対談の内容が濃く、1本に収まらなかったため、前後編に分けてお届けしています。本記事の前に前編がありますので、そちらからご覧ください。
芹澤さんが考える、広告会社のブランド戦略
藤平:ここまでで、広告会社のよくない癖や伸びしろが色々見えてきましたが、EBMで考えると、これからの広告会社にはどのようなブランド戦略が必要でしょうか?
芹澤:『戦略ごっこ』で解説している話のいくつかは、そのまま当てはまると思います。浸透率を増やしましょう、顧客関係管理や離反防止にリソースを割き過ぎないようにしましょう、もっと柔軟で広告主に都合のよいメディアバイイングや媒体編成を実現しましょう、など。

でも、それ以前の問題として、結局は「人」だと思っています。施策の成果も、電通に頼むか、博報堂に頼むかというより、その中の「誰に頼むか」でかなり変わる。広告会社って、フィジカルアベイラビリティの部分は電通も博報堂もそこまで変わらないでしょう? そうすると、メンタルアベイラビリティ(想起)での戦いになりますからね。
藤平:つまり、広告会社におけるCEP(〇〇といえば〇〇と想起し、ドアノックされるきかっけ)は「人」になってくる?
芹澤:一周回ってそうなっていくのでは。しかし、いずれも消費財にたとえると、「配荷率はすごく高いんだけど、レレバンスが減少し新興ブランドに押され気味な成熟ブランド」に見えてしまうんですよね。そういう場合、だいたいCEPの陣取りが悪い。
そこで改めて広告会社のCEPってなんだろうと考えると、先駆的なテクノロジーやソリューション、生活者理解のようなインフラ的な入り口も必要なんだけど、やはり「人」だと思うんです。
藤平:なるほど。レレバンスが減少しているというのは、クライアントニーズに対するソリューションとしての相性が悪くなってきているように見える、ということですよね。そして、レレバンスを再度向上させるトリガーは「人」だと。

芹澤:そうです。広告会社って「優秀なクリエイティブディレクターとそれをサポートする人たち」のような格差が大きい印象があります。生成AIの登場でその格差が埋まるかというと、そうではなく、逆に二極化が加速すると思います。
できる人は勝手にパワーアップする。そうでない人はどんどん取り残されていく。そして優秀な1人に仕事が集まり、そういう人ほど独立していく――。
なので、「人(=CEP)」を強化するにしても、「個の能力」が底上げされるような仕組みで対応しないといけないのかな、と思います。そういった社内改革プロジェクトもいくつか手掛けていますが、すごい専門家が1人いるより、社員全員が「広く浅くわかっている」状態のほうがうまく行くんですよ。
さらに言えば、優秀な人を個々で戦わせるのではなく、社内横断的なチームを形成して、メンタルアベイラビリティの高いポートフォリオを発信していくのが賢いブランド戦略だと思うんですが、どうですか?
藤平:個と組織の関係性については完全に同意です。個のベースアップから様々な「出る杭」が生み出され、それがレレバンス向上に効いていく――ただ、ブランド論者としてはそれだけだとDBAが薄れる気もしており……。
弊社であれば、たとえば、CHO(チーフ博報堂オフィサー)のようなポジションを設けて、CEPとなり得る人のストロングポイントや活動を、大きなうねりにまとめ上げるようなところまでやりたいな、と思います。企業単位で1つの大きなCEPをトップダウンするのはちょっと悪手かもしれませんが、ポートフォリオ的にまとめ上げていけると良いなと。