SNS活用が当たり前になった今、発生している「放置アカウント」の問題
MarkeZine:黎明期から15年以上にわたり、事業会社と支援会社の両面でSNSマーケティングに携われてきた佐久間さんですが、企業のマーケティングにおけるSNS活用の課題はどこにあると考えていますか?
佐久間:多くの企業を支援するなかで強く感じるのは、社内でSNSアカウントが乱立し、統制が取れなくなっているという課題です。
2010年頃から活発になったSNS活用ですが、「みんなやっているからとりあえず始めてみよう」とスタートした会社も多いのではないでしょうか。しかし、明確な目的や戦略がないまま「手段」を先行させた結果、アカウントの乱立、トンマナのブレ、投稿クオリティのばらつき、情報の重複などが散見されています。運用者が退職し、パスワードやアドレスさえもわからず、誰も触れることができないまま放置されているアカウントもよくありますよね。
カタログ通販企業にて、13年にわたりマーケティングに従事。2010年のSNS黎明期より、事業会社側の立場からソーシャルメディア戦略の立案・実行を牽引。2019年にNAVICUSへ参画。現在はゼネラルマネージャーとして、マーケター・クリエイター・セールスの各セクションを統括している。
MarkeZine:たしかに、統合的なSNSコミュニケーションは喫緊の課題と言えますね。この課題により、具体的にどのような問題やリスクが生じるでしょうか?
佐久間:大きく2つのリスクが考えられます。1つは、作業工数や人件費が無駄にかかってしまうリスク。大手企業になればなるほど、各部署が重複した発信をすることで膨大なコミュニケーションコストが発生してしまいがちです。
もう1つは、ブランド毀損のリスクです。私はSNSでの「フォロー」という行為を、人の「好き」という感情に紐づく「“無償の”深い繋がり」だと捉えています。その想いを受け取っておきながら、企業側の都合でアカウントを放置し、コミュニケーションを断絶させてしまうことは、ファンからの信頼を反故にする行為だと言わざるを得ません。SNSは企業がエンドユーザーに直接語りかけるものだからこそ、企業はその責任と自覚を、いま一度強く持つべきではないかと考えています。
SNS戦略は「1年後、SNS上でどう認識・言及されていたいか?」から考える
MarkeZine:SNSファーストでコミュニケーションが設計されることも多い今、改めてSNS戦略を見直そうとしている企業も多いようです。SNS戦略の見直し・策定は、どこから始めるとよいでしょうか?
佐久間:まずは「目的」から定めることが大切です。なぜ、何のためにSNSを運用するのかを考えましょう。「手法」や「バズらせるためのハック術」から入ってはいけません。「目的」を軸に据えて、それに寄与するための手法を選び取るのがNAVICUS流の正攻法です。
MarkeZine:NAVICUSならではの戦略設計フレームワークがあればぜひご紹介ください。
佐久間:私たちは「目的(Why)」「戦略(Whoなど)」「戦術(Whatなど)」の順でコミュニケーション戦略を策定しています。「目的」は非常に重要な起点となるため、ときに経営層も巻き込みながら、1~2ヵ月かけて作り込むこともありますね。

MarkeZine:「目的」はどこから導き出すのがよいのでしょうか。
佐久間:「1年後にSNS上でどう言われていたいか」から逆算していくのがおすすめです。たとえば『MarkeZine』なら、「マーケターなら毎週目を通しておくべきメディア」なのか「新卒が入ったらまず読ませたいメディア」なのかで、目指す姿やそのための方法は変わってきますよね。
MarkeZine:たしかに。ちなみに、売上をKPIに設定することもありますか?
佐久間:SNSは直接的な購買というより、認知促進や比較検討フェーズで効果を発揮しやすいツールですので、売上をKPIとすることは少ないですね。購買の前段階として、「好感度」「想起率」といった指標をKPIに設定することが多いです。そのために「どう語られたいか」を重視して設計していきます。
誰でも「SNSマーケター」を名乗れてしまう時代、「メディアマスター」の存在意義
MarkeZine:SNSマーケティングは特に変化の激しい領域です。そういった領域で上流から下流までをカバーして支援するというのは、なかなかにハードルの高いことだと思います。NAVICUSではどのように支援体制を構築していますか?
富田:NAVICUSでは「メディアマスター」という制度を設けています。メディアマスターとは、各SNSの深い専門知識をもち、キャンペーン企画やマーケティング戦略といった多角的な業務を提供できるプロフェッショナル人材のことです。2026年2月現在、メディアマスターはコンサルティングディビジョン内に、私を含めてInstagram2人、X1人、TikTok1人が認定されています。厳格な審査項目によって評価しているため、永続的な役職ではなく、場合によっては降格するケースもあります。
前職はトリマー(犬の美容師)という異色の経歴を持つ。プライベートでのSNS活用やInstagramへの深い知見を活かし、未経験からSNSマーケティングの世界へ転身。2021年4月にNAVICUSへ参画し、2026年4月で入社丸5年を迎える。現在はコミュニティマネージャーとして、自身の「SNSが好き」という熱量を武器に、企業のファンコミュニティ形成やInstagram運用の戦略立案・支援に携わっている。
MarkeZine:審査はどのような項目で判断されるのですか?
