したいと考えています。問い合わせを的確に営業につなげやすくなるなど業務を効率化できる他、電話対応をする社員も次のコミュニケーションをある程度イメージしながら対応に入れます。結果として、お客様に対してストレスを感じさせない案内を提供できるケースも増えると感じています。
このように様々な機能を活用することで、施策の効果検証だけでなく、お客様のお問い合わせ内容に即した質の高い対応が可能になると考えています。
Webサイトより電話問い合わせの受託率が高いことが判明
MZ:「コールトラッカー」を活用した取り組みの成果をお教えください。
野村:Webとオフライン、それぞれの媒体を統合して効果検証ができる環境を構築できたことが大きな成果だと感じます。また、検証を通じてチャネル別の特徴理解も進み、Webサイトよりも電話の問い合わせのほうが、最終的に依頼につながる確率が高いことも判明しました。
冒頭でお話ししたように、電話問い合わせをされる方は比較的明確なニーズを持っており、次のアクションを迅速に求めている傾向があることが要因の一つだといえます。また、電話でのコミュニケーションが双方にとって具体的な対話になりやすく、進展しやすい傾向も挙げられます。
荒木:現在は本格運用を開始して1年ほどなので、これから継続してデータを蓄積しながら、様々な角度で検証していきたいと考えています。
電話対応の今後、変化は必須に
MZ:今後、実現したいことはありますか。
野村:「コールトラッカー」の「電話番号使い放題プラン」には、まだまだ活用したいオプション機能がたくさんありますね。それらの機能を使いこなすことで、より対応を効率化しつつ、顧客対応改善を行っていけるのではと考えています。
荒木:現在はまだ「コールトラッカー」活用の入り口に立っている状態です。さらに検証を進め、業務の効率化を図ることができれば、その分お客様に還元できることも多くなると思います。

MZ:最後に、今後の展望をお話しください。
野村:電話対応は、人間が対応するからこそ温かみがあると考えています。一方で、今後は労働力不足にともなって業務の省力化や工数削減も重要な課題になり、電話対応の方法も変化していくと予想しています。
たとえば自動音声による対応が増える場合にも、お客様にとって従来の人間による対応と大きく変わらないようにするにはどうすべきか、という課題などを想定しています。その際には様々なシナリオを用意し、効果を比較検証できれば、お客様と営業社員のコミュニケーションにおいても活用が可能な興味深い結果を得られるかもしれません。このような今後を見据えた取り組みにも、積極的にチャレンジしていきたいです。
荒木:広告領域は非常に幅広い分野であり、気付くと様々なことに取り組みが展開されすぎてしまい、コスト感覚が不足した総花的な(メリハリのない)状況に陥りやすいと考えています。それぞれの施策の効率化・最適化を進めていくことが不可欠であり、その結果、企業の利益だけでなく顧客体験の向上にもつながると思います。
そのための重要な取り組みの一つとして、引き続き電話問い合わせをはじめとしたお客様との接点となる媒体やチャネルの分析には力を入れていきたいです。今後も広告を通じ、たくさんのお客様とお会いする機会を創出し、お客様はもちろんのこと社会や社員の暮らしを豊かにできる事業を目指して、日々取り組んでいきたいと思います。