QOが実施した全国3万人への大規模調査から、生活者と生成AIとの関係性を可視化する本連載。第2回では、日本全体の約67%が生成AIを利用していないという現状から、未利用者が利用に至らない理由を「4つの壁」という構造で整理しました。では、一度使い始めた生活者に生成AIはどの程度定着しているのでしょうか。現利用者5,150人に目を向けると、「週1回以上利用」が82%、「ほぼ毎日利用」が28%を占め、AIが“日常”に組み込まれている様子が見えてきます。第3回となる今回は、この生成AI利用の「定着」に着目。生活の様々なシーンで、どのような条件から利用が定着していくのかを探ります。
※本記事内で指すAIサービスとは、対話型AIプラットフォームや画像・動画生成AIなどアカウント登録型のサービスを指しており、検索エンジンのAIモードや音声AIアシスタントなどのサービスは除外しています。
ライフステージだけでは見えない、AI利用の「定着条件」
生成AIの利用実態を語る際、「若者ほどよく使う」「ビジネスパーソンは仕事で活用する」といった属性別の整理は少なくない。もちろん、今回の調査でもライフステージによる違いは確認できた。しかし、ライフステージをそのまま分析単位にすると、本質を見落としやすい。
たとえば、仕事と育児を両立する生活者を考えてみたい。仕事では、AIは資料作成などを支援する効率化ツールとして使われる。帰宅後は、冷蔵庫に残った食材から献立を考える家事支援ツールになる。さらに子どもを寝かしつけた後には、育児への不安や悩みをはき出す相談相手として使われることもある。同じ人でも、AIに求める役割は、一日の中で変化する。
つまり、ライフステージは「どのような生活文脈に置かれやすいか」を規定するが、AIとの付き合い方を決めているのは、その瞬間の生活文脈である。では、各生活文脈の中で、AIは何を担うことで「なくなると困る」存在になっているのだろうか。調査結果を読み解くと、AIの定着を左右していたのは、単なる機能の便利さではなく、その生活文脈特有のどのような“負荷”を肩代わりしているかだった。
そこで今回は、ライフステージごとに特徴的に表れたAIの使われ方を、「生活文脈」という視点から捉え直す。学び、仕事、家事など各文脈でAIがどのような負荷を引き受けることで、日常に定着しているのかを読み解いていく。
4つの生活文脈から見える「定着条件」
学び・自己整理の文脈──「思考の伴走者」としてのAI
学びながら、進路や人間関係、自分自身について考える機会が多い生活文脈では、AIは情報を得るだけでなく、思考や感情の整理にも使われている。
こうした特徴が強く表れたのがZ・α世代だ。AIを利用するZ・α世代の約半数が悩み相談・雑談に利用しており、全体平均(37%)を上回る。「もし明日AIがなくなったら何に困るか」という問いに対しても、「悩みやつらいことを相談できる相手がいなくなることが不安」「気持ちを言語化できなくなる」「自分の思考に整理がつきにくくなる」といった声が数多く寄せられた。
背景には、進路や人間関係、自己理解など、明確な正解のない問いと向き合う生活文脈がある。そこでは、答えを得ること以上に、迷いや感情を言葉にしながら考えを整理することが求められる。Z・α世代はこうした状況に置かれる機会が多い。また、人間関係の中で発生する評価や反応などのリスクを背負わず、本音を言葉にできることも利用を後押ししているのだろう。
一方で、AI依存への葛藤も見られた。定性調査では、「AIに頼ることで、自分で考える力が衰えるのではないか」といった声が多く挙がっている。便利さを実感しながらも、思考そのものを委ねることにはためらいを感じているのである。
それでもAIを手放せないのは、相談相手を失うだけでなく、安心して思考や感情を整理し、自分自身と向き合える場を失うことへの心理的負担が大きいからだ。安心して考えを整理できる“思考の伴走者”として機能することで定着がみられる。
この記事は参考になりましたか?
- リサーチから読み解く、AIと生活者の「共生」のいま連載記事一覧
- この記事の著者
-
千場 明美(センバ アケミ)
QO株式会社 マーケティングコンサルティング本部 リサーチコンサルティング部
事業会社を経て、2020年にQO株式会社(旧H.M.マーケティングリサーチ)へ参画。小売・食品系企業のKPIマネジメントやアドホック調査、広告キャンペーンの効果測定をメインに担当。2026年よりリサーチコンサルタント職として、...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
