予算が少ないからこそ、社内での意思統一・賛同が重要
田中:さて、CBSsの勘所という本題に入りましょう。まずは「社内の意思統一」という課題を扱います。トップマネジメントも含めて、社内でコーポレートブランドコミュニケーション戦略をどうまとめるか、というのは難しい課題だと思います。瀬戸口さんは、たとえば横河電機でどのように意思統一を図られていましたか?
瀬戸口:兎にも角にも、社内外のステークホルダーのバイイン(賛同)を得ていくことを大事にしていました。横河電機はマーケティング予算が非常に限られているので、社員をブランドアンバサダーとしてフル活用することが重要でした。いかに社員をブランディングにエンゲージするかを考えていました。

特に、ブランディングを進めるにあたっては、セールス(営業)を巻き込むことが大事なカギになります。事業部メンバーとのディープダイブ・ディスカッションをできるだけするようにしていました。
田中:セールスが大事というのは、なぜですか?
瀬戸口:セールスの担当者は、目の前にいるお客様と日々向き合っています。一人ひとりのセールスがそれぞれ持っている知識なり、経験なりナレッジや知見を集約して、抽象化することができればマーケティングとしては非常に強いと思うのです。
ところが、セールスの方は基本的にそういうことへの関心は高いとは言えません。ブランディングがいかに重要かをセールスが身をもって実感してくれるようになると、社内でブランディングを推進する際に非常に強力なサポートを得られることになります。
意外と効くのは、会社最寄りでの広告展開?
田中:社内の意思統一について、うまくいったと思われる事例や印象に残っている事例を教えていただけますか。
瀬戸口:横河電機で「地球の物語の、つづきを話そう。」というキャンペーンを行ったことがあります。このキャンペーンは社員の反応が非常に良く、社内の意思統一にもつながった、よい事例でした。
横河電機は、IA事業で比較的日本では知名度があります。ただ、ライフサイエンスの分野など新規参入領域での知名度はまだまだ低く、特に学生には浸透していない……ということで、人事担当部門と共同でのキャンペーン実施が決まったのです。もちろんリクルートを目的に置きながら、横河のパーセプションを変えたい、広げたいという中長期的なビジョンも持ってキャンペーンを設計しました。実際、これが数年後に策定するパーパス(測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす)に繋がっていくことになります。
田中:社員の皆さんからの反応が良かったというのは、どういった要因があったのでしょうか?
瀬戸口:この時はある程度の広告予算を確保できたので、いくつかの大学がある会社の最寄り駅を含む沿線やソーシャルメディアにも広げて広告を展開したのです。すると、社員から「広告見ました!」という声がたくさん寄せられたんですね。ちょっとしたことですが、インナーブランディングの効果は少なからずあったと思います。
西田:意外とそこは大事ですよね。キヤノンマーケティングジャパンも、最寄り駅が品川なので、品川駅に弊社キヤノンマーケティングジャパンの看板を掲出していますし、直近のキャンペーンでは、会社のすぐ隣にもあるファミリーマートでデジタルOOHを出稿しました。そうすると社員が見て、「誇らしい気持ちになりました」という声をけっこう寄せてくれるんです。社員の納得感とか、モチベーションアップみたいなことは、やはり重要だなと感じます。
田中:なるほど。ちなみに横河電機のパーパス制定も、社内の意思統一に良い影響がありましたか?
瀬戸口:そうですね。特に、このパーパスは全社員で作ったものでしたから。パーパス制定をきっかけとして、自分たちの存在意義を改めて考えるようになりました。横河電機の社員は、どちらかというと裏方、社会インフラを支える黒子という意識が強いのですが、パーパス制定は自社や自己について考える良い機会となった印象があります。