富田:マーケターとしての基礎力が20項目、さらにメディアやコミュニティ形成に関する専門分野の項目が23項目設けられており、そのすべてにおいて高い基準を満たす必要があります。単に「知っている」だけではなく、「マーケターとして望ましいスタンスでコミュニティに向き合えているか」「実務においてお客様の期待を超えるコミュニケーションができているか」といった定性面も含めて厳しく判断されます。
MarkeZine:このように厳しい認定制度を設けられた背景も教えてください。
佐久間:現在、SNSマーケターを名乗る人材はごまんといますが、そのスキルや知見の深さは千差万別です。「本当にプロが運用しているのか?」と疑問を感じるケースも正直少なくありません。私たちはそうした「自称SNSマーケター」と明確に土俵を変えて勝負したいと考え、この制度を設けました。SNSマーケティングは小手先のテクニックで乗りこなすものではなく、ブランドの周りに集う人々のコミュニティを築いていくための活動であるべきでしょう。
今後、メディアマスターが直接メインでご支援させていただくメニューなども作っていければと検討しています。
目的ドリブンで、媒体特性×コンテンツ×アルゴリズムを掛け合わせていく
MarkeZine:さて、富田さんはInstagramのメディアマスターだとお聞きしました。Instagramを含めたSNS戦略を策定する際、富田さんはどう考えていきますか?
富田:私たちが特定のプラットフォームありきで戦略を組むことはありません。企業ごとの目的や状況に合わせ、最適なプラットフォームを手段として提案します。
たとえばInstagramなら、「世界観や空気感を伝えたい」「ブランディングを強化したい」といった目的に適しています。Instagramユーザーがブランドのアカウントに求めるのは、「憧れ」や「少し背伸びした理想」。ポジティブな読み物コンテンツやリール動画を投稿することで、ストック型のファンダム形成に寄与できるでしょう。
一方で、情報の拡散性が高く、バズを起こしやすいXでは「本音が見える」「ツッコミの余白がある」ようなコンテンツが好まれやすいです。Instagramが「未来」なら、Xは「今」を生きるメディアと言えるかもしれません。
このように、各プラットフォームの特性と、ユーザーが求めるコンテンツ、そして最新のアルゴリズムといった要素を掛け合わせ、目的に合った手法かどうか見極めることが大切だと考えています。
MarkeZine:ちなみに、富田さん自身Instagramが好きだったりするのでしょうか?
富田:実はそうなんです、前職はまったく畑の違う仕事に就いていたのですが、当時から仕事の延長線上でInstagramで発信していました。NAVICUSに入ったのも「とにかくSNSが好きで、SNSを仕事にできないか?」と考えたのがきっかけです。自分の好きなことを仕事として追究できる日々はとても楽しいですし、やりがいもあります。何より、その分成果も出やすいように感じますね。
SNS担当者が悩む「社内政治」。全社が納得し、評価できるKPIの立て方とは?
MarkeZine:2026年3月に開催される「MarkeZine Day 2026 Spring」では、富田さんが実際に支援されている大王製紙様とともに登壇されますね。当日お話しされる内容を少し教えていただけますか。
富田:NAVICUSの大切なお客様であり、私自身のマーケターとしての成長機会をくださった大王製紙様をゲストにお招きし、「売上貢献のためのファンづくりSNS戦略」を紹介させていただく予定です。
セッションで議題とするのは、多くのSNS担当者様が直面している「SNS運用が社内で“成果”として正当に評価されない」というお悩み。自分はSNSのフォロワー増加に大喜びしていても、いざ会社に報告すると「フォロワーが伸びて売上は伸びるの?」と、なかなか活動の価値を認めてもらえないという声は本当によく耳にするものです。
組織を巻き込み、味方を増やして、仕組み化していくという点において、当日は再現性の高いヒントをお伝えできるのではないかと思います。
3月開催の「MarkeZine Day」で大王製紙「エリエール」事例を紹介
3月3日(火)13:40~14:20
孤独になりがちなSNSの担当者を元気に・前向きにしていきたい
MarkeZine:最後に、NAVICUSとしての今後の展望についてお聞かせください。
佐久間:企業SNS担当者はどうしても孤独になりがちです。そうした担当者様が利害関係を超えて悩みを共有し、明日からの運用に前向きになれるような「居場所」を、NAVICUS起点で作っていきたいですね。事業会社に“元気な”SNS担当者が増えるとよいなと願っています。
富田:そうですね。その具体的な施策の一つとして始動したのが「SNS Talk Lab」です。「SNS Talk Lab」では、企業のSNS担当者様にお集まりいただき、最新のアルゴリズムやアップデート情報を共有したり、日々の運用における具体的なお悩みを「公開壁打ち」したりといった、実践的な参加型コンテンツを企画しています。
単なる勉強会に留まらず、企業様同士の横のつながりを作っていただくことで、新しいコラボレーションのきっかけが生まれるような場所にしていきたいです。

