「つくる力」の民主化がもたらす、ブランドの危機
画像も文章も音楽も、かつては専門的な技術を要した表現がいまや誰もが数分で生み出せる。ブランドのビジュアルやプロダクトのコンセプト設計すらAIが提示する時代において、「つくること」自体の希少性は確実に薄れている。
この変化は、ブランドの前提を揺さぶる。優れたプロダクトや洗練されたクリエイティブを生み出す力は、もはや企業だけの特権ではない。似たような表現や体験が溢れるなかで、単に“よくできたもの”を出すだけでは差異化は困難だ。では、これからのブランドが持つべき真の資産とは何か。その答えは、「誰が、どのように関わっているか」という関与の設計に隠されている。
「何をつくるか」から「誰とつくるか」へ。価値の源泉は“関与”に移動した
創造の技術が広く解放された結果、差異を生む軸は静かに移動しつつある。「何をつくるか」よりも、「誰が、どのように関わっているか」が意味を帯び始めているのである。この変化は、いくつかの企業の具体的な取り組みにすでに現れている。
Škoda──プロダクトの決定権を開く
チェコ発の自動車メーカーŠkoda(シュコダ)は、欧米最大級のコミュニティサイト「Reddit」上の車好きが集まるコミュニティ「r/CarTalkUK」と連携し、主力車種Octaviaの特別仕様モデルを共同設計するプロジェクトを実施した。
同社はまず、コミュニティ内でテストドライブ参加者を募り、実際に車両を体験してもらった。そのうえで、エンジン仕様、内装デザイン、装備オプションに至るまで複数案を提示し、投票によって仕様を決定する形式をとった。ユーザーは単に意見を述べるのではなく、実際の製品仕様を選択する立場に置かれたのである。
結果として、Reddit上でのŠkoda関連言及は約46%増加。さらに、該当モデルの注文数は想定比で255%増となったと報告されている。同キャンペーンはカンヌライオンズでの受賞にもつながった。
ここで開かれたのは、プロダクトの決定権である。企業が設計し、消費者が選ぶという従来の構図は、一部とはいえ逆転した。
Feeld──表現の主語を共有する
次に、英国ロンドン発のデーティングアプリFeeldである。多様な関係性やセクシュアリティを前提とする同サービスは、コミュニティの存在をブランドの中心に据えてきた。
2023年のリブランディングにおいて、Feeldはユーザーを単なるインサイト源として扱わなかった。実際のユーザーを制作プロセスに組み込み、撮影キャストもコミュニティから公募。さらに、制作チームには当事者であるユーザーが参加し、ブランドのトーンやビジュアル表現に直接関与している。
これは「ユーザーの声を反映した」ブランディングではない。ユーザーが語り手となったブランディングである。つまり、ここで開かれたのは、ブランド表現の主語である。企業が語るブランドから、コミュニティが共に語るブランドへと構造が移っている。
Nothing──経営と資本を接続する
コンシューマーテック企業のNothingは、さらに踏み込んだ構造を構築している。象徴的なのが、コミュニティ代表が取締役会に参加する「Community Board Observer(CBO)」制度だ。ファンが直接経営陣に声を届け、その内容をコミュニティへ報告する。加えて同社は、一般の支持者に株式投資の機会を開放する「Community Investment」を実施。シリーズCでは評価額13億ドルに達する成長を遂げた。
Nothingが開いたのは、マーケティングの枠を超えた「ガバナンスと資本」である。ファンはもはや消費者ではなく、構造の内部に組み込まれた当事者となっている。
