田中先生のあとがき
今回、キリンホールディングスで常務執行役を務めていらっしゃる山形光晴さんにインタビューをお願いして快くお引き受けいただくことができた。山形さんはマーケティング界で多くの有能な人材を輩出しているP&G社でのグローバルなマーケティング活動経験がおありになる。こうしたご経験を背景として、今回はCMOの在り方を中心にお話をお聞きした。
冒頭のお話で印象に残ったことは、山形さんのP&Gでの重要な学びのひとつが「Consumer is Boss」というスローガンであったことだ。消費者がボスなのだから、組織内のボスの言うことよりも、消費者の言うことを重視せよ、というのがその教えである。
当たり前のようでありながら、この教えを実践することには多く困難がつきまとうように思う。社内から「消費者に聞いて何がわかる」という反発を受けないとも限らないからだ。山形さんは自らブランドマネージャーとともに現場に赴いて消費者の生の証言に触れようと実践していらっしゃる。こうした実践が数々の商品のヒットに結び付いたことは間違いない。
CMOの役割やあり方についても重要なポイントを教えていただいた。
・顧客と市場の変化を見極めて、意思決定していくこと
・リスクを恐れずにアジャイルにトライアルを行っていくこと。
・マーケティング戦略の変更を変化に対応して変えていくこと、
・顧客本位の企業カルチャーを創っていくこと
・マーケティングの考え方が浸透していない部署に浸透を図る。
・成功事例を積み重ねて、顧客志向を社内に啓発する。
今回のインタビューでもうひとつの収穫は、この10年間の顧客の変化についての示唆である。山形さんは、顧客がインターネットの影響もあり自律的に情報を収集して自分で判断するようになったことが大きな変化だと指摘された。
これまでのように、ブランド側のメッセージがそのまま顧客に届くとは考えられないために、顧客が自身でポジティブな顧客体験を積んでもらうようにすることや、企業としてどれくらい理念をもって顧客と接することができるか、など、マーケターとして考えるべき重要な視点を提供していただいた。
ご多忙のところ貴重なお時間を割いてインタビューに応じていただいた山形さんにあらためて感謝を申し述べたい。