Targetはリーダー戦略に追いつけず、ニッチャー戦略からも離される
「Whole Foods Market」が2017年にオンラインの巨人のAmazon傘下になったことは広く知られている。現在は、Whole Foods MarketがAmazon Prime会員向けの生鮮品宅配戦略の中核を担っており、親会社の資本力とデジタル基盤が小売りチェーンの競争力を大きく増幅させている。王者(リーダー)に乗った戦略だ。
一方でオンライン販売やセルフレジ、デリバリーを導入していない「Trader Joe’s」は、ニッチャー戦略として、くっきりとデジタル投資が事業戦略のすべてではないことを示している。Trader Joe’sは、米国内で店舗数を560まで拡大中だ。この裏には、欧州発のプライベートブランドを武器に、低価格帯で展開する世界的チェーン「ALDI NORD」という親会社の存在がある。Trader Joe’sは、仕入れ力や運営資本といった「強靭な鍋底」をの上に成り立っている。
TargetはAmazonやWalmartのようなリーダーにはなれないまま、かといってTrader Joe’sのような店舗の個性も出せていない。
リテール企業が次の時代を生き抜くための必須条件
リテール業は、仕入れ・在庫管理・陳列・販売といった「モノの移動」を伴う産業であり、デジタル投資は顧客接点だけでなく、商品・倉庫・物流網といったインフラ全体をカバーする必要がある。過去延長の設備やITへの部分的投資では競争優位を築けない。
もはや「実店舗」か「オンライン」かという二項対立ではなく、デジタルと物理が完全に融合したグローバル規模のフルフィルメント・インフラこそが、巨大チェーン店として進むならば競争優位の絶対条件となっている。GAFAMやNVIDIAに代表されるテックジャイアントらへの出資や共同体制を通じた「強靭なエコシステム形成」が求められる。
WalmartがIT投資にアクセルを踏み(Microsoft Azure/OpenAIの利用契約、NVIDIAとの取組み)、店舗数を抑制し、より効率的な配送システムへ移行したのと対照的に、Target の「店舗起点」「自社完結」型の戦略は、コスト削減や雇用確保という一見合理的な判断だが、「レガシー遺産」に縛られたままだ。日本市場で言えば「店頭でのお客様へのおもてなし」にも通じる(参考:ユニクロは2013年から国内店舗数を減らしている)。
しかし、それは長期的には非効率性という「テクニカルデット(技術負債)」を積み上げ、最終的には従業員の士気低下(顧客対応より荷造りを優先せざるを得ない状況)や、来店客の体験悪化を招く結果となった。
日本市場においても、外部トレンドやテクノロジーの模倣ではなく、自社の未来を創造する改革が求められる。その改革が「手作業の維持」「そのほうが早い・安い」「既存店舗の再効率化」「自社に閉じた競争」に留まるなら、限界が近い。
AIデータと物理(商品・サプライチェーン)を融合させ、「自動で集まり、自動で流れるインフラ・エコシステム」を構築することこそが、次世代のリテールチェーンの競争を生き残るために不可欠な決断となる。
