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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

キリンビールの組織改編から7年、「顧客志向」を全社戦略に反映させるため山形氏が行ってきたこと

 ブランド戦略論の第一人者であり、中央大学名誉教授でもある田中洋氏による本連載。第11回は、キリンホールディングス 常務執行役員の山形光晴氏との対談を実施しました。対談のメインテーマは「CMOの役割」について。マーケティングと営業を一体化させるなど、組織改編・カルチャー改革にも尽力してきた山形氏は、キリンでの自身の役割をどのように捉えてきたのでしょうか?

山形光晴氏のキリングループでのミッション

田中:後編では「CMO」にフォーカスしてお話を進めていきます。私は5年ほど前にCMOについて様々な観点から実証実験を行ったことがあります。その際の大きなファインディングスとして、「CMOを置いている企業のほうが、置いていない企業よりも優れた業績を残している」という結果がありました。企業規模や業種などの変数を入れてもなお、CMO設置企業のほうが成長性が高かったのです。

中央大学 名誉教授 田中洋氏
中央大学 名誉教授 田中洋氏

 では、なぜCMO設置企業のほうが業績が高いのか。これを解釈する際に、山形さんにインタビューさせてもらい、お話を大いに参考にさせていただいたという経緯がありました。そこで、今日は「企業の中でCMOが果たす役割」について、改めてじっくりお話ししたいと思って参りました。

 さて、山形さんは現在、キリンビールの常務執行役員でいらっしゃいますが、CMOではないのでしょうか?

山形:社内的にはCMOという呼び方はしておらず、正式にはキリンホールディングスのマーケティング・ブランド担当となっています。ただ、ICT部門も担当していたりするので、海外の方に自分の役職を説明する時には「CMO」や「CIO」を使い分けてお話しすることが多いですね。

 その上で、自分はマーケティングだけを行うのではなく、企業の経営に携わっている人間であるという認識でいます。

キリンホールディングス株式会社 常務執行役員 ブランド戦略・マーケティング戦略・デジタル・情報戦略担当 キリンビール株式会社 副社長執行役員(マーケティング管掌) 山形光晴氏
キリンホールディングス株式会社 常務執行役員 ブランド戦略、マーケティング戦略、デジタル・情報戦略担当 キリンビール株式会社 副社長執行役員(マーケティング管掌) 山形光晴氏

田中:理解しました。では、CMO的な立ち位置にいる山形さんは、自社の中での自分の役割をどのように考え、どのような取り組みをされていますか?

山形:私が現在キリンで目指しているのは、「マーケティングを企業の中心に据えること」です。マーケティングが企業の中心になければ、CMOを設置しても、しなくても、おおよそ意味はないように思います。

 この会社の経営においてマーケティングという機能が本当に必要なのか。会社の成長のために、マーケティングはどのような立ち位置で機能すべきか。そのマーケティングを実現するためには、どういう組織や方針が必要なのか――具体的にはこのようなことを考え、社内改革を進めてきました。

戦略の持続性は1年以下、そんな中でCMOが果たすべき役割とは

田中:では、現代のCMOに求められる力・役割とは、どのようなものだと考えますか?

山形:市場の変化が速い昨今、戦略の持続性は1年も持たないでしょう。そのような中でも、私たちは顧客を第一に据え、その変化を敏感に察知して、アジャイルにアクションを起こしていかなければなりません。リスクを取って、失敗を恐れず、トライしていく。これがマーケティングにできる重要な仕事の一つであり、またCMOの大きな役割は、そのベースにあるマーケティング戦略をその時々でどう変えていくかを考えることだと思います。

 もう1つ、CMOの役割として大切なのは、マーケティングの考え方がない組織にもそれを浸透させること。さらに、その結果として事業成長を成し遂げることです。

 たとえば、先にご紹介した「晴れ風」は、顧客志向のマーケティングをもって成功した事例であり、これにより社内の雰囲気が変わったのはたしかです。私は、こうした成功事例を並べて、顧客志向のカルチャーを社内に根付かせていきたいと考えています。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)など20冊の著書と9...

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MarkeZine(マーケジン)
2024/11/18 09:30 https://markezine.jp/article/detail/47089

